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(69)2025年8月26日 トドメと庭園


「ぐっ……!」


 眩い光によって眩んだ視界が元の状態に戻る。

 先ず確認したのは、自分のHPバー。

 広範囲攻撃を繰り出したのだろう。

 敵──絶対悪が振るった光り輝く槍のようなものは俺のHPバーを3割程度削り上げていた。

 その所為で、俺のHPバーは半分を下回ってしまっている。

 早く回復アイテムでHPを補充……いや、その時間さえ勿体ない。

 いつの間にか、地面に平伏せていた身体を立ち上がらせる。

 そして、俺は目にした。

 地面の上に伏せている魔女達の姿を。

 倒れている大魔女ウルさん、そして、魔女エリザさんの姿を。

 そして、地面の上に大の字で寝転んでいる魔女ルナの姿を。

 

「ルナっ!」


 気絶しているルナの下に駆け寄ろうとする。

 しかし、絵心公園の中心に立つ敵──白髪の少女の姿が、それをさせなかった。

 

『はぁ、……はぁ、……プレイヤーネーム「ユウ」……!』


 絶対悪──敵の視線が俺を射抜く。

 それと同時に、不可視の攻撃が俺目掛けて飛んできた。

 迫り来る攻撃を目にも止まらぬ速さで躱す。

 そして、黒い木の棒──バグで攻撃力9999になっている──を構え直すと、身体の正面を敵の方に向けた。


『瑠璃川桜子の願いを叶えるには、お前が邪魔だ……! 願望機としての役目を果たすため、私はお前を……っ!?』


 敵の言葉を最後まで聞く事なく、俺は前に向かって走り始める。

 目にも映らぬ速度で駆け出し、敵との間にある50メートルを一瞬で詰める。

 そして、真っ暗に染まった木の棒を目にも映らぬ速度で振るうと、敵の急所──頭上で煌めく濁った球体目掛けて振るった。


『ちぃ……!』


 俺と敵の間に氷の壁が現れる。

 木の棒は氷の壁に激突すると、氷の壁を軽々と砕いた。

 

「ちっ……!」

 

 木の棒が敵の急所──頭上で煌めく濁った球体を掠める。

 氷の壁が木の棒を遮った所為で、敵に避ける暇を与えてしまった。


『喰らえっ!』


 敵の掌に濁った光が纏わりつく。

 濁った光を纏った敵は拳を握り締めると、右の拳を俺に向けて突きつけた。


「……っ!」


 迫り来る敵の拳。

 それを『ジャスト回避』を繰り出す事で避ける。

 敵の拳を紙一重で避ける。

 避け終えた後、俺はすぐさま『カウンターラッシュ』を放った。

 目にも映らぬ速度──通常の4倍の速さでラッシュ攻撃を繰り出す。

 けれど、俺のラッシュ攻撃は敵の両拳により遮られてしまった。

 木の棒と敵の拳が交差する。

 木の棒と敵の拳が衝突する度、眩い光が生じ、火花が舞い散る。

 『カウンターラッシュ』が全て防がれてしまった。

 だが、それで動じる俺ではない。

 『カウンターラッシュ』終了後、俺はすぐさま敵の背後に回り込む。

 通常の4倍の速さで敵の死角に入り込み、敵の急所に木の棒を叩き込む。

 だが、直撃寸前の所で俺の攻撃はまたもや躱されてしまった。

 

『幾ら速く動こうが、君の狙いは分かっている……!』


 そう言って、敵は両掌を俺の方に突きつける。

 攻勢に転じようとする。

 それを見て、俺は思った。

 思ってしまった。

 ──チャンスだ、と。


「──っ!」

 

 すぐさま木の棒を敵の急所目掛けて投げつける。

 俺の行動が予想外だったのだろう。

 投げつけた木の棒が敵の急所──敵の頭上で煌めく濁った球体に突き刺さる。

 突き刺さった瞬間、敵は白目を剥くと、甲高い断末魔を上げ始めた。


『がぁあああああああ!!』


 両手で頭を抱えながら、悶え苦しむ敵。

 その姿を睨みつけながら、俺は脳内ステータス画面から騎士の剣を引っ張り出す。

 騎士の剣を引っ張り出すと、俺はすぐさま剣を振る──


『ああああああ!!」


 ──うも、敵に真剣白刃取りされてしまう。

 敵は両掌で俺の斬撃を防ぐと、そのまま俺の剣を折ろうと力を加え始めた。


「ぐぅ……!」


 即座に剣を捨てる。

 脳内ステータス画面から新しい騎士の剣を引っ張り出す。

 すると、敵は俺から奪った騎士の剣を装備すると、俺が繰り出した斬撃を斬撃で返した。

 『ガキン』という金属同士の打つかる音が鼓膜を劈く。

 敵は騎士の剣を構え直すと、俺に向けて斬撃を繰り出し始めた。


「……っ!」


 『リフレクトアタック』を繰り出す。

 敵の斬撃を『リフレクトアタック』で弾き返す。

 『リフレクトアタック』が発動した瞬間、敵は体勢を崩した。

 チェックメイトだ。

 敵の急所目掛けて突きを繰り出す。

 その瞬間、敵は右人差し指を俺に向けると、邪悪な笑みを浮かべた。


『──かかったな』


 敵の右人差し指の先端が光り輝く。

 攻撃するつもりだ。

 敵の意図に気づく。

 攻撃を中断し、回避に徹するべきか。

 それとも相打ち覚悟で攻撃を続行するか。

 刹那の間に考える。

 だが、俺が答えを出すよりも先に、敵の右手に火炎の塊が突き刺さった。


「呪法『炎律』──我が怨敵を焼き尽くせ』


 ルナが繰り出した攻撃──火炎の塊が敵の右手を弾き飛ばす。

 敵に傷一つ与える事なく、敵の手だけを弾き飛ばしてしまう。

 その所為で、敵の攻撃は俺に当たる事なく、明後日の方に飛んでいってしまった。


『なっ……!?』


 最後の一手をルナに邪魔された事で、敵は隙だらけの状態になってしまう。

 もうこれ以上のチャンスはないだろう。

 そう思った俺は残った力を全て振り絞り、突きを繰り出す。

 敵の頭上で煌めく濁った球体に騎士の剣を突き刺す。

 球体に剣の鋒が突き刺さった瞬間、球体は『パキン』と音を立て───


 気がつくと、俺は庭園(ガーデン)椅子(チェア)の上に座っていた。

 周囲を見渡す。

 天と地の境目が分からない程に真っ白な空間。

 そんな殺風景な空間に存在しているのは、鉄製の庭園(ガーデン)(テーブル)庭園(ガーデン)椅子(チェア)

 そして、俺と見知らぬ老人だった。


「プレイヤーネーム『ユウ』。私と手を組まないか?」

 

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