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禁断師弟でブレイクスルー~勇者の息子が魔王の弟子で何が悪い~  作者: アニッキーブラッザー
第六章

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第二百六十四話 遭遇

 吸い込まれ、しかし徐々に再び外へ出るような感覚と共に、俺を包んだ閃光が晴れた。


「ッ、ここは……森?」

『うむ、先ほどと同じ森……だが、少し……いや、色々と変わっているな』


 辺りは既に薄暗かった。一度目にした森かと思ったが生えていると木とかが所々違って見えたので、仮に同じ場所だとしても同じ時代じゃないんだろうなというのは感じた。

 だが、そんなことより俺が気になるのは、この空気。


「ッ……居るな……」


 思わず小声で身を屈める。

 そう、違うのは風景だけではない。

 明らかにこの森の中から発せられる空気が違う。

 漂うのは殺気。

 そして、目に見えなくても何となくだが分かる。

 この森からは、夜の闇に紛れ、複数の気配が辺りから感じる。


『こういう時こそマジカルレーダーを使えれば……だが、その感覚は間違っていない。だいぶ殺気に満ちた連中がな……そして余には……懐かしい空気を感じる』


 トレイナの口角が鋭く吊り上がっている。

 まるで、武者震いでもしているかのように……


「おい……いたか?」


 ッ?! 


「いや、こっちにはいない。なんか光ったと思ったんだけどなぁ……」



 声が聞こえ……明らかに声の質が堅気じゃない。

 俺は息を殺して森の茂みに隠れて様子を伺う。


「他の侵入者は?」

「十人いたが、それは全員始末した」


 ちょ………お、おいおい……


『……落ち着け、童……』


 思わず声に出して驚くところだった。

 あまりにも平然と「始末した」という会話をしているからだ。

 それが何かの例えではなく、直接的な「殺した」という意味だというのは俺にも直感で分かった。

 この声の主、そしてこれだけの殺気や血の匂いを漂わせている奴ならヤル。そう思わせるに十分なほどだった。


『童。体を動かさず……ゆっくりと頭と眼だけを動かして……声の主を見ろ。音を立てるな。声も絶対出すな。人ではない。魔族の兵だ』


 うつ伏せのままだった俺は、トレイナに言われた通り、細心の注意を払って少しだけ頭を動かして、声がした方へ眼を向ける。

 するとそこには……


「ってことは、あとは『将軍』にふっとばされて逃げたあのガキを捕まえるだけか」

「そうなるな」

「でも、もう逃げてるんじゃねえのか?」

「バカ。将軍も言ってたろ? 吹っ飛ばした時の手ごたえで、奴は死んでねぇって。でも、逃げられるほど傷も浅くないってよ」

「そーだけどよ」

「ぼやくな。これで奴を捕獲すりゃ、俺たちには褒美が出るぞ?」


 重厚な鎧を纏い、巨大なアックスを持ち……二足歩行ではあるものの、人間ではなく……巨漢の……


『……サイ?』

『ふふふ……犀人族……』


 間違いなく魔族の……しかも……


『この鎧は間違いない。魔王軍の兵だな』

『ッ!?』


 なぜここに魔王軍の兵が居る? いや、そんなこと考えるまでも無い。


『どうやら……帝国の領土の一部で、魔王軍と戦争中のようだな……』

『そ、そんな……』

『とはいえ、それは何度もあったから……どの時代か……』


 戦争。これまで何度も、教科書とか、親父や大人たちの昔話の中でしか聞いたことのない単語だ。

 俺はいつもそれを「俺が生まれる前の話」とうっとおしがった。

 でも、その戦争というものが……


『って、待てよ! ここで戦争!? じゃあ、村は? おばあちゃまや親父や母さんが!』


 ここが、俺がさっき居た場所の何年前なのか、それとも数年後の世界なのかは分からない。

 だけど、もし戦争がここで起こっているなら、この近くの村に住んでいた俺の―――


『落ち着け。貴様のおばあちゃまも、ヒイロもマアムも無事に決まっているだろう。というか、祖母は終戦後も生きているのだろう?』

『あっ、そっか……ここで何が起こってたとしても、三人とも無事なんだ……』


 思わず焦っちまったが、確かにトレイナの言うとおりだった。

 ここはあくまで過去の世界であり、親父たちは現代でも生きてるんだ。

 だったら、何が起こっても……


「とりあえず、さっさと片付けちまおうぜ……侵入者を……なぁ?」

「ああ……そうだ……なぁ?」


 ん? なんだ? 急に荒っぽかったサイ人たちの声のトーンがちょっと静かに……ッ!? 目が合っ―――!?


『童、逃げろ! バレているぞ!』

「ちっ!?」


 気付かれている。全身がゾクッと震えながらも、俺は即座に体を起こして後ろに飛び退いた。


「おらああああ! ……ちっ……」

「やれやれ、仕留めろよな~、一発で。……で……」


 俺がうつ伏せになっていた場所に深々と突き刺さるアックス。

 その衝撃で土が割れ、生い茂っていた茂みも吹き飛んだ。


「ちっ、あのガキじゃねえか……とはいえ、侵入者がまだいたか……ドギタネエ連合軍が……」

「お前も俺らの陣に忍び込んで、将軍を暗殺しようだなんてセコイことしようとした、連合軍のカスか?」


 目が合い、一瞬で戦闘モード……いや、違う。戦闘じゃねえな。

 二人の魔族に睨まれて感じる空気は、これまで俺が経験した戦闘とは違う。

 相手を倒すんじゃない、いたぶるんじゃない、ただ殺すための戦争だ。



「まっ、連合軍といってもその中でも更に下衆……『ベトレイアル王国』のやつ等だからタチが悪い」


「手柄欲しさに将軍暗殺なんてしようとしやがって……しかも、いくら強いとはいえ、あんなガキと将軍をぶつけて、最悪相打ちにさせようとか、下衆な奴らの発想は怖いぜ」


「だが、それもここまで。テメエもぶっ殺した仲間たちの所へ、すぐに逝かせてやるよ」


「それとも、あのガキがどこに隠れているか教えたら……捕虜にするぐらいに留めてやってもいいが?」



 にしても、こいつらは俺を連合軍と勘違いしている? しかもベトレイアル王国?


『おそらく、ここに陣を張っていた部隊の将軍に夜襲をかけて暗殺しようとしたのだろう。しかし返り討ちに合い……それが、連合軍の指示か、それとも独断かは分からぬが、実行したのがベトレイアル王国の連中だったと……』


 そして、他にもまだ生き残りがいるみたいで、俺もその一人と勘違いされて……あ~、めんどくさ……。

 さて、どうする?

 こいつらはそれなりに強いだろう。

 ましてや、この初めて体感する戦争モードの空気に俺の身体も少し硬くなってるかもしれねえ。

 でも、ヤミディレやパリピの足元にも及ばねえだろうし、見た感じ今の俺なら……


『……倒す?』

『いや、それがどの程度の影響になるか分からぬし……ここは……』

『分かった』


 とにかく、ここが過去の世界であるという以上、余計なことは極力しないに限る。

 トレイナと話し合ったうえで、俺はこの状況から無駄口叩かず……



「んじゃ!」


「「あッッ!!??」」



 回れ右してそのまま森の奥へと逃げることにした。

 

「っ、ま、待ちやがれテメエ!」

「んの、暗殺なんて外道なこと仕掛けて、失敗したらトンズラか? この卑怯者どもが!」


 お~、なんかものすごい罵倒の声が聞こえる。

 あのサイも重い体をドスンドスンさせながら……って、を!?


「おお、すげ。大木とかの障害物構わずまっすぐ突き進んで……全部なぎ倒してるよ!」

『あれが、犀人族のパワー。まっすぐ突進することにより生み出されるパワーはすさまじいものだ』

「へぇ……でも、マチョウさんやアカさん見た後だとなぁ……」

『油断するな。鈍重ゆえに初動は遅いが、突進するにつれて奴らは加速する。マジカルパルクールで突き放せ』

「りょーかい!」


 戦時中の魔王軍の一兵士の力を見ることが出来た。これはなかなか貴重な経験だな。

 

「で、あの二人は知ってるやつか?」

『知らん。魔王軍がどれほどの規模だったと思っている』

「はは、だよな……」

『それに、戦時中は領土を取られたり取り返したりの繰り返しで、これがいつの戦争かまでは余にもまだ……せめて将軍の名前さえ分かれば……』


 とりあえず、トレイナの知り合いとかそういうのじゃないのなら、ちょっと安心した。

 万が一……たとえば……トレイナと仲良かった友達とかそういうのと最悪対峙しちまったら……



「ん? そっちにいおったか!?」


「ッ!?」



 そのとき、あさっての方向から俺の存在に気づいた何者かが俺に向かって来やがった。

 魔族だ。しかもこっちもデケエ。サイじゃねえけど……


「体毛に覆われた……サル?」

『猩猩人族……いや……それと……』

「ブタの鼻……」


 第三の魔族。サイたちと同じように鎧を纏い、露出した腕や頭部は体毛に覆われ、特徴的な鼻の形をしている。

 そして、あの巨体のくせに木の上を機敏に移動してきやがる。

 結構速い。



『あれは、猩猩人族とオークのハーフといったところだな……そして、あの移動方法はブラキエーションというもので、両手を使って交互に枝を掴んで移動する、奴ら独特の移動術だ』


「お、おお、そうか……」


『気をつけろ! 一人だけではない。奴の周囲に更に……』


「げ、ちょ、ゾロゾロ来た!?」


『…………二十人だ』



 そもそもこの森の中をたった二人で誰かを捜索しているはずがないんだ。

 それこそ周囲には魔王軍の捜索部隊が……


「うっきー!」

「うきゃー!」

「げはははははは、始末する!」


 まずいな。もう結構色々な種族がごっちゃになって、全部を見て回ることができねえ。

 ただとりあえず、先頭の猩猩人族とオークのハーフってのが、結構ヤバそうな魔族だというのは分かった。


「ピッグゴリ隊長!」

「連合軍の下衆です! あのガキはまだですが……でも!」


 魔族が増えちまったし、いっそのことブレイクスルーで……


『ぬ? ピッグゴリ? ……確かその名は……たしか……ッ!? おい、童!』

「ん? ……あ……」


 その時だった。

 木々を飛び越えてどうやって逃げるか考えていた時、俺は見てしまった。



「……う……あ……ぅ……」



 この夜の、ましてや魔族がうろつく森の中で、大木に寄りかかって、今にも閉じてしまいそうなほど弱った瞳をして……


「こ……子供?」

『……こやつ!?』

「ちょ、何でここに!? つか、……ひ、ひでえ……」


 何故かそこに居た小さな女の子。

 白を基調としていると「思われる」上等なローブを纏っている。だが、それは今、赤く染まっている。

 小さくか細い腕も、そして顔に至るまで青痣が出来ている。

 長いストレートの茶色い髪。その前髪が顔の大部分を覆うがそれでも隠れ切れていないほど痛々しい。

 転んで怪我したとかそういうレベルじゃねえ。

 明らかに、誰かに殴られたりして、傷つけられたものだ。

 

「……だれ?」


 消え失せそうなほど弱弱しい女の子の声。

 俺はその問いに対して何も答えられなかった。


『おい、童! この娘は……ッ、ちっ、童! 追いつかれるぞ! 後ろを――――』


 ちょっと、この時ばかりはトレイナの言葉が耳に入らず、俺は茫然としていた。

 だって、こんな状況初めてだからだ。

 アマエよりは少し年上だろうが、これほど小さな女の子が、こんな傷だらけになっている。

 そんな状況が初めてで、あまりにもむごくて、言葉が出なかったからだ。

 すると……


「おい、あそこで止まっ……ッ! はははは、おいあのデッカイ木の所だ!」

「あのガキもいる! 見つけたぜ!」


 俺が立ち止まったことで、徐々に距離をつめてきた魔族たちから笑いが聞こえ……



「手間を取らせおって! 我らが偉大なる大将軍『ゴウダ様』を暗殺しようなどと企んだ愚か者め! 子供といえど勇者の一人! 容赦はせん! その首もらった!」



 ……ゆうしゃ?


『……エスピだ……』

「……え?」


 また俺は数秒言葉を失った。

 この子供がエスピ?

 そしてあの魔族、他にもどこか聞き覚えのある名前も口にしたような……

SF用語の報告ありがとうございます。チェックしたうえで随時修正していきます。

そして今日でゴールデンウィークが終わりです。いつ始まったのかも分からぬ感じでしたが。とはいえ、別に完全解禁となるわけではないみたいですので、引き続き体調には気を付けてくださいませ。


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【新作・俺は凌辱系えろげー最低最悪魔将】
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