第三百九十二話 幕間(女忍者)
「さて、今日も夕食後の筋トレをする。お前たちはどうする?」
現在復興中のカクレテールの仮設エリア。夜空の下で地べたに座って食事をしたり、談笑したりしている中で、マチョウさんが立ち上がってそう声を上げると、ハニーの友人である男の子たちが一斉に手を上げた。
「当然だ、オラぁ!」
「夕食後のトレーニングは効果的なんだからね!」
「ま……いちおう……」
「僕ももっと痩せてムキムキになるんだな!」
「僕たちも行こうよ、リヴァル。僕も魔法だけじゃなくて、もっと筋力付けないとね」
「無論だ。俺も更なる速度の剣を支える腕力が無くてはな」
オラツキくん、モトリアージュくん、モブナくん、ブデオくん、そしてフーくんとリヴァルくんは少々下品にお皿の食事を勢いよくかき込んで、マチョウさんについて行ってる。
特に、フーくんとリヴァルくんは昼間は師匠のしごきに加えて、復興のための力仕事をしたりの生活を毎日しているというのに、よくやるわね。
でも、それだけ彼らにとって「強くなりたい」という想いが強いということにもなるわけだけど。
「やれやれ……と言いたいところだが、我も見習わねばな」
「ふふふふ、そうですね……坊ちゃまに追いつくためにも……ですね。姫様だって、コッソリ深夜まで槍を振るってらっしゃるでしょう?」
「……サディスだって、ずっとヴイアールトレーニングしてるくせに」
「あら、バレていましたか…………少々リフレッシュにも使ってますが……」
そんな男の子たちを私と同じように微笑ましそうに見ているフィアンセイ姫とサディスさん。ただ、そんな彼女たちもまた何だかんだでずっと己を鍛えながら働く日々を過ごしている。
「なぁ、サディス。それにシノブも。我らも食後の運動を兼ねて、たまには模擬戦でもしてみぬか?」
「あら。お風呂に入るのが遅くなりますねぇ」
「う~ん……そうね……」
カクレテールの復興作業に従事しながら、師匠……冥獄竜王バサラ様の下での修行は非常に充実。
ハニーが過ごしたこの地の人たちは、皆が気持ちの良い人たち。本来余所者の私のことも普通に受け入れてくれた。
六覇のヤミディレを慕っていたという言葉だけならば世間的には眉を顰めるようなものだけれど、そのヤミディレや我が好敵手クロンさんという支柱を失い、土地も天空族の襲撃で甚大な被害を受けたというのに、彼らは皆が顔を上げて前を見て日々頑張る姿は「私も何かしなければ」と思わされるわ。
兄さんたちと家出をし、その後はハニーの後を追いかけるようにして別行動。本来一つの土地に留まることはあまりない私だけれど、気付けばハニーも居ないこの土地で随分と過ごすことになってしまったわね。
でも、ハニーと隣に立って共に戦えるぐらいの力を身に付けるためにも……何よりも……
「シノブおねーちゃんはダメ!」
と、そこで私の腕にしがみ付いて来る小さな手。
「シノブおねーちゃん。一緒に……おりがみしよ……」
ウルウルと訴えるような目で見上げてくる……かわいい……思わず抱きしめてしまう。頭を撫でてしまう。
「あら、すっかり気に入ってしまったのね。いいわよ」
「ん! あとね、あやとりも! あとねあとね……せっせっせーのよいよいっていうのも!」
「ええ、何でも構わないわ」
夕食を終えて、このまま体を休めるか、それともイメージトレーニングかフィアンセイ姫たちと自主トレでもしようかというときに、トコトコと歩み寄ってきておねだりしてくる小さな女の子。
ハニーの妹分でもあるアマエ。
かわいいのよ!
「いやー、アマエもすっかりシノブさんに懐いちゃったっすね~」
「ほんとかな。女神様、大神官様、そしてアースくんがいなくなったばかりのときは、夜とか寂しくて泣いちゃってたけど、すっかり元気になったかな」
そんなアマエの姿に微笑ましそうにしている、カルイとツクシさん。
二人の言う通り、ハニーたちと別れた日、アマエは「がんばってつよくなる!」って張り切っていたけど、ふと目を離すと一人隅っこで泣いていたりと、元気がないときがあった。
ハニーの妹であれば、将来的に私の妹になり、いずれ私が出産するサスケとサクラの叔母にもなるわけだから、私がちゃんとケアしないとと張り切り、ジャポーネの伝統的な遊びを教えてあげたりしていたら、すっかりなつかれてしまい、そしてそれがまたとても可愛らしくて私もついつい構ってしまうようになった。
「ぬ、むぅ……」
「というわけで、フィアンセイ姫。私は『ハニーの妹』と遊んでいるから、せっかくのお誘いだけれど……」
ちょっとだけ勝った気分で私がそう言うと、フィアンセイ姫はちょっとむくれているわね。
「な、なぁ、アマエよ。その……たまには我とも遊ばないか? ど、どうだ?」
「ん~?」
そして、ちょっと焦ったようにアマエに尋ねるフィアンセイ姫……だけど……
「や。フィアンセイお姉ちゃん、遊ぶの下手。つまんない」
「ふぐっ!? じゃ、じゃあ、お、お勉強はどうだ? 勉強を教えてやるぞ?」
「もっと……やっ!」
「はぐっ!?」
こんなに可愛いうえにハニーの妹であるならば、仲良くしたいという思いがあるようだけれど、どうもフィアンセイ姫はまだアマエとは打ち解けられていない様子。
ガックリと肩を落として本気で落ち込んでいるわね。
「あらあら、アマエも厳しいですね~」
そんな様子をサディスさんも苦笑しながら哀れんでいる。
ちなみにサディスさんは、ハニーと同じで長い間この地で暮らしていたこともあって、アマエとも普通に打ち解けているので、こういうところで対抗意識を出さないし、余裕の様子。
「でも、アマエがシノブさんに懐くの分かる気がするっすよ。シノブさん美人ってだけじゃなくて、ぶっちゃけ何でもできるじゃないっすか。頭いいし、医療の知識とか、料理も裁縫も……まあそういう何でもできるって点ではサディスさんとも同じっすけど、サディスさんと中身のジャンルが違うっていうか……」
「うん。それは私も思ったかな。折り紙、あやとり、コマ、竹とんぼ、お手玉とか私たちの知らない遊びを教えてくれるだけじゃなくて、道具も簡単に作っちゃうぐらい手先も器用で、料理だって調理方法とか味付けとかも違う。お昼の差し入れのオニギリとか玉子焼きとか大好評だし、この前の夜に皆でやった浜鍋ってのも絶品だったかな」
そんな中で私をべた褒めしてくれる、カルイとツクシさん。何だか照れてしまうわね。
まぁ、実際私は何でもできて、美人度も誰にも負けない自負はあるので当然……だけれど、ハニーと親しい人たちに認められると、素直に心が温かくなるわ。
一方で……
「ぐぅ……わ、我は……料理はできん……いつも王宮ではコックが……裁縫もやったことは……工作も……う、ぅぅ……」
「姫様……もしよろしければ、私が裁縫と料理ぐらいなら教えましょうか?」
目に見えてガックリと肩を落として落ち込むフィアンセイ姫。
実際のところこの地の復興に一番貢献しているのは、帝国からの資材運搬の指示や調整をしたり管理している彼女なのだけれどね……
「ね、シノブおねーちゃん、いこっ」
「はいはい」
まっ、そんなフォローをしたところで、フィアンセイ姫が喜ぶはずもないし、私にフォローされることは逆にプライドが傷つくタイプだと思うので言わないけれどね。
そんな彼女を後にして、私はアマエと……
「姫様、遅くに申し訳ありません!」
と、そのとき、一人の帝国戦士が焦った様子で現れた。
「ん……なんだ?」
「それが、本国より急報が。一度、船にいらしてください……あと、フー・ミーダイも」
「フーも?」
あら、何かあったのかしら? 資材搬入のゴタゴタ? いえ、そんな様子には見えな……ん?
「あっ……ちょっと待って、アマエ」
「?」
一方で、私の方にも……私の頭の中にも……
――シノブ……拙者だ……フウマだ
これは、互いの体に印を刻んだ同士であれば離れた場所からでも会話可能な術。
私とコレが出来る相手は兄さんだけ。ハニーが忍法使えればハニーとも……って、そうではなくて……珍しいわね。
何かあったのかしら?




