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禁断師弟でブレイクスルー~勇者の息子が魔王の弟子で何が悪い~  作者: アニッキーブラッザー
第六章

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第二百六十二話 全ての原点

 エスピに手渡された布袋。正直、怪しい予感しかしなかったが、一応中身を取り出して確認してみる。

 すると中から出て来たのは、手のひらに収まる程度の丸い形をした……


「……懐中時計? 時計……動いてねえし……見たことねえ文字が刻まれてる? なんだよこれ……」


 それは懐中時計……と思われる。思われるというのは、円に刻まれている文字が見たことのないものだったからだ。

 普通時計ならここには数字が刻まれているんだけどな。

 それに、懐中時計には時計の針を調整したり、時間を測ったりするボタン、もしくはネジが一つ備わっているもの。

 これは、五個も付いている。何の用途があるんだ?


『……ただの時計ではないな……』


 そのとき、傍らのトレイナが真剣な顔つきで時計を凝視している。


『マジックアイテム? いや、何かもっと異質な力を感じるな……それに……時計の造りや材質が……これは一体? ん? この文字は……』


 トレイナですらこれが何なのかが分からないようだ。

 それは尚更不気味だ。

 そして一番気になるのは……


「こんなの俺に渡してどうすんだ?」


 何故、こんなものを俺に渡すかということだ。



「それを持って……『私』と『スレイヤくん』と一緒に、シソノータミを目指して欲しいの。勝手なことを言ってるのは分かっている。でもね、それが私たちの願いなの」


「お兄さん、あなたと出会い、一緒にシソノータミを目指す旅をする……それがボクたちの願い。何も知らないボクたちを……どうか導いて欲しい」



 相変わらず目的が意味不明で、勝手なことを言いやがる。

 全てが唐突で、更には馴れ馴れしく人に不快な思いをさせて、そのうえで救えだ? 同行させろ? 意味が分からねえよ……と、さっきまでの俺なら叫んでいただろう。

 だけど……


「な、なんだっつーんだ?」


 そのとき、エスピが初めて俺に向けて胸が張り裂けそうなほど切なそうな微笑みを浮かべた。

 そして、基本無表情だったスレイヤも、同様に切なそうに微笑んでいる。

 意味が余計に分からない。

 だが、こいつらは心の底から「何か」を俺に望んでいるというのが分かった。

 そして……


「ったく、意味が……だいたい、何だよこれ? 時計も動いてないし……壊れてんの……ッ!?」


 そのとき、俺が何気なく懐中時計の頂点にあるボタンを押した時、変化が起こった。



【登録サレタユーザーノ認証確認完了。設定サレタ『ジャンプ』ヲ起動シマス】


「ッ!? な、に?」


『童! ど、ういう……時計が……』



 突如、時計が強烈な発光をした。そして、なんと喋った。

 何とも無機質なものだったが、間違いなく喋った。


「ど、なんだ? こ、これ、意味が分からねえ!」

「うん。驚くのは無理ないよね。はい、荷物。マントも」

「はい、コーヒーもね」


 突然のことで何が何だか分からず慌てる俺に、この状況を理解していると思われるエスピとスレイヤは、俺の荷物を急に渡してきた。

 だが、そんなことよりもこの状況……



「くそ、訳わかんねえ! この時計、この、おりゃ、ん、この」


「「あああーーーっ!?」」


「ッ、な、なんだよ?」


 

 意味が分からず、焦って咄嗟に懐中時計に付いているボタンを全て適当に押しまくったり、ネジを回したりしてみた。

 すると、エスピとスレイヤが急に慌てた様子を見せた。


「ちょ、何をしてるの! メチャクチャに弄っちゃったら、『初期設定』が!」

「……こ、これ、どうなってしまうんだ?」


 いやいやいやいや!? なんでお前らまで慌ててるの? え? まさか、これマズい状況?

 トレイナ?


『この発光……魔力? いや、違う……このエネルギーは……まるで、古代人の……? そうか、この文字!?』


 トレイナもまるで分からない様子。これ、まずいんじゃ?


「ど、どうしよう、スレイヤくん」

「いや……まって、ここでボクたちが手を出すと、それはそれで……ん? むしろここから……?」

「あ~、……そっか……だからあの時……あ~、そういう……だから、『設定しても意味がないんだけどな』って笑って……」

「うん。こういう意味だったんだね……」


 あれ? だけど、慌ててたはずのエスピとスレイヤはすぐに落ち着き、むしろ「納得」といった表情で苦笑してる? 

 いやいや、何を……



【設定変更完了シマシタ。全座標変更完了】


「ッッ!?」



 そして、もはや目も開けていられないぐらいに時計が発光し、同時に俺を包み込むような巨大な紋章が現れた。


『これは……転送用の陣にも似て……余でも分からぬ! 童、その時計をすぐに手放せ!』

「ダメだ、手から離れねえ! 一体……」


 紋様が俺の全身に行き渡り、時計を持つ手の自由も奪われた。

 そして、何かに「吸い込まれる」かのような感覚が俺を襲い……



「「行ってらっしゃい、そして必ずまた――――」」


「っ、テメエら!」



 唯一振り絞ることが出来たその言葉と共に、俺の視界に映る全てが暗転し――――――――














「……ここは?」



 気付けば俺の眼に映る風景が変わっていた。


「森だけど……海が見えない?」


 突如光に包まれたと思ったら、さっきまでとは違う風景。

 海辺に近い森にいたはずなのに、俺が今いる場所は、周囲が森に囲まれている。

 


『まさか……転移したのか?』


「トレイナッ!?」


『童、身体に何か異変は無いか?』


「ん? あ、おお……」



 訳が分からないことになったが、とりあえずトレイナが傍に居たので少し安心し、俺は言われたように自分の身体を確認してみる。特に異常はなさそうだな。


「何もねーな」

『そうか……』

「にしても、どーなってんだ? この時計、一体何だったんだ?」


 改めて手の中に握りしめていた時計を確認してみる。今は光が収まって特に何も無さそうだ。


『余にも分からぬ……このようなマジックアイテムは見たことがない』

「トレイナにもか?」

『ああ。だが……この時計に刻まれていた文字を思い出した。これは、古代文字の……そう、シソノータミの遺跡でもこの文字があった……数字だな』

「えっ!? じゃあ、これ……」

『うむ。間違いなく、古代人たちの遺産の一つだろうな……こんなものがあるとは余も知らなかった』

「うわぉ……」


 マジか……まさか、そんなとんでもない代物だったとはな。

 そりゃ、トレイナも知らなくてビックリするはずだよ。


「マジか~……にしても、ここどこだ?」

『そのアイテムはどうやら、対象者をどこかへ転移させる機能を持っているのだろう。ただ、そうなると……エスピたちが騒いでいた言葉が気になる……』

「ん?」

『初期設定……がどうのこうのと言っていたな』

「あ~……」


 そういや、そんなこと言ってたな。アレって一体どういう意味が……


「とりあえず、もう一度この時計をテキトーに弄ってみるか?」

『待て。まずは、場所を確認しよう。どこに転移したか気になるのでな』

「了解」


 とりあえず、俺とトレイナはこのアイテムでどこかへ飛ばされたというのは間違いなさそうだ。

 それでも一体どこへ?

 とりあえず、森の中を歩くことにした。


「よいしょっと。リュックを買っておいてよかったぜ」

『童、マントを羽織って、フードも被っておけ。虫よけや汚れを防ぐのにも使える』

「あっ、そうか……っと、おおお! これまでの旅では装備してなかったけど、こうして装備してみると……おおお!」


 寝るときの防寒用として買ったマントも、こうして移動の時に羽織れば、なんだか旅人と言うか、ちょっとしたハンターみたいというか、なんかカッコよく見える。

 そういや、昔はこうやってマントを靡かせて勇者ゴッコを……


『おい……あまりはしゃぐな、勇者様よ』

「っ、やめい、人の妄想を読むな。ったく……ん? あ、あれ?」

『ん? おお……陽の光が……』


 ちょっと昔の恥ずかしい思い出に浸って歩いていたが、意外とすぐに森の外へ出れた。


「お、おお……」

『草原か……太陽が昇っているということは……深夜だったあの漁港と時差があるほど離れた所か?』

「げっ、そんな遠くなのか?」


 森の外には照り付ける太陽の下、広い草原が広がっていた。

 正面には山も見えるし、近くには小さな村が見える。

 

「なぁ、トレイナ……ここ、どこか分かる?」

『うーむ……あの形は……というより、あの近くの村で聞いた方が早いのでは?』

「あっ、それもそうだ……ん?」

『ぬ?』


 ここがどこなのか、近くに見える村の人にでも聞こうと思ったとき、その村の異変を俺とトレイナは気付いた。


「きゃーーーーーっ!?」

「に、逃げろおおお、モンスターだーーーっ!」

「ひいい、食われちまう!」


 聞こえる悲鳴。

 建物が粉砕して宙に舞い、休む間もなく破壊音が聞こえてくる。

 そして……


「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」


 村の中で、全身黒い体毛に覆われた獣が暴れていた。


「うおっ、何だありゃ!?」

『アレは……ワイルドグリズリーだ! 地上世界の草原に生息しているモンスター……十数年前にはハンターたちに狩られて数は減ったと聞いていたが……まだ絶滅していなかったか……』

「え? マジで? 俺も図鑑でしか見たこと……でも、あれ、まずいのか?」

『性格は獰猛で肉食だ!』


 まさか、今では結構希少となっているモンスターの出現に驚いたが、感動している場合じゃねえ。

 大暴れして、村を破壊し、このままじゃ人が……

 それにどうやら村にハンターとか戦士が出てくる様子もない。



「トレイナ、アレの強さは?」


『今の童の敵ではない』


「了解!」



 俺はその瞬間、村へ向かってダッシュしていた。

 すると……



「あっちに行きやがれ、モンスターッ!」


「ガルル?」



 ちょっ!? お、おいおい!?


「な、なにやってんだ、あのガキ!」

『……ん?』


 小さな子供が一人、木の枝を剣のように構え、半べそかいて震えながら、モンスターを威嚇していた。

 って、待て待て、あぶねーだろうが!



「こ、この村は、俺が守るんだ! 俺がおっぱらってやる!」


「ガルル? グル……グラアアアアアアアアアッ!!」


「ひいいいっ!?」


 

 勇敢な子供が一人、故郷を守ろうと立ち上がった。

 だが、相手は圧倒的に強大なモンスター。

 その一吼えだけで、子供は腰抜かしてしまった。


「ガルルルル……ガアアアッ!!」


 そんな子供に、モンスターは容赦なく巨大な顎を開けて噛み砕こうとしていた。

 だが、その前に……間に合うッ!



「ウルアアアアアアアアアアアアアアアッ!! 大魔ソニックコークスクリューブローッ!」


「ガッッ!!??」


「………え?」



 俺の拳の衝撃波の方が速く、そして強かった。



「ったく、随分と勇敢なガキじゃねえか!」


「……え?」


「まっ、もう大丈夫だから安心しろ」



 俺の拳一つで激しくふっとぶモンスター。体は多少硬かったが、マチョウさんの筋肉に比べれば、どーってことない。

 まっ、リヴァルは既にドラゴンを仕留めてるって話だし、俺もこれぐらいはな。

 すると……


「な、なんだ……あのフードの人は……」

「ワイルドベアを一撃で……」

「す、す……すごい!」


 俺の登場に一瞬呆けた様子の村人たち。だが、徐々にその表情が綻んでいき、そして……



「「「「うわあああああああああ!!!!!」」」」

 

 

 まるで、俺を称えるかのような大歓声が起こった。

 なんだか、別に本気でそのつもりはなかったが、ちょっとしたヒーローにでもなった気がして、そこまで悪い気はしなかった。



「す、すげぇ……すげえ、あんた、すげーよ! すげー!」


「ん?」


 

 すると、腰抜かしていたあの子供が目を輝かせて俺を見上げてきた。



「な、何かよく分かんなくて、全然見えなかったけど、あのでっかいモンスターを一発でぶっとばすなんて……すげーよ! すげー!」


「お、おお、そうか」


「助けてくれてありがとう! 俺、俺、俺!」


「おお、落ち着け落ち着け」


 

 流石に俺のパンチは見えなかったみたいだけど、俺がスゲーというのは分かったようで、もうなんというか幼い子供にここまで目を輝かせられると……アマエのときもそうだったけど、悪い気はしないな。


『なぁ、童……』

「ん?」

『この子供……誰かに似てないか……?』

「は~?」

 

 そのとき、ちょっと悦に入っていた俺にトレイナが妙なことを言ってきた。

 誰かに似ている?

 この……子供が? この『赤い髪』をした……………ん?


「うわあああああん」


 と、その時だった。

 向こうから一人の小さな女の子が泣きながら走ってきた。



「このばかあああああああ!」


「ほげっ!?」


「ばか、ばか! あんた、なに、なにやってんの、なにやってんのよ! しんじゃうところだったでしょ!」


「いてて……」


「このひとがたすけてくれなかったら……うわああああん!」



 泣きながら男の子を殴る、オレンジ色の髪をツインテールにさせた女の子……ん~?



「いってーな、もう泣くなよ……『マアム』」


「うるさい、バカ! 『ヒイロ』のバカ!」



 ……ほうほう。この赤い髪の男の子の名前はヒイロで……オレンジ色の髪の女の子はマアムっていうのか……ほうほう……



『……ほうほう』


『ほうほう……』


『いや~、すげー偶然だな~、トレイナ。くはははは』


『うむ、凄い偶然だな。ふはははははは』


『くははははははは』


『ふはは……はは……』


『くはは……はは……』



 ……ん?



『「んんんん??」』



 んんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんん?????


さぁ、本格的に第六章スタートしました。

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【新作・俺は凌辱系えろげー最低最悪魔将】
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