(69)2025年8月26日 トドメと庭園
◇
「ぐっ……!」
眩い光によって眩んだ視界が元の状態に戻る。
先ず確認したのは、自分のHPバー。
広範囲攻撃を繰り出したのだろう。
敵──絶対悪が振るった光り輝く槍のようなものは俺のHPバーを3割程度削り上げていた。
その所為で、俺のHPバーは半分を下回ってしまっている。
早く回復アイテムでHPを補充……いや、その時間さえ勿体ない。
いつの間にか、地面に平伏せていた身体を立ち上がらせる。
そして、俺は目にした。
地面の上に伏せている魔女達の姿を。
倒れている大魔女ウルさん、そして、魔女エリザさんの姿を。
そして、地面の上に大の字で寝転んでいる魔女ルナの姿を。
「ルナっ!」
気絶しているルナの下に駆け寄ろうとする。
しかし、絵心公園の中心に立つ敵──白髪の少女の姿が、それをさせなかった。
『はぁ、……はぁ、……プレイヤーネーム「ユウ」……!』
絶対悪──敵の視線が俺を射抜く。
それと同時に、不可視の攻撃が俺目掛けて飛んできた。
迫り来る攻撃を目にも止まらぬ速さで躱す。
そして、黒い木の棒──バグで攻撃力9999になっている──を構え直すと、身体の正面を敵の方に向けた。
『瑠璃川桜子の願いを叶えるには、お前が邪魔だ……! 願望機としての役目を果たすため、私はお前を……っ!?』
敵の言葉を最後まで聞く事なく、俺は前に向かって走り始める。
目にも映らぬ速度で駆け出し、敵との間にある50メートルを一瞬で詰める。
そして、真っ暗に染まった木の棒を目にも映らぬ速度で振るうと、敵の急所──頭上で煌めく濁った球体目掛けて振るった。
『ちぃ……!』
俺と敵の間に氷の壁が現れる。
木の棒は氷の壁に激突すると、氷の壁を軽々と砕いた。
「ちっ……!」
木の棒が敵の急所──頭上で煌めく濁った球体を掠める。
氷の壁が木の棒を遮った所為で、敵に避ける暇を与えてしまった。
『喰らえっ!』
敵の掌に濁った光が纏わりつく。
濁った光を纏った敵は拳を握り締めると、右の拳を俺に向けて突きつけた。
「……っ!」
迫り来る敵の拳。
それを『ジャスト回避』を繰り出す事で避ける。
敵の拳を紙一重で避ける。
避け終えた後、俺はすぐさま『カウンターラッシュ』を放った。
目にも映らぬ速度──通常の4倍の速さでラッシュ攻撃を繰り出す。
けれど、俺のラッシュ攻撃は敵の両拳により遮られてしまった。
木の棒と敵の拳が交差する。
木の棒と敵の拳が衝突する度、眩い光が生じ、火花が舞い散る。
『カウンターラッシュ』が全て防がれてしまった。
だが、それで動じる俺ではない。
『カウンターラッシュ』終了後、俺はすぐさま敵の背後に回り込む。
通常の4倍の速さで敵の死角に入り込み、敵の急所に木の棒を叩き込む。
だが、直撃寸前の所で俺の攻撃はまたもや躱されてしまった。
『幾ら速く動こうが、君の狙いは分かっている……!』
そう言って、敵は両掌を俺の方に突きつける。
攻勢に転じようとする。
それを見て、俺は思った。
思ってしまった。
──チャンスだ、と。
「──っ!」
すぐさま木の棒を敵の急所目掛けて投げつける。
俺の行動が予想外だったのだろう。
投げつけた木の棒が敵の急所──敵の頭上で煌めく濁った球体に突き刺さる。
突き刺さった瞬間、敵は白目を剥くと、甲高い断末魔を上げ始めた。
『がぁあああああああ!!』
両手で頭を抱えながら、悶え苦しむ敵。
その姿を睨みつけながら、俺は脳内ステータス画面から騎士の剣を引っ張り出す。
騎士の剣を引っ張り出すと、俺はすぐさま剣を振る──
『ああああああ!!」
──うも、敵に真剣白刃取りされてしまう。
敵は両掌で俺の斬撃を防ぐと、そのまま俺の剣を折ろうと力を加え始めた。
「ぐぅ……!」
即座に剣を捨てる。
脳内ステータス画面から新しい騎士の剣を引っ張り出す。
すると、敵は俺から奪った騎士の剣を装備すると、俺が繰り出した斬撃を斬撃で返した。
『ガキン』という金属同士の打つかる音が鼓膜を劈く。
敵は騎士の剣を構え直すと、俺に向けて斬撃を繰り出し始めた。
「……っ!」
『リフレクトアタック』を繰り出す。
敵の斬撃を『リフレクトアタック』で弾き返す。
『リフレクトアタック』が発動した瞬間、敵は体勢を崩した。
チェックメイトだ。
敵の急所目掛けて突きを繰り出す。
その瞬間、敵は右人差し指を俺に向けると、邪悪な笑みを浮かべた。
『──かかったな』
敵の右人差し指の先端が光り輝く。
攻撃するつもりだ。
敵の意図に気づく。
攻撃を中断し、回避に徹するべきか。
それとも相打ち覚悟で攻撃を続行するか。
刹那の間に考える。
だが、俺が答えを出すよりも先に、敵の右手に火炎の塊が突き刺さった。
「呪法『炎律』──我が怨敵を焼き尽くせ』
ルナが繰り出した攻撃──火炎の塊が敵の右手を弾き飛ばす。
敵に傷一つ与える事なく、敵の手だけを弾き飛ばしてしまう。
その所為で、敵の攻撃は俺に当たる事なく、明後日の方に飛んでいってしまった。
『なっ……!?』
最後の一手をルナに邪魔された事で、敵は隙だらけの状態になってしまう。
もうこれ以上のチャンスはないだろう。
そう思った俺は残った力を全て振り絞り、突きを繰り出す。
敵の頭上で煌めく濁った球体に騎士の剣を突き刺す。
球体に剣の鋒が突き刺さった瞬間、球体は『パキン』と音を立て───
◇
気がつくと、俺は庭園椅子の上に座っていた。
周囲を見渡す。
天と地の境目が分からない程に真っ白な空間。
そんな殺風景な空間に存在しているのは、鉄製の庭園卓と庭園椅子。
そして、俺と見知らぬ老人だった。
「プレイヤーネーム『ユウ』。私と手を組まないか?」




