第百三十九話 そういえば
「これは規格外だああああああ! これには、デイタも腰を抜かした! どうやらデイタが事前に調べていた情報を遥かに上回る大きさだったようだ! そう、男児三日会わざれば刮目して見よ! ビグのエクスカリバーを前にして、デイタは戦意喪失して降参! ビグ、見事勝利です!」
ん? なんかもう試合が終わったようだな。にしても、どういう試合だ? 物凄く内容が気になるんだが。
だが、今一番気になるのはやはり……
「トレイナ。ワチャって奴のこと、どう思う?」
席へと戻る通路の途中で、俺はさっき見た光景についてトレイナに聞いてみた。
『外の者だろうな……もしくはブロのように、中と外を出入りできる立場の存在』
「やっぱそうか」
この鎖国国家の連中はずっとこの島国の中に居る。生まれて育ち、そして死ぬのもだ。
だが、誰も外に出たり入ったりできないかと言われればそうでもないようだ。
ブロのように外へ出たり、逆に友達を連れて道場に通わせたりというのもあったようだしな。
だから、ワチャもそういう立場の存在なんだろう。
だが、それはそれとしてだ。
「さっき、何の話をしてたんだろうな?」
『あれだけではな……ただ……あまり良い話には感じられなかった』
そう。問題なのは、ワチャが誰かと繋がっていると思われること。
そして、その存在はヤミディレの素性も知っていた。
何よりも……
『人形とのおままごと……』
「その言い方は好きじゃねえが……そう言われて思い浮かぶのは、一人しかいねえ」
『奴だろうな』
「ああ」
純真無垢な女神。クロンのことだろう。
つまり、クロンのことも知っているということだ。
世界に未だその存在を知られていないが、その存在は世界を左右させるかもしれないほどの存在。
この島国内だけの話ならまだしも、外の世界に居る連中がクロンのことを知っている。
それは、あまりにも危険な香りがしてきたってものだ。
『ヤミディレとクロンの存在を、連合軍、ミカド、そしてヒイロやソルジャが知っていたとしたら、十数年も放置することはないはず。何よりも、貴様がこの国に来て三ヶ月、何も無かったわけだしな』
「ああ。だから……連合側じゃない……」
ワチャが連絡を取り合っていたのは、連合側じゃない。
だとしたら、反政府組織。
もしくは……
『何よりも魔水晶の向こうから話していた者は言っていた……『人間の血を』……という件……』
「魔界……旧魔王軍の残党…………」
『魔界のアンダーグラウンドの組織……その他、色々可能性はあるだろうがな』
色々と可能性は確かにあるが、そのどれもが、あまり良い予感をさせるものではない。
少し気が重くなり、同時にトレイナも溜息を吐いた。
『元六覇とはいえ、ヤミディレも今は人間の中に身を隠している状態。そして、妙な連中にも裏でコソコソされているわけか。時代の流れか……』
「トレイナ?」
『六覇の名を聞けば、かつては誰もがその威光に平伏した。敵に回すことを誰もが恐れ、暗躍などとてもとても……』
「まぁ、伝説だからな。とはいえ、もう滅んで十数年だ。俺だって、ヤミディレの威圧を受けなければ、その存在の重さを分からないままだった」
『ふっ、寂しいものだな。『白き鬼皇・ハクキ』、『獣王・ライファント』、『幼女闘将・ノジャ』、『暗黒戦乙女・ヤミディレ』、『魔巨神・ゴウダ』、『闇の賢人・パリピ』……そして、それを束ねる大魔王たる余……完全無欠な軍だったのだがな……その内二人は余が健在だった頃に戦死し……』
「俺もあんまり詳しくねーが、そうみたいだな。で、生きている六覇の内の四人……まぁ、生きているというか、ヤミディレとハクキの二人は行方不明であり、お尋ね者として有名だな」
かつての魔王軍の中核を担い、そして今ではヤミディレも含めて伝説となった名前。
その伝説の現状に、どこかトレイナも寂しそうだった。
「まさかその内の一人のヤミディレがこの国に居るとは思わなかったけどな」
『そうであろうな……ライファントも……知ったら驚くだろうな』
「ああ。今、そいつが魔界の総統だからな。俺も会ったことないし、新聞や授業で聞いた程度だけど。親父はたまに会ってるみたいだけどな」
そして……
『そういえば……今さらなのだが、童』
「ん?」
『逆に人間側……他の七勇者共はどうしている? ヒイロ以外にあまり興味が無かったので気にしなかったが……』
ああ、そういえば。
親父と母さんと陛下だけじゃなく、他の勇者もこいつにとってはかつての敵だったんだもんな。
『ヒイロ、マアム、ソルジャの姿は見た。残る四人……』
「うん、まあリヴァルの親もフーの親も健在で、二人とも帝国でちゃんと要職についてるよ。俺もしばらく会ってないけどな」
『ほぅ……『剣聖』と『大魔導士』か……」
「で、ジャポーネの『コジロウ』は、自国で侍戦士のトップになってるって聞いたことあるな。残る一人は『ベトレイアル王国』の――――」
と、その時だった。
「は~~~、カバディカバディカバディカバディ!!」
「魔極真タックル!」
「捕まったー! カバは悶絶! マチョウの鋭い強烈なタックル! ファイヤー! にしても、カバが希望する特別ルールを、マチョウが善意で受け入れて戦いましたが、マチョウはそれでも圧倒! 逆にカバの心がへし折れました! これぞ優勝候補! マチョウ、二回戦進出!」
おお、本命のマチョウさんの試合を見ることが出来なかった……だが……
「あらら……終わっちまったか……しかし、全然それどころじゃないっていうか……」
『確かにな。とはいえ、まだ不確かなものに気を取られて、せっかくの強くなれる機会を棒に振るわけにもいくまい』
「そう言われてもなぁ……」
正直、今の状態でマチョウさんの試合を見ても、全く集中できなかっただろう。
やはり気になる。そして、ヤミディレ自身はこのことや、ワチャのことを知っているのか?
少なくとも、クロンは何も知らないだろう。
「人形とのおままごと……か……」
『同情か? 言っておくが、安っぽい同情は……』
「安かろうと、不憫に思ったんだから仕方ねーだろうが」
『やれやれ……何という開き直り……』
忠告するかのようなトレイナの言葉に、俺はそう答え、ちょっとムキになって拳を力強く握っていた。
「まあいい。気になるならワチャ本人に直接聞けばいいか。そして、優勝候補はマチョウさんで変わりない? なら、教えてやる。ここに、誰が居るかをな」
『たしかにそうかもしれんが、童。そのためには次の試合も……』
「侮るな」
『ならばよし。色々と体験し、相手に出し尽くさせてから、ぶちのめして来るがよい』
そのためには二回戦、さっさとケリをつけてやる。
さあ、果たして生きている六覇は誰かしら?
それと、これは上記とはまったく何も一切合切関係ないのですが、最近アマエとのやりとりを多く書いていたら、作者がロリコンではないのかという疑惑を持たれましたが、とんでもございません。ですので、妙な疑惑を持たれないようにアマエ以外は、『低年齢』の女の子はあまり書かないようにしようと思います。どうしても出してしまったときは、すんません。やはり年齢というのはシビアな問題ですからね。逆に言えば設定上で一定の年齢さえ超えていれば何をやっても構わないということにも……?




