(67)2025年8月26日 破壊と奥の手
◇
敵の急所──濁った球体にヒビが入る。
その瞬間、敵──絶対悪は両手で頭を抱えると、今まで聞いた事のない絶叫を上げ始めた。
『あがああああああ!!!!!』
悶え苦しむ敵。
そんな敵を睨みながら、俺は追撃を繰り出す。
先ず逆袈裟斬り。
敵の頭上で煌めく濁った球体目掛けて斬撃を繰り出す。
次に袈裟斬り。
敵の頭上で煌めく濁った球体に鋭い斬撃を浴びせる。
最後に突き。
敵の頭上で煌めく濁った球体に向かって渾身の突きを放つ。
高速で繰り出した3連撃。
それらは敵の急所に突き刺さると、敵に致命的な傷を与えた。
『あああ、……! ああああああ……!!』
敵の頭上で煌めく濁った球体に幾多の亀裂が生じる。
球体にヒビが入ると同時に、敵の口から痛みを訴える声が引き出される。
痛がる敵を見て、俺は、俺達は思う。
『後少しだ』と思う。
だから、俺は敵に引導を渡すため、片手剣を振ろう──としたその時、敵が爆発した。
『あああああ!!!!!」
敵の身体が爆炎と爆風に包まれる。
その瞬間、俺の身体は爆炎に炙られ、爆風によって吹き飛ばされてしまった。
「ぐぅ……!」
ほんの少しだけHPバーが削れる。
両手に軽い火傷を負い、爆風によって吹き飛ばされた身体が地面に叩きつけられる。
急いで体勢を整えようとする。
その瞬間、敵の視線が俺の身体を射抜いた。
『プレイヤーネーム「ユウ」……! お前が1番邪魔だ……!』
そう言って、敵は指を鳴らす。
パチンという音を鳴らす。
『お前さえいなくなれば、後はどうにでもなる……! だから、!』
敵の視線に憎悪が入り混じる。
それと同時に、俺の身体にノイズが走った。
『一度、「この世界」を破壊する……!』
敵の声が響き渡る。
響き渡った途端、地面が激しく揺れ始める。
空に幾多の亀裂が走る。
現在地──絵心公園全体にノイズが走る。
(何が起き……っ!?)
自分の右腕を見る。
純白に艶めく透明感溢れる肌。
シミ一つない筈の白い肌が、徐々に小麦色に変わる。
真夏の太陽によって小麦色に焼けた肌に変わり始める。
それを見て、俺はすぐさま気づいた。
自分の女体が男体に戻りかけている事実を。
女から男に戻り始めた事実を。
俺は一瞬で気づいてしまう。
「やばっ……!」
冷や汗が背中を伝う。
やばい。
このまま元に戻ったら、元の男の身体に戻ってしまったら、闘えなくなってしまう。
今、俺が敵──絶対悪と闘えているのは、女体だからだ。
今、元に戻ってしまったら、ただの男子高校生になってしまう。
今、元に戻ってしまったら、何もできなくなってしまう。
「ちっ……!」
男に戻りたくて、俺は此処までやって来た。
男に戻りたくて、俺は数多の敵と闘ってきた。
けど、今男に戻るのはヤバ過ぎる。
敵──絶対悪に勝つチャンスを喪失してしまう。
だが、覆水が盆に返らないように、動き出した時は止まらない。
俺の身体は着実に確実に女から男に戻り始める。
『この世界』は確実に破滅の一途を辿ってしまう。
どうにかしなければ。
そう思った途端、俺はルナ──魔女であり俺の恋人でもある狐耳の少女──に指示を送った。
「ルナ! 時間を稼いでくれ!」
「はいはーい! 分かりましたっ!」
理由を聞く事なく、ルナは俺の指示に従う。
「時間稼ぐんやなっ! 分かったで!」
「総員! 引き続き、攻撃を行えっ! ルナとエリザはプレイヤーネーム『ユウ』の護衛っ! いいなっ!? 分かったら動けっ!」
俺の声を聞くや否や、エリザさんと大魔女さん達が動く。
俺が『準備』するための時間を稼ぐため、魔女達が動き始める。
それを眺めながら、俺は片手剣──騎士の剣を投げ捨てた。
そして、脳内ステータス画面から木の棒を引っ張り出す。
(これだけはやりたくなかったが、背に腹は代えられねぇ……!)
そう思いながら、俺は木の棒を真上に放り投げる。
そして、もう一度木の棒を取り出すと、放り投げた木の棒と取り出した木の棒を『重ねた』。
『──ノーリスクで使えるバグ技、リバクエには存在しねぇぞ』
以前、自分が吐き出した言葉を思い出しながら、俺は取り出した木の棒と真上に放り投げた木の棒を『重ね』続ける。
その結果、重ねまくった木の棒は真っ黒に染まってしまった。
(よし……! 武器はできた……! あとは……!)
すぐさま屈伸を始める。
屈んだ後、その場でジャンプする。
屈伸5回行った後、ジャンプ6回行う。
そして、装備している木の棒を真上に投げた後、もう1回屈伸。
落ちてくる木の棒をキャッチしつつ、その場で回避アクションを行う。
その瞬間、俺の身体は『4倍速』になった。
(よし……! 4倍速バグ技成功……!)
4倍速バグが成功するや否や、俺は木の棒──バグ技で攻撃力9999にしたもの──を握り締める。
地面を思いっきり蹴り上げる。
魔女達と闘っている敵の下に向かって走り始める。
敵との距離は大体40メートル。
その距離をたった1秒で詰める。
たった1秒で詰めた後、魔女達と闘い続けている敵──敵の頭上で煌めく濁った球体に向けて黒い木の棒を振るう。
木の棒を振るった瞬間、木の棒は敵の腕に減り込んだ。
『くっ……!』
間一髪の所で俺の攻撃を防いだ敵は、苦しそうに表情を歪ませる。
そんな敵を睨みながら、俺は敵に言葉をかける事なく、木の棒を敵の急所目掛けて振るった。




