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禁断師弟でブレイクスルー~勇者の息子が魔王の弟子で何が悪い~  作者: アニッキーブラッザー
第六章

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第二百七十五話 癇癪

「お兄ちゃんッ!!??」

「お、おい、血が!」

「ただの喧嘩じゃねえぞ、どうなってんだ!?」

「そ、それに、あの男、コジロウって……七勇者の!?」


 俺が右のスマッシュを振り上げた瞬間、拳に伝わった感触はコジロウがかぶっていた藁の仮面を吹っ飛ばしたもの。

 同時に、俺の右腕に僅かな熱……薄皮を斬られた……問題ねぇ!

 

「よう、初めましてこんにちは!」

「ッ、お、お……」

 

 粉々に砕け散った藁の仮面の下から現れたコジロウの素顔。

 長い黒髪を前髪から全て後ろにまとめ上げた、渋い感じのオッサン。

 その両目は閉じられて、その頬は今の俺の拳で僅かに切れていた。

 

「もう一本……」

「ッ!?」

「ぶっとべよぉぉ!!」

 

 追撃の左フック。当た――――

 

「脱兎!!」

「……あっ……」

 

 次の瞬間、コジロウは俺の左拳が放たれる寸前に、背中を見せて逃げた……そのため、俺の左は空振りしてしまった……

 

「ちょ、お、おいおい……」

 

 恥も外聞もなく……っていうか……

 

「な、何逃げてんだよッ!? 七勇者だろうが!」

 

 まさか、七勇者が俺の前から背中を見せて堂々と逃げるとは思わなかった。

 するとコジロウは、口元に笑みを浮かべ……

 

「勇者ぁなんてオイラにとっては人が勝手につけた言葉……オイラがどうして長年戦争しても生きていられたと思う?」

「な、ぬ……?」

「目が見えないからこそ、オイラは人よりも危険を感じ取ることができる……ようするに逃げるときは人の目を気にしないで恥をかいてでも生きることを優先しているからじゃない♪」

 

 それは、俺が「戦士たるもの命を惜しまず戦う」とガキの頃から分からないなりに想像していた戦士像とはかけ離れた……

 

 

「死なねえことが、オイラの武士道と見つけたじゃない」

 

 

 だからこそ、ここまで開き直られると俺も何も言えずに言葉が詰まってしまったが……


「大魔フリッカー!」

「おお、こらこらこら、まだ決め顔の最中じゃない!」


 仕切り直しはさせない。

 相手の体勢が整わないうちに攻め込む。


「ったく、勘弁してほしいじゃなーい!」

「あ、だから逃がさねえって……!」

「く~……抜刀術の構えをしている暇がないじゃない……」


 しかし、コジロウはまた逃げる。

 俺に対して剣でカウンターの体勢を整えられないと見るや、その感知能力を使って逃げる逃げる……


「待てって! ら! おら! うらぁ!」

「スピードは敵わないけど、先読み駆使して逃げ回るだけなら何とかなるじゃなーい!」

「こ、こいつ……」


 飄々として……だが、実際に捕まえられないのも事実。

 ブレイクスルー状態の俺の方が速い。たぶんパワーもある。

 だけど、動きが読まれる……なるほど……感知を極めた……か……


「ん? ちっ……」


 って、逃げ回られまくっていた所為でブレイクスルーが途切れる……だけど……


「すー……はー……」


 魔呼吸で即座に魔力を元に。


「……ん? 今のは……魔力が……な、に!? 魔力が回復されて……!?」


 すると、コジロウは今のもちゃんと感知したようで、同時に驚いた様子。



「……魔力による身体強化……しかし、魔力消費が激しそうだったので、逃げ回ってその魔力が途切れた瞬間を狙おうとしたら……回復したじゃない……そんなこと可能? 聞いたことないじゃない……マジで何者なのか、めっさ気になりすぎるじゃない」


「おら、何をブツブツブツブツ言ってるんだ!」


「瞬間的な魔力回復は脅威過ぎるじゃない……いや……しかし、今の魔力回復のタイミング……回復の瞬間はそれに集中して明らかに無防備だったじゃない……次、その隙を見せたら……」



 コジロウにまたさっきのように張り詰めた集中状態で剣を構えられたらカウンターで斬られる。

 その前に叩く。

 なんかブツブツ呟いているようだが関係ねぇ。

 


「お兄ちゃんを斬った……コジロウ……お兄ちゃんを斬った!」



 ……ん? って?!


「ぬおっ!?」

「うおわ!?」


 その時だった。

 俺とコジロウの間に……というより、コジロウ目がけて何かが飛んだ。

 それは大きめの樽で、中身も入っている。

 それが浮遊し、コジロウ目がけて飛んだのだ。


「あ、危ないじゃない!」


 急な不意打ちとはいえ、ちゃんと回避したコジロウ。

 だが、その視線の先には……


「オニーチャンを……キッタ……キッタキッタキッタキッタキッタキッタ……」


 飲食店の前に数十個ほど置かれていた……と思われる樽。

 それを全部浮かせてコジロウを睨みつける……


「え、エスピ?」 

「おっとぉ、これもまたすごい危険じゃない!?」

 

 エスピが、怒り狂った形相で……なんか、ものすごい空気がバチバチと静電気が走るぐらい痛く、全てを破壊するかのごとくプレッシャーが広がり、見物人たちも含めて皆が顔面を蒼白させている。



「オニイチャンヲキッタ! ユルサナイ! コジロウシンジャエッ!!!!」


「え、エスピ嬢!?」

 

 

 幼いからこそ、今まで色々と我慢をしてきたからこそ、その枷が外れたら感情の赴くままにブチキレるエスピ。

 これは、まずい!

 

「ま、まず!? お嬢、ほれ、降参じゃない! オイラぁ、嬢のお兄さんに降参するじゃない! ほれ、武士の誇りの刀はそこらへんにポーイって捨てるじゃない? ほら、これでオイラぁ危険ではないじゃない!」


 コジロウは苦笑しながら刀を投げ捨ててアピールする。おい、剣士のくせにそれでいいのか?

 だが、エスピの耳には届いていない。


「シンジャエ……コジロウ、シンジャエ!!」

「あ、あららららら~?」

  

 今まで「ぶっとばす」だったのに、「死んじゃえ」とはよっぽどのことだろう。

 だけど……

 

「エスピッ!」

「ッ……あ……」

「ほら……いいこいいこ……」

「あぅ……あ……」

 

 エスピが力を振るう前に、俺はエスピを正面から抱きしめて頭を何度も撫でてやった。

 するとエスピはハッとして、溢れ出ていた力みたいなのが大人しくなっていった。

 

「……おにーちゃん……」

「エスピ、いいこだからやめろ。俺は大丈夫だから」

「……でも……あいつ、お兄ちゃんを……」

「大丈夫。な? だからもういいだろ?」

「……うぅ……」

 

 暴れるのは止めることができたが、エスピはまだ納得いっていないのか不満の様子。

 でも、流石にここで七勇者同士の喧嘩はやめて欲しいので、俺も必死に説得する。

 

「あと、『死んじゃえ』とかお前は使っちゃダメだ……絶対にだ……」

「……だめ?」

「そーだ。俺と一緒に居たいなら……死んじゃえとか軽はずみに言うなよな?」

「……うぅ……」

「じゃなきゃ、連れてかねぇぞ?」

「ッ!? わかった! 言わない! もう言わない! 言わないよぉ!」

「おし」

 

 ようやく落ち着いたか……はぁ……子供ってのは大変だな……俺もいつかクロンとかシノブとかサディス……って、おいおい、何を俺は同時に複数の名前を……

 

 

「ぷっ……くくく」


「ん?」


「だーはっはっは、まいったまいった! こりゃ本当に、オイラの負けじゃなぁい!」



 そのとき、コジロウは盛大に笑いながら、地べたに胡坐をかいて手を叩いた。

 

 

「よし、ムリムリ! もう諦めるじゃない!」

 

「……は?」

 

「いや~、これほどとは思わなかったじゃないの。こっちもあらゆるものを賭けて挑むレベルの相手……仮に勝ててもこっちも無事に済まず、エスピ嬢にも泣かれてぶっとばされちゃうじゃない」

 

「な、え……」


「そして何よりも……いつも仏頂面で心の中で泣いていた嬢に何もしてやれなかったオイラたちと違って、お兄さんはその心を救った……同じ男として、そんな奴にゃあオイラはもう刀を向けられないじゃない」



 そう言って、コジロウは放り捨てた剣を鞘に納め、俺とエスピに笑顔を向けて、グッと親指を突き立ててきた。


 

「だからエスピ嬢、あとのことはオイラに任せて、お兄さんと楽しくどこへでも行ってくるじゃない!」


「コジロウ……」


「何者かは知らねえが、このお兄さんは信用できる……オイラはそう思ったじゃない」


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【新作・俺は凌辱系えろげー最低最悪魔将】
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