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禁断師弟でブレイクスルー~勇者の息子が魔王の弟子で何が悪い~  作者: アニッキーブラッザー
第六章

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第二百五十四話 楽しむ

 パリピの所為で頭が痛くなっていたが……正直もうそのことに関して、今はどうでもよくなった。



「よーし、イイ感じになってきた。兄ちゃん、もうちょいだぞ?」



 な……なんだこれは?


「へへ、いくらでも食わせてやるよ」

「獲れたての新鮮はうめーぞ?」

「帝国とかじゃ、この味は体験できねーだろうな」


 せわしなく漁港の漁師たちと、買い物客たちで溢れていた魚市場が夜になったら姿を変え、新鮮な魚と酒を振る舞う屋台が路上に立ち並んだ。

 建物の中ではなく、作業に使ったケースとかをひっくり返してテーブル代わりに使い、バケツみたいなのを椅子代わりにして、なんというか……いや……まぁそれはいい。

 問題なのは……


「この、ゲンカーンエビはボイルするだけでウメーからよ」


 目の前で使い込まれた鍋の中に、大きめのエビが丸ごとグツグツと火の通ったお湯に入れられている。

 その他にも貝や他の魚も豪快にぶち込まれている。

 こんなの料理と言えるのか? サディスがいつも作ってくれたような料理とは大違いだ。

 なのに……


「ゴクリ……」


 見ただけで、ウマそうだ。いや、もう見ただけでウマいと分かる。

 そして、頃合いだと判断して、ボイルされたエビを、おっさんたちはそのまま俺に手渡してきた。


「ほれ、そいつを割ってそのままかぶり付きな!」

「あ、お、ども……え? このまま?」

「おう、パキッといけ!」


 食いやすいように切られているわけでもなければ、フォークとかもない。

 さらに……

 

「あの……レモンとか……ソースは?」


 何か味を付けるものは無いのか? これじゃ、ただ魚介類をお湯でボイルしただけだろ?

 そう疑問に思ったら、おっさんたちは指で「ちっちっち」と……


「そのままだ」

「え、え~?」


 せめて塩とかガーリックとかそういうのが欲しいのに……これじゃ味が物足りないんじゃないのか?

 せっかくこんな見た目もウマそうなんだから、あとちょっと味付けしてもらえれば最高なのに……まあ……仕方ねえか……


「あちっ……うお、おお!」


 ちょっと不満に感じながらも、熱々のエビの尻尾を折ると、パキッと音を立てて、たっぷりの身が……お、ォォ……ぷ、プリップリだ!

 な、なんだこれ? 身がたっぷりで、それでいてこんな……

 


「じゃ、じゃあ……いただきます……あ~……む……ッッッ!!!???」



 俺は胸を高鳴らせながら、身を一口でかぶり付いた。

 その瞬間俺の口内には……「海」……そのものが広がった。


「にぃ~」

「ひひひひ、どうでい?」

「へへん」


 おっさんたちが全員「どうだ」とドヤ顔で俺を見ている。

 いや、どうだも何も……味付け? なんもいらねえ。は? なにこれ?


 俺にとって世界一ウマい料理はサディスの作った料理だ。


 でも、この食材は……俺のこれまでの人生で一番……



「ほら、兄ちゃん! どんどんいけ!」


「こっちの貝も何も味付けいらねぇ。塩ふいてるからよぉ!」


「おっしゃ、酒もいこうぜ酒も! 将来有望な漁師に乾杯よぉ!」


「「「「オオオオオォォォォォォ!!!!」」」」



 気付けば、周りの他のテーブルで飯食ってるおっさんたちも酒瓶もって声を上げていた。


『ふふふ、ようやく旅の醍醐味というものを味わえたようだな、童よ』

『トレイナ? あっ、わり、なんか俺だけ……』

『あとでヴイアールの世界で具現化してくれさえすればいい。それで余も味覚を共有できるのでな! ま、してもらわずともコレに関しては余も覚えているがな……』


 帝国から出て三カ月。といってもそのほとんどを過ごしたカクレテールではなんだかんだでサディスが料理してくれてた。

 まぁ、あそこも海に囲まれていた島国だったから、魚とかもうまかったけど、調理されていたものだった。

 だからこそ、こんな風にちょっとボイルしただけのものを食って、それで感動するなんて思わなかった。


『アボソア大陸近海の海で獲れる魚介類はウマい。余もそれは認めている』

『へぇ~……』

『あと酒もな。魚と合う酒を造ろうとしたのだろうな……まぁ、貴様にはまだ早いがな』


 なるほど。トレイナも認めるってことは、そりゃ相当なもんだ。

 俺は今まで「ディパーチャ帝国こそが世界の中心」だと思い、そのためあらゆるもの、産業においても食の文化においても、全てが世界一だと思っていた。

 でも、それは思い上がりというか、単純に俺が何も知らなかっただけだ。

 ちょっと船で数日移動しただけで、こんな……



『その通りだ、童。世界を知るというのは、その土地土地の強敵と戦って勝つことだけではない。その土地の文化に触れることで、己の世界を広げることも重要なのだ』


『トレイナ……』


『以前も言ったかもしれぬが、自分の住む世界が世界の全てではない。自分以外の世界の存在を認めてこそ、初めて世界が広がる』

 

『……押忍』


『ふっ……まぁ、余が言ってもな……それができなかったからこそ、人間も魔族も何百年間もずっと……いやよい。メシがマズくなる話だ。さっさと食え』


 

 ちょっとしんみりとした様子で俺に教えてくれるトレイナ。

 たしか、ホンイーボあたりでそんな話をしたっけな?

 そういえば、カクレテールに居た頃はずっとトレーニングばかりしていたから、こうやってトレイナが戦い以外のことを教えてくれるのも久しぶりだな。


「おら、兄ちゃん、これもだ! わけーんだから、もっと食え!」

「兄ちゃん、酒を一口ぐらいいっとくか? な~に、一口だけなら大丈夫だろ? 雰囲気だ雰囲気!」

「ほれ、ほれほーれ!」

「あ~、そうかい、兄ちゃんは帝国を家出してきたのか?」

「15? いいね~、俺も漁師だった親父の船に、見習いとして初めて乗せてもらったのもそれぐらいだぜ」

「しっかし、兄ちゃんはスゲーパワーを持ってるんだな。あんだけ重ぇもんをいっぺんに持てる奴はぁ見たことねえ」

「このまま働いてくれりゃぁ、将来有望な期待の新星だぜ!」

「おっしゃ、歌うぞ!」

「酒持ってこーい! おら、兄ちゃんにも酒用のグラスだグラス!」

「おーし、こうなったら、俺が酒の飲み方を教えてやる!」

「いいか~? 酒の飲み方を知らない若造は、なんかこ~、一気に飲むのがカッコいいとか勘違いしてるバカがいるがよ~、そんなの酒への冒涜だ!」

「そうそう。まずは香りから楽しむ……うん、今から体に酒が入るんだぞと、内臓や心に準備をさせる」

「まずは少しチビリと舐めるぐらいの量を」

「そして、次はこのつまみでちょっと渇きを与える」

「で、またチビリ……チビリ……」


 にしても、おっさんたちは既にできあがってるのか、もう顔を真っ赤にして大騒ぎだ。

 俺が主賓なはずなのに、なんかもう勝手に盛り上がっては、俺に酒まで勧めてくる。

 つっても、俺も酒はな~……



『にしても、こやつら、童に余計なことを……しかし……童に酒はまだ早いが……これまでのブロやカクレテールでの時を考え、少しは酒の飲み方も教えてやらんといかんかもしれんな……』


『え、トレイナ!?』


『酒は脳細胞や内臓を破壊するが……それもまた人生を楽しむ一つでもあり……人の在り方が現れ……まぁ、ヴイアールの世界であれば『気分』や『味』を楽しみながらも、体を壊す心配はないしな……ふっ……余が……一対一で飲むのは誰以来だ? ……しかもそれがヒイロの……おかしなものだな。さて……チーズは何が良いか……酒は何から……ワイン……いや、ウィスキー? ジャポーネ酒? うむ、色々と飲みながら教えるのも楽しそ……ごほん、童のためになるだろう』



 おっさんたちにもみくちゃにされてる俺に、トレイナが呟いてきた。

 いやいや、俺の年齢だったら飲んじゃダメなんだけど?

 っていうか、何だかトレイナがちょっとウキウキしてそうなのは気のせいか?


「でよ~、兄ちゃんはいつまでここで働くんだ?」

「ん? あ~……まぁ、数日だけは……金貯めて、道具買って、また旅に出るって感じで」

「そっか~、ここでこのまま働きゃいいのによ~、まっ、しゃーねーか~! よし、兄ちゃんこれからこの大陸を旅するみてーだけど、初めてなんだろ? 俺らが色々と教えてやらぁな!」


 とりあえず、俺も今は新しく知った世界と文化を楽しむことにした。

別にメシものなんてスタートしませんぞ? そんなことできないぐらい、ワシのツイッターの食生活見りゃわかりますでしょ? はぁ……はやく嫁が欲しい……

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【新作・俺は凌辱系えろげー最低最悪魔将】
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