信じていたよ
実話を元に書きました。ふんわりホラー。
怖い話をします。
風の強い夜でした。
何故風が強いとわかるのか。それは窓の外からびゅうびゅうと風の音が聞こえるからでした。
びゅうびゅう、ごうごう。
耳を澄ませる必要もなく、風の音は室内に居る人の耳に届きます。
風が強いなぁ。煩いなぁ。
辟易しながら無視をして、音楽でも聴いて紛らわそうとイヤホンをしたときです。
イヤホン越しに聞こえる風の音は必然として遠くなります。物理的に隔てたわけですから、更に遠くなるのです。だから風の音も、遠くなるはずでした。
だけど。
びゅうびゅう、ごうごう。
やけに風の音が近いのです。
おかしいな。イヤホンをしてもこんなに聞こえるなんて。そんなに風は強かっただろうか。
不審に思って、イヤホンを外して確認しようとした手が、何気なく止まります。
イヤホンをとってはいけない気がしたのです。
何故でしょう。
確認したいだけなのに。風の音を。こんなに聞こえる、とても強い風を。ただ確認したいだけなのに。
手を耳に当てて、固まってしまったときです。
びゅうびゅう、ごうごう。
聞こえる音が、風ではないと気付きました。
びゅうびゅう、ごうごう。
…ひそひそ、ひそひそ。
それは人の声でした。
たくさんの、人の声でした。
風のように聞こえるほどたくさんの、誰かの声でした。知らない人の声でした。
信じられなくて思わず窓を振り返った私は。
窓の向こう側に映る、いいえ、窓越しにこちらを見詰めるたくさんの目と、目が合ったのです。
『なう』
「nowなの??」
なんの緊張もなく、友人からかかってきた電話に出ただけなのに、いきなり怖い話を聞かされた私。
通話が繋がってすぐ『怖い話をします』と宣言されて、とつとつと語り部のような口調で淡々と、抑揚なく、聞き取りやすいゆっくりな口調と声で語られた怪談。何が始まったのだと疑問を抱きながらもひとまず全部聞こうと黙っていた私は、流石に黙っていられずツッコミを入れた。
だってコイツ、なうっていった。nowって。
「まさに今なの? 現在進行形なの? 怪奇現象とコンニチハしているの?」
『時間的にこんばんはかな。数えたけど七人居るね。14個光ってるからそういうことだと思う』
「アー成る程14÷2=7だから7人ね。冷静に数えないで。人数を計算しないで。今すぐその場から逃げなさい」
『ここ私の部屋なんよ』
「うち来いすぐ来い迎えに行くから繋いだままにしといて」
『ふざけるなって言って通話切らないアンタが最愛』
「これ何回目だと思ってんの」
普通だったら冗談だと思われて、ふざけるなと怒られるだろう。
だけど私が冗談だと判断しないのは、ちゃんと理由がある。
『これで七回目だねぇ。お外の人と同じ』
「関連性を持たせるな。その分増えていくって邪推しちゃうでしょ」
『成る程。つまり次は八人』
「増やすなってば」
ワイヤレスのイヤホンに触れながら外に出る。この時、手に取ったのはお馴染みのお祓いグッズ。あまりに友人からホラーヘルプが入るので、塩や十字架、寺で購入したお札などがそろい踏みだ。宗教がごっちゃ煮? 何が効くのかわからなくて手当たり次第集めた。
なんで私がここまで集めたんだろう。ご本人が全く気にせずぽけっとしているからだ。
危機感を持て。
安全であって欲しい自室が安全じゃなくなってるんだぞ。もっと焦れ。
盛り塩とか御札とか対処していたけれど、来てる!!
『でも聞いて欲しい。最初は本当に外で誰かが盛り上がっているだけだと思ってた』
「まあ酔っ払いとか煩いからね」
『声は聞こえても会話の内容は聞こえない。なんかざわざわしているな。だけどイヤホン越しだしあまり気にしていなかった。いなかったの』
「…うん」
階段を駆け下りて街灯の下に出る。音を立てながら自転車を出し、地面を蹴って飛び乗った。
残念ながら自動車は持っていない。夜風を肌で感じながら耳を澄ませた。
『でもやけに聞こえてくるのよ。音楽を聴いても映画を見ても実況を見ても耳に残るざわざわ。風の音かしら? いいえ人の声です』
「お前余裕ぶっこくのいい加減にしろよ」
音楽も映画も実況も見聞きしてたんかい。
違和感を覚えたら行動しろ。どれだけ心霊現象を経験していると思っているんだ。数えられるだけで七回目だぞ。
『夜にカーテン開けるのってよくないじゃない? だから外を確認するつもりもなかったの。女の一人暮らしで夜に外見るとか警戒心ないじゃない?』
「その辺りの警戒心はあって安心だよ…いや待って。カーテンしてる?」
『してるしてる』
さあ振り返って読み返してみようか。
『だけど窓から人影が見えるんだよね』
カーテンの内側におりますね!!
外が見えない状態で目が光っているならカーテンの内側にいやがりますね!!
「あーもう! 家の前に着いたから、鍵だけ開けとけよ!?」
盛り塩もお札もあるだろうけど、私は人間なので関係ない。出入り自由だ。
自転車を止めて、除霊セットの詰められた鞄に手を突っ込む。こういうときは家の周りをファブリーズで一周してから…。
「…あれ?」
ファブリーズが入っていない。
中身を確認しなかった私が悪いが、いつも除霊グッズは切らさないようにしていたはずなのに。
ファブリーズが除霊グッズなのかと聞かれたらわからないけど。
あれ。
そうだ。もう無駄だって思ったから。
あれ。
無駄って、なんでそんな酷いことを…。
『来てくれて嬉しい』
「え?」
声は、イヤホンの外側から聞こえた。
ワイヤレスイヤホンで、通話中で、私はまだ外にいるんだから、部屋にいるはずのあの子の声は、イヤホンから聞こえるはずなのに。
『誰も来てくれなかったから』
何故か、イヤホン越しに聞こえるみたいに籠もった声で、遠く聞こえた。
『見えないものを見る私からの助けてを。知らないふりをしないで、駆けつけてくれるの、本当に嬉しかった』
すごく感動的な台詞なのに、寒気が止まらない。
道の端で自転車に跨がったまま、一歩も動けない。ハンドルを握る手が震えた。
なんだこれ。
どういうことだ。
なんでイヤホンの外側から、通話中のあの子の声が、聞こえるんだ。
ざわざわと風のように。複数で話し合っているように。反響するように。
だけど、何を言っているのかわかるくらい、近くで声がする。
そう、まるですぐ後ろにあの子がいるみたいに…。
「あ」
そうだ。
なんで忘れていたんだろう。
なんで当たり前みたいに電話に出た。
だってあの子は、七日前。
『だからね』
背中に、ひやりとした感触。
まるで濡れそぼったような。川に流された、あの子のような。
『信じてたよ』
後ろから回った冷気が私に絡んだ。まるで腕のように、胴に絡む。
あの子が、私に抱きついたなら、腕はきっとこの位置だ。
向こう側から声がする。イヤホンの向こう側から。世界の外側から。
狂気的なほど無邪気な声が聞こえる。
『呼んだら必ず、来てくれるって』
私が跨がっていた自転車が、ガチャンと倒れた。
どこからどこまでが実話だったのかは秘密です。
ちょっとでも「お、怖いやん」「ええやん」と思って頂けたのならば!
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