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(8)2025年8月1日 ニシノハテ村と呪法


◇2025年8月1日

 ──気がつくと、俺と魔女ルナの身体は見覚えのある部屋の見覚えのあるベッドの上で寝転んでいた。

 身体を起き上がらせる。

 すると、木でできた壁が、立派な木材でできた天井が、そして、質素なデザインの絨毯が、俺の視界に映り込む。

 間違いない。

 ここはニシテノハテ村の宿の中だ。

 どうやら俺達は魔王城からニシテノハテ村の宿の中にワープした……いや、ワープさせられたらしい。


「むぐっ!」


 ベッドの上から声が聞こえて来る。 

 恐る恐る声の方に視線を向けると、ガムテープみたいなもので口を封じられている狐耳の美少女──魔女ルナが寝転んでいた。

 いや、よくよく見ると、口だけじゃなくて、手足もガムテープみたいなもので拘束されている。

 その所為で、口についているガムテープみたいなものを取れなかったんだろう。

 そんな事を思いつつ、俺は深く考える事なく、魔女ルナの口についたガムテみたいなモノを剥がす。

 剥がした瞬間、彼女の口から『ぷはぁ!』という音が漏れ出た。


「ちょ! なに拘束外しているんですか! ここは私を乱暴に襲うところでしょう! エロ同人みたいに! エロ同人みたいに!」


「んじゃあ、手足の拘束も外していくぞー」


「えー! やだー! このまま百合乱暴されたーい! 拘束された状態でメチャクチャにされたーい!」


 魔女ルナの妄言を聞き流し、彼女の四肢に巻き付いたガムテープみたいなモノを剥がす。

 剥がし終えた後、魔女ルナは不服そうに表情を歪めると、どでかい溜息を吐き出した。


「全くアナタは女心を分かっていませんね。人気のない宿、四肢の自由を奪われた美少女、そして、密室で二人きりというシチュエーション。ここは百合乱暴する以外の選択肢以外ありません。あそこは百合乱暴するべきでした」


「いや、なんか知っていて当然のように使われているけどさ、百合乱暴ってなんだよ」


「×××××です」


「おい、ピー音入ったぞ、今」


「と、に、か、く! 私は可愛い女の子と百合百合したいんです! 可愛い女の子とエッチな事したいんです! たとえそれが×××であっても可! この燃え滾った性欲を何とかするために、私は今すぐにでも百合百合したいのです!」


「百合百合したいって、……一応、確認するけど、百合って女の子同士の恋愛の事を指しているんだろ?」


「はい」


「なら、俺じゃ無理だ。俺、こんな女体(なり)しているけど、中身は男だし」


「大丈夫ですよ、この世の中にはTS百合っていうジャンルがありますし。というか、メス堕ちさせれば、中身もメスになるのでノー問題です」


「いや、そこに俺の意思ないよね? 俺、一刻も早く男に戻りたいって言ってるよね」


「安心してください。もう男には戻りたくないと思う程に、女の悦びを教え……あいたっ!」


 グヘヘと笑いつつ、指を厭らしく動かしながら、こちらに迫って来る魔女ルナ。

 そんな彼女の脳天目掛けて、俺は反射的にチョップを繰り出してしまう。

 

「ちょ、何するんですかぁ!?」


「いや、身の危険を感じたので、つい」


「ついって何ですか、ついで攻撃するのは良くないと思いまーす!」


「もし俺がチョップしてなかったら、一体どうしてた訳?」


「そりゃあ、服を脱がして、そのバインバインに実った乳房を……ああ! またチョップしようとしている! チョップの体勢突入している!」


「ごめん、貞操の危機を感じたからつい」


「くっ……! ガード硬めですね……! それでこそ私が惚れた運命の人! よっしゃあ! 攻略難易度高めでテンション上がってキタァ!」


「ねぇ、今の状況をまとめたいから、ちょっとだけ大人しくしてもらえる?」


「あ、はい」


 魔女ルナが静かになったところで、閑話休題。

 新しく得た情報を素材にして、今までの状況をまとめようとする。

 先ず最初に起きた異変その一。

 俺の身体が女になった。

 しかもリバクエ(ゲーム)で普段使っている女キャラの姿になってしまった。

 次に起きた異変その二、両親の失踪。

 両親がいた部屋は何故か樹木が二本生えており、家中探しても何処にも見当たらなかった。

 その次に起きた異変は、異世界転移。

 気がつくと、俺の身体はリバクエ風の世界に転移した。

 その次に起きた異変は富士山よりも大きい女性──管理者の出現。

 管理者を名乗る女性の出現により、俺が女になったのも、世界がリバクエ風になったのも、全部管理者を名乗る女性の仕業である事が判明。

 管理者を名乗る女性曰く、『この世界』にいる魔王と四天王を倒せば、俺は男に戻れるアンド現実世界に帰還できるらしい。


「で、さっきマイハニーが魔王を倒したから、残りは四天王のみ。そいつらさえ倒せれば、この異常事態は解消される! そういう訳ですね!」


「ナチュラルに俺の思考読むの辞めてくれる? あとマイハニーって呼ぶな。俺、女になるつもりないから」


「じゃあ、マイダーリンって呼ぶ事にします」


「普通に名前で呼ぶって選択肢はねぇのかよ」


「え、私、アナタの名前知りませんよ?」


「……名前も知らねぇヤツに求婚したのか、あんたは」


「ええ、タイプの顔だったので。つい」


 『えへへ』と笑いながら、頭についている狐耳を動かす魔女ルナ。

 その姿を見て、不覚にも可愛いと思ってしまった。


「では、改めて自己紹介をしましょうか。私の名前はルナール・ヴァランジーノ。『魔女』であり、呪術師でもあり、そして、アナタの嫁或いは婿になる女!気軽にルナちゃんって呼んでください!」


「俺の名前は神永悠。東雲高校に所属している普通の高校二年生。よろしく」


「カミナガ・ユウ……じゃあ、ユウさん或いはマイハニーって呼ばせて貰いますね!」


「ユウさんでよろしくお願いいたします」


 そう言って、頭を下げたその時だった。


「はろはろでーす♪」


 ──俺達の前に赤いフードを深々と被った女性──管理者が現れたのは。


「また現れましたね! 陽キャ風に振る舞う陰キャ娘!」


 すぐさま戦闘体勢に突入する魔女ルナ。

 彼女は『ガルルル……!』と吠えながら、何処からともなく札を取り出す。

 そんな彼女を見ながら、俺は気づいた。

 管理者が俺を……俺達を見ていない事を。


「ごめんなさいー♪ 一日に何度も告知しちゃって。で、も、今回の告知は『皆さん』にとって良い報せを持ってきましたー!」


 そう言って、赤いフードを深々と被っている女性──管理者は口元を歪める。

 その笑みを見るや否や、隣にいる魔女ルナが反応した。


「なーに、強者(よゆう)ぶっているんですか! この陽キャに擬態した陰キャ風情が! その余裕顔、私の『とっておき』で崩してやるぜぇ!」


 魔女ルナが持っている札のようなモノが光る。

 彼女は静かに目を閉じると、光り輝く札を手放しながら、静かに閑かに呟いた。


「──呪法『炎律』──我が怨敵を灼き尽くせ」

 

 彼女の手から離れた札が赤黒い焔を発する。

 その瞬間、札が発した赤黒い焔は管理者の身体を呆気なく包み込むと、管理者の身体を静かに閑かに燃やし始めた。

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