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(52)2025年8月24日 告白と宣戦布告

「だめだ。見つからねぇ」


 炎の四天王イフリトの居場所を探し始めて、早数日。

 俺──神永悠は魔女ルナと共に町の中を練り歩いていた。


「此処まで探していないとなると、県外……いや、国外にいるかもしれませんね」


「なぁ、ルナ。アレから大魔女からの連絡は……」


「あったら、とっくの昔に連絡してますよ」


「ですよねー」


「まあ、焦っても何にもならないし、ゆっくり探しましょう」


 そう言って、ルナは狐耳をピコンピコン動かしながら、笑みを浮かべる。


「でもなー、ゆっくり探すってのは俺の性に合ってないんだよなぁ。一刻も早くイフリトと闘いてぇ」


「私はユウさんに犯されたいです」


「どうした急に」

 

 突然、変な発言を繰り出すルナ。

 それに対し、即座にツッコむ俺。

 俺のツッコミを聞いちゃいねぇのか、ルナは満面の笑みを浮かべ、右人差し指と右中指の間に右親指を挟んで握ると、それを俺に見せつけた。


「私は今此処で宣言致します! これからユウさんに『こいつ……! 今すぐ犯してぇ!』と思われる(メス)になると!」


「お前、いつも性欲持て余しているよな」


 爽やかな笑顔で下の話をし始めるルナ。

 それを見て、俺は素直にドン引きする。


「ええ。何だかんだで禁欲半月以上している上、好きな人(ユウさん)と四六時中一緒にいるのですから」


 そう言って、ルナは俺の顔を凝視する。

 すると、彼女の瞳に黒いドレスを着込んだ金髪金眼の美女──今の俺の姿が映し出された。

 艶のある美しくて金髪。

 幼さを残しながらも、凛とした印象を与える可愛らしい顔。

 高くて形が整った鼻。

 ビックなハンバーガーなんて食べられないんじゃないかと思うくらい小さな口。

 宝石のように煌めく金の瞳。

 二重瞼で少しツリ気味の大きな目。

 色白で透明感溢れる素肌。

 モデルのように小さい顔を支えるスラッとした首。

 まるで芸術品のような容姿端麗の美女──今の俺のがルナの瞳に映し出される。


「本当、ユウさんの容姿、私の好みにドストライクです。美人なのに可愛らしい顔! どんと前に突き出た大きな胸肉! スカートを押し上げる大きなお尻! どっから見ても、目の保養です! 胸の谷間を見せびらかす花嫁衣装みたいな格好もベリーグッド! 身体からはいい匂いが漂っていますし……ああ、もう今すぐにでもエッチしたいです!」


「言っておくけど、今の俺の容姿、造りものだからな。俺が『リバクエ』を始める時にキャラメイクしたものだからな。本当の俺は冴えない男子高校生だって事を忘れんなよ」


「安心してください。この騒動が終わる頃には、男に戻りたくないとユウさんに言わせてみせますので」


 そう言って、『ふっふっふ』と怪しい笑みを浮かべるルナ。

 それを見て、俺は『もしかして、ルナを何とかしないと、俺、一生男に戻れないんじゃ』的な不安を抱いてしまう。

 

「安心してください。私──ルナール・ヴァランジーノは最も大魔女に近いと噂されている優秀な魔女兼呪術師! ユウさんが一生その姿でいたいと望むのならば、私の魔呪術で望みを叶えてあげましょう」


「だから、俺は男に戻りたいって言ってるだろ。一生、女でいるつもりはないからな」


「安心してください。必ずユウさんを立派なメスにしてあげますので」


「さっきから安心してくださいって連呼しているけれど、安心する要素何処にもないんだけど。男でいたい俺にとっては恐怖でしかないんだけど」


 溜息を吐き出しながら、俺は自分の胸を見る。

 相も変わらず、胸についた乳肉はドレスみたいな衣服を押し上げながら、自己主張するかのように厭らしく揺れていた。

 露わになった自らの胸の谷間を眺めながら、俺は再び溜息を吐き出す。

 胸の重みを感じる度、俺は思う。 

 思ってしまう。

 女の身体に慣れてしまったなぁ、と。

 胸の重みも、スカートを履いている事も、痴女みたいな格好をしている事も、嫌悪感どころか違和感さえ抱けなくなってしまっている。

 女の身体に適応しつつある自分に対して、恐怖を抱いてしまう。

 このままじゃ女である事に違和感を抱けなくなるのも時間の問題だろう。

 『早く男に戻らないとなぁ』と思いながら、またもや溜息を吐き出す。


「そもそも何で男に戻りたいって思っているのですか。こーんなに美しくて可憐でおっぱいデケェ美女になったというのに」


「そりゃあ、俺、女になりたいなんて1度も思った事ねぇし。男に抱かれるよりも女を抱きたいって思っているし。というか、ティンティンないのが嫌過ぎる。女の身体には慣れつつあるけれど、ティンティンないのに違和感マックスというか。生まれた時から連れ添っている相棒がいない事に喪失感を抱いているというか何というか……」


 あまり言語化が得意じゃない俺は、必死になって自分の気持ちを形にしようとする。

 けれど、上手く言葉にする事ができず、つい口篭ってしまった。


「なるほど。女に抱かれる事に対しては許容できる、と」


「いや、そんな事言ってねぇから」


「じゃあ、女を抱ければ身体が女のままでも構わないと」


「いや、そんな事も言ってないから」


「安心して下さい、ユウさん、私は魔女。やろうと思えば、タチにもネコにもなれます」


「たち? ねこ? なにそれ?」


「ユウさん、真の男というものはティンティンがなくとも、女を抱けるものなのです。なので、四の五の言わずに私を抱くべきかと」


「いや、抱かないから。というか、まだ出会って数日しか経っていないどころか付き合ってさえもいない人を抱くのは不誠実過ぎるだろ」


「え、私達、付き合っていないんですか!? 私、告白したのに!」


「いや、いつ告白したんだよ」


「初対面の時に言いましたよね!?」


「あー、確かに言ってたような……え、あれ、ガチ告白だったの」


「ガチ告白だったので、返事してください。勿論、オッケーですよね?」


「勿論オッケーって、……どんだけ自分に自信あるんだよ」


「え、でも、断る理由なくないですか? ユウさん、私の事を嫌いじゃないですよね?」

  

「確かに嫌いじゃないけど、……」


「なら、試しに付き合ってみましょうよ。付き合って始めて分かる事は沢山ありますし。ほら、性格の相性だとか身体の相性だとかは恋人関係じゃないと分からないじゃないですか」


「いや、付き合うって、……確かにお前の事は嫌いじゃないけどさ。別に恋人的な意味で好きって訳でもないんだぞ。そんなヤツと試しで付き合って、……その、大丈夫なのか?」


「大丈夫ですよ。世の中には付き合って初めて恋心を自覚するケースだってある訳ですし」


「……俺、男に戻る予定だぞ? この容姿じゃなくなるんだぞ? それでもいいのか?」


「あー、もう面倒臭いですね。これだから童貞は」


 そう言って、魔女ルナは足を止めると、俺の前へと移動する。

 俺の前へ移動するや否や、俺の両手を握る。

 そして、真っ直ぐ俺の目を見据えると、自分の気持ちを赤裸々に語り始める。

 突拍子のない彼女の行動により、俺は思わず面食らってしまった。


「私はもっとアナタの事が知りたい。私の事をアナタに知って貰いたい。だから、付き合いましょうって提案しているんです。ここまでオッケーですか?」


「え、あ、ああ……」


「男に戻るだとか、○ックスするとか、そんなものは後回し! 今は将来起こり得る事を聞いているのではなく、ユウさんの今の気持ちを聞いているのです! ここまでオッケーですか!?」


「あ、ああ……」


「ちなみに今の私の気持ちはユウさんと付き合いたいって気持ちで一杯です! ユウさんと恋人同士になりたいって気持ちが、今の私の気持ちです! ここまでオッケーですか!?」


「ああ。お、オッケーだ」


「ユウさん、アナタの事が好きです! 一目惚れです! 私と付き合ってください! ここまでオッケーですか!?」


「あ、ああ、オッケーだ」


「よっしゃあ! 言質とったぁ! コレで私とユウさんは恋人同士ですね!」


 あ、やべ。

 つい流れでオッケーって言ってしまった。

 『しまった』と思ってしまう。

 だが、嬉しそうに俺の両手を掴みながら、ぴょんぴょん飛び跳ねる魔女ルナを見て、俺は『まあ、付き合うくらいなら別にいいか』と思ってしまった。


「んじゃあ、恋人同士になったので、早速○ックス……」


「……ちなみに言っておくけど、付き合ったからって性的接触を許した訳じゃないからな。性的接触しようとしたら、いつも通りにチョップするからな」


「はいはーい! プラトニックなラブをご所望ですね! 大体把握しました!」


「いや、大体じゃなくて、完璧に把握しろ。じゃないと、チョップするから……って、おい」


 そう言って、魔女ルナは俺の右腕に抱きつく。 

 嬉しそうにニマニマ笑いながら、俺の右腕に頬を擦り付ける。

 そして、上目遣いで俺の顔を見上げながら、可愛い声で『ユウさん』と俺の名を呼んだ。

 そんなルナの仕草に思わずドキッとしてしまう。


「ち、近いって……」


「いいじゃないですか! コレくらいのスキンシップ! 世の恋人達はこのくらい余裕でやっていますよ!」


「世の恋人達は、もうちょっと段階を踏んでいると思うぞ」


「まあまあ! 細かい事は気になさらずに! これからめいいっぱいラブラブしていきましょう!」


 あたふたする俺の姿を見て面白がりながら、ルナは俺の腕に絡みつく。

 

 ……こうして、俺と魔女ルナは恋人同士になってしまった。

 あれ?

 もしかして、俺って押しに弱い?


「なにいちゃついてるんですか」


 なぁなぁでルナと恋人同士になったその時だった。

 背後から声が聞こえてきたのは。

 振り返る。

 そこにいたのは、


「お久しぶりですね、プレイヤーネーム『ユウ』。今日はアナタに宣戦布告を叩きつけに来ました」


 赤い布を深々と被った女性──管理者を名乗る女だった。

 

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