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リリィ視点③


「でも、結局のところ魔術が使えないわけですし、卒業しても意味なくないですか? そのあたり、大好きなお爺ちゃんはわかっているんですかね?」


 きっと、この人のお爺ちゃんは古い考えの人だ。


 努力で魔術が使えるようになると、本気で信じている人。

 そういう新興宗教は確かにある。でも、黒魔道士の家系であるわたしは、それらが嘘っぱちであることを知っている。


 魔術が使えるかどうかは、生まれた瞬間に決まってしまう。これは紛れもない事実。


 と、いうか……。このことについては学校の授業でも最初に習うはずだけど……。


 すると先輩は何故か、鼻で笑った。


「わかってないな。考えが浅すぎる。さすがは入学したての一年生だな。学校って場所はさ、学ぶのは二の次なんだよ。魔術が使えるかどうかは些細な問題だ。大切なのは卒業すること。そしたら就職にも有利に働くし、名門ギルドの募集要件だって満たせる」


 あぁ。なるほど。……なるほどなのか? 募集要件は満たせても、魔術が使えないんじゃ不採用は目に見えている気がするけど……。


 っていうか、すごい上からのもの言いなんだけど……。


 なんなの、この人。


 わたしが言葉に詰まっていたからなのか、先輩は続けて喋りだした。


「それにな、とりあえず出席だけしとけば卒業できる約束にもなってるんだ。すげーだろ? 爺ちゃんのコネを舐めんなよ。そのへんのコネとはワケが違うんだ」


 うん。この人は何を恥じるわけでもなく、不正の事実をペラペラと喋る。……大丈夫なのか?


「まぁ、それに。爺ちゃんはもうお空に居るからな。尚更、辞めるわけにはいかねえだろ」


 本当にペラペラと喋る人だ。


 会って数分。心を開き過ぎではないか?


 でもそういうことか。

 囚われているんだ。故人に。今という時間を──。

 馬鹿な人だな。まぁ、わたしも似たようなものだけど。


 この日を境に、わたしと先輩はよく話すようになった。

 校舎裏の木陰は絶好のサボりスポットで、共存したほうが互いに都合が良かったから。


 でも次第にわたしは、先輩とのお喋りを楽しみにするようになっていた。


「ねえねえレオンくん、焼きそばパン買って来てくださいよ」

「あ? どの口が言ってんだよ? 俺は先輩。お前は後輩。わかってんのか?」

「あははっ。そーでした! そーでしたね! せーんぱい!」

「おう。だったら一緒に行くぞ! 焼きそばパンだったか? 仕方ねえから奢ってやるよ」


 ここには身分もなにも関係ない。あるのは先輩と後輩。ただそれだけ。

 しかも先輩ヅラしてよく奢ってくれた。お金には困っていなかったけど、レオンくんのお金で食べるご飯は不思議と普段よりも美味しく感じたから!


 だからついつい、お金を持っていないフリをしてタカってしまう。


 とにかく先輩と居ると、毎日が楽しかったんだ。


 そんな日が続いたある日、先輩は突然、おかしなことを言いだした。


「らっきーすけべる?」

「そそ。ラッキースケベ流。前にコネがあるって言ったろ? 学園長先生がこのスキルの良識者でな。俺が入学できた理由でもあるんだよ」


 確かにずっと引っかかりはあった。貴族でもなんでもない、みすぼらしい先輩が魔術学校にあたりまえに来れるなんておかしな話だ。


 コネとは言っても、どこからどうみても平民だし。


 お爺ちゃんがお酒を我慢してお金を作ったって言ってたけど、その程度で賄えるほど、学費は安くない。


 だって話を聞く限り、しみったれた安酒場のイメージしか湧かないもん。そんなところで飲み食いを我慢したところで、入学金はおろか月謝にも届かない。


 ていうか、たぶん。レオンくんって平民ですらないっぽいんだよね。

 いつも小銭しか持ってないし。お金にやたらと意地汚いし。でも、奢ってくれる。お金ないくせに、わたしにご飯を与えてくれるんだ。


 あぁ。だからなのかな? レオンくんのお金で食べるご飯はとっても美味しい!


 一生、レオンくんのお金でご飯が食べられたらいいなあ!


 なんて。考えが脱線して、少しほんわかした気分になっていると──。


「ってことで、パンツを見せてくれないか?」

「はぁ?! な、な、なにを言い出しちゃってるんですか?! 頭でも打っちゃいましたか?」


 あれ、でも……。そういえば初めて会った日も……。パンtって言いかけてたっけ。


「いんや。ものすんごいモノを見せてやろうと思ってな。でも嫌なら強要はしない。これは俺の信念だ。そして爺ちゃんとの約束。嫌がる女のパンツは見ない。ってな!」


「えっと……。ちょっと意味がわからないんですけど……」


 なんなの。パンツ見たさに故人であるお爺ちゃんを引っ張り出してくるなんて……。不謹慎にもほどがある。


「まぁ、パンツ見せてくれればすぐにわかる。言葉で説明するよりもずっと早い。一度見たら忘れられない、とびきりすんごいモノを見せてやるよ」


 なんだかちょっと、言い方が卑猥……。


 でも。パンツ見たさに嘘をつくような人ではないと、わかっている。


「じゃあ一回だけですよ? チラッと一瞬。それでいいですか?」

「あぁ。それでいい。そのチラリズムが俺の鼓動を熱くさせる!」


 本当に不思議な人だ。言っていることは変態そのものなのに、下心がまるで感じられない。そういえばあの日も、下心は感じられなかった。


 正直、恥ずかしい。けど、先輩からお願いをされるなんて初めてだから。いつもご飯奢ってくれるし。


 そうしてわたしは──。


 自らのスカートの端をつまんで────めくった。


 かぁぁぁぁぁ……。と、恥ずかしさに浸る間もなく、とんでもない光景が目の前に広がった──。


 「ラッキースケべ流、伍ノ型。『おパンツ桜ブルース。幻影──』」


 凄まじかった。斬撃が花びらのように舞い、それでいて目で追いかけることができない。いったいどうなっているのか、リーサルウエポンの血筋を引くこのわたしでも理解できない……。


「な、なんなんですか、これは?」

「おパンツ桜ブルース、幻影だな。綺麗だろ?」

「はい。とても、綺麗でした……」

「良かった。この景色をお前に見せてやりたくてな」


「あ、ありがとうございます……」



 って! そういうことを聞いているんじゃなくて!

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