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お化け屋敷をリフォーム  作者: 奈瀬朋樹
chapter 1
4/35

03話 雪女に嫌われた

「1日でよくぞここまで成長した! もうお前に教える事は何もない!」

「ありがとうございます! 杉田先輩のお蔭です!」


 閉店時間となり、8時間に及ぶバイトを見事やりきった河童2匹がヌッチョリな抱擁(ほうよう)を交わす。同じ失敗を繰り返す場面もあったけど、超ポジティブ思考で励まし続ける杉田先輩の姿勢に押されてミスも減っていき、終盤は指摘0で終える事ができたのだ。


 初バイトで不安だったが上々の出来だろう。

 今後も杉田先輩がいれば上手くやっていけ…。



「いやー、辞める前に新人が来てくれて助かった! これでもう安心だ!」

「…………………………えっ? はい?」



 突然の告白に、河童なのに鳩が豆鉄砲を食った様な声が漏れちゃったよ。


「言ってなかったか? 俺は今日バイトを辞める!」

「ちょっ、何で辞めちゃうんですか⁉」


「4月から社会人になるからだ! 無事に内定GETして大学卒業! 明日から新人研修が始まる!」


「それは……、仕方ないですね」


 バイトと会社、どちらを優先すべきかは聞くまでもない。

 なのでココは笑顔で見送るべきだけど、それはそれ、これはこれだ。


「じゃあ新しい先輩を紹介して下さい」

「心配するな川葉、お前はもう河童道を究めた! あとはこの知識を応用していけば万事上手く…」


「いきませんって! 明日からのシフト、職場ルール説明、他メンバーとの顔合わせとか全部ほったらかしですよ!」


 杉田先輩は間違いなくイイ人だけど、大雑把過ぎる。

 会社の新人が育たないって話をよく聞くけど、上司の指導にも原因あるよね?

 しっかり働いてほしかったら、ちゃんと教えろっつーの!


「だが他のバイトはもう撤収済だ! うちにサービス残業文化はない!」

「うげっ、マジですか」


 終業と同時に帰れるのは大変結構だが、このままじゃ明日から途方に暮れちまう。

 なのでバイト全員が帰る前に今すぐ杉田先輩とメイク室に向かおうとしたら。



「うわあああああああああああああああ」



 白い影がいた。


 腰まで伸びた黒髪、返り血ベッタリの白装束、もし捕まれば根こそぎ体温を奪われてしまいそうな、恐ろしくも何処か妖艶な雰囲気を兼ね揃えた影が。


 咄嗟に杉田先輩の背中に隠れた後、その影がこちらに近づいてきて……。



「……杉田先輩、今までありがとうございました」

「ありがとう(おと)(ぎり)、今日もナイス雪女だ!」



 その影が礼儀正しく頭を下げる姿でココがお化け屋敷だったのを思い出し、どうやらこの雪女は杉田先輩にお別れの挨拶に来たらしい。新参者がここで口を挟むのは無粋なので俺だけでも先にメイク室に…、って俺1人で行っても説明できないし相手だって困る筈だ。


 やっぱり杉田先輩と一緒に……、ああでも寿退社の挨拶中に割り込むのも……。

 という感じであたふたしていたら杉田先輩がグイっと俺の首を掴んで。



「音霧、明日からこいつの教育係やってくれ!」



 あっさり決まっちゃったよ。

 そんな決定に唖然としていたら雪女が首を傾げながらゆっくりと近づき、こちらを凝視してきたのだが。



 怖い、怖い怖い怖いっ!



 変装と分かっていても長い黒髪の隙間からチラチラ見える真っ青な目元と唇がもう不気味で仕方ない。杉田先輩が言った通り、お化けに接近し過ぎは駄目だな。今にも恐怖心が沸点飛び越えてパニクっちゃいそうだよ。


「…………………………どちら様?」

「きょ、今日からバイトを始めた、川葉夕護、です」


 まさか雪女に自己紹介をする日がくるとは。

 てゆーか、女性なのか?


 声は女性っぽいけど、白装束で体のラインが分からないから男装の可能性も…、ってこっちに至っては河童の被り物で素顔が一ミリも見えてねーじゃん!


「すみません。先にメイク室に戻ってお互いの顔が見える状態で改めて自己紹介しませんか?」


 この提案に反対はなく、移動となりました。



     ◇   ◇   ◇



「……(おと)(ぎり)(しずく)です。宜しくお願いします」


 小さな声で深々と頭を下げられたが、こっちはもう緊張しっぱなしである。


 腰まで伸びていた雪女の黒髪は地毛だった様で、今は1つ結びに肩から前に流す緩いサイドポニーになっている。印象は物静かでミステリアスな雰囲気だが、一番重要なのは音霧さんが来月から大学2年生という身分だ。


 JD(女子大生)との会話なんて初めてだよ。


 モテ期の頂点に君臨してサークルに入れば姫と崇められ、夜になれば合コン男漁り、いつでも彼氏作り放題という無敵存在と聞き及んでいる。


 めっちゃ嬉しいけど荷が重い!


 こっちは彼女いない歴=年齢という最弱ステータスで、しかも音霧さんは美人でスタイル抜群だからモテモテに違いなく、なので迂闊に手を出せばウェイ系鼻ピアス大学生にボコられる危険があり、ここは失礼の無い様に謙虚かつ慎ましやかな姿勢で…。


 ガシッ!


 割って入ってきた杉田先輩に手を掴まれ、音霧さんと強制握手という構図になっちゃいました。


 柔らかーい。


「硬い、硬過ぎる! お前らはもうパートナーで一心同体だ! そんなんじゃ明日からやっていけないぞ!」


「いやでも杉田先輩、いきなり握手は早過ぎでは?」

「何を言う! 握手なんて挨拶と同義! 遠慮し過ぎはお互い損だぞ!」


 そ、そうなのか?


 初対面から馴れ馴れしいのはNGと思っていたが、職場では違うのかもしれない。

 そんな考慮をしながら音霧さんを見てみると。



「…………………………よろ、しく」



 全っ然駄目じゃん!!


 めっちゃ目ぇ逸らされてて今すぐにでも握手を解きたいけどそんな空気じゃないから我慢してるって様子で、てゆーか俺は生理的に無理な奴でしたか⁉ なのでやんわりと握手を解いてからすぐ頭を直角に下げて。


「すみませんでした! 音霧先輩の手を煩わせない様に精一杯頑張らせていただきます! ちゃんと年下として弁えますので今後とも宜しくお願いします‼」


 全力の誠意を示し、これで暴落中の好感度がストップ安になればと願ったが。


「……はい。……………じゃあ、また明日」


 俺以上の深々とした礼を返されてから、そそくさと退散されちゃいました。


 最悪だ。


 バイトでギスギス関係ってマジで地獄じゃん。

 なのに杉田先輩は得意気に俺の肩を叩きながら。


「はっはっはっ、上手くやっていけそうで何よりだ!」

「何処が⁉ 完っ全に嫌われましたよね⁉」


 ポジティブ思考にも限度がある。

 あの反応でそう思えるのはメンヘラ暴走ストーカーくらいだよね?


「音霧は極度の照れ屋さんで常にあんな感じだ! 俺と初めて会った時なんて一目散に逃げられたからな!」

「えぇ……、だったら少しは音霧先輩に合わせてあげましょうよ」


 杉田先輩はこう言ってるけど、やっぱり不安だ。

 それから杉田先輩にバイト連絡網、音霧先輩の連絡先を教えてもらってから、人生初のバイトの幕が下りたのである。

雪女は死を表す白装束をまとい、男に冷たい息を吹きかけて凍死、男の精を吸い尽くす雪の妖怪だそうです。ホラー漫画のヒロイン率が高いのも納得です(笑)

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