(66)2025年8月26日 猛攻とヒビ
◇
敵──絶対悪の頭上で煌めく濁った球体。
妖しく輝く濁った球体目掛けて、俺は片手剣を振るう。
俺が振るった片手剣は勢い宙を良く裂くと、敵の頭上で煌めく濁った球体に減り込んでしまった。
『ああああああ……!!』
俺の斬撃が敵の口から断末魔を引き出す。
会心の一撃だったのだろう。
先程の断末魔以上のものが敵の口から漏れ出る。
だが、致命傷じゃないのか、敵の口から漏れ出る断末魔には余裕の二文字が微かに存在していた。
「うおおおおお!!」
濁った球体から片手剣を引き抜く。
そして、俺は腹から声を出すと、そのまま追撃を行った。
袈裟斬り。
逆袈裟斬り。
袈裟斬り。
逆袈裟斬り。
計4連撃を敵の急所──敵の頭上で煌めく濁った球体──に叩き込む。
俺の攻撃がヒットする度、敵の口から痛みを訴える声が漏れる。
それを聞きながら、俺は眉間に皺を寄せると、渾身の力で片手剣を振り下ろした。
『ごがあああああ!』
片手剣が敵の頭上で煌めく濁った球体に減り込む。
たった5撃。
たった5撃受けただけで、濁った球体に幾多の切り傷が刻まれた。
けれど、破壊する事はできず。
俺は急いで片手剣を濁った球体から引き抜くと、すぐさま突きを放った。
『がああああああ!!』
片手剣の鋒が濁った球体を貫く。
渾身の一撃。
にも関わらず、敵に致命的な一撃を与えられなかった。
(手応えはある……! けど、敵を倒すにはまだ足りない……!)
急いで追撃を行おうとする。
が、追撃を行おうとした瞬間、敵の身体から突風が噴き出てしまった。
突風の勢いに耐え切れず、俺の両足が地面から引き剥がされてしまう。
後方に吹き飛ばされてしまう。
俺は情けなく地面の上を2〜3回転がると、強引に態勢を整える。
そして、再び敵の下に向か──おうとした時、それは起きた。
『調子に乗るなよ、弱者如きがぁぁあ!!』
激昂した敵の身体から稲妻が、火炎が、氷塊が、暴風が、噴き出る。
稲妻が敵の身体に纏わりつき、火炎が天を焦がし、氷塊が周囲の空気を冷やし、暴風が絵心公園の近くに建っているビルの窓ガラスを叩き割る。
敵の身体から噴き出る稲妻も、火炎も、氷塊も、暴風も凄まじいものだった。
その所為で、敵に近寄れなくなってしまう。
このままじゃ追撃ができないと思ったその時、いつの間にか気絶から立ち直っていた大魔女ウルさんが声を張る。
「今だっ! 総員攻撃っ!」
ウルさんの方に視線を送る。
彼女は上空に視線を送っていた。
慌てて空を仰ぐ。
上空。
そこにはルナやエリザさんと同じ格好をした女性達──魔女26人が箒に跨っていた。
箒に跨りながら、杖を構える魔女達を見て、俺は思い出す。
依然、ウルさんが言っていた言葉を。
◆2025年8月11日
『なぁ、ウルさん。今、動かせる魔女はどれくらいいるんだ?』
『私含めて26人程度だ』
◆
ウルさんが動かせる魔女──全26名が魔法を繰り出す。
魔女達が繰り出す魔法の種類は様々だった。
火炎、稲妻、氷柱、風槍、飛礫。
魔女達が繰り出した多種多様な魔法が敵の頭上──正確に言えば、敵の頭上で煌めく濁った球体目掛けて降り落ちる。
『くそがっ!』
敵は魔女達の攻撃を目視した途端、汚い声で毒吐く。
そして、両掌を天に向けると、不可視の攻撃を射出した。
目に見えない強い圧力が魔女達の魔法を押し返す。
火炎は砕け、稲妻は溶け、氷柱は燃え、風槍は凍てつき、飛礫は掻き消される。
魔女26名が放った攻撃が一瞬で無力化されてしまう。
それを目視しながら、俺は、否、俺達は前に向かって駆け出した。
「呪法『光律』っ! 我が光よ、怨敵を照らせっ!」
敵との距離を詰めながら、ルナが札のようなものを放り投げる。
ルナが放り投げた札のようなものは眩い光を発すると、光の弾と化した。
ルナが生み出した光弾が敵の下に向かって飛翔する。
敵は舌打ちすると、地面を蹴り──上げられなかった。
「──担え、重石よ。我は重力を御する者」
ウルさんが繰り出した重力の魔法が、ほんの一瞬だけ敵の身体を地に縫い付ける。
『小癪な……!』
だが、敵の動きを止められたのはほんの一瞬だけだった。
すぐさま敵は力尽くで重力の枷を破壊すると、目にも映らぬ速度で駆け出し始める。
「──ルナ、プレイヤーネーム『ユウ』。そこから動いたらあかんで」
魔女エリザさんの声が俺とルナの視線を惹きつける。
いつの間にか拘束から逃れていたのだろう。
エリザさんは杖を構えると、大胆不敵な笑みを浮かべていた。
「いけ、我が風よ。ウチは風を制する者」
エリザさんが生み出した緑の竜巻。
それが俺達の前に現れる。
全長10メートル程の竜巻は勢い良く吹き荒れると、拘束移動する敵の身体をほんの一瞬だけ足止めした。
「今やっ!」
「呪法『樹律』。我が蔦よ、怨敵を縛れ」
竜巻により敵の動きがほんの一瞬だけ止まる。
その隙にルナは地面に札のようなものを叩きつける。
その瞬間、地面から突き出た黒い蔦が敵の足にしがみついた。
敵の動きが止まる。
その隙を見逃す事なく、俺は駆け出す。
数十メートル先にいる敵の下に向かって駆け出す。
そして、全速力で敵の下に駆け寄ると、俺は敵の急所目掛けて片手剣を振り下ろした。
「うおおおおおおお!!」
腹から声を上げながら、敵の頭上で煌めく濁った球体に片手剣を叩き込む。
全体重を乗せた一撃。
その一撃は敵の急所──濁った球体にヒビを入れた。




