(50)2025年8月17日 スケベ万歳と残り1体
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前回までのあらすじ。
死にたい。
「そりゃあ、そうですよね。女の子の気持ちいい、味わいたいですよね」
「……あの、ルナさん。もう勘弁してくれませんか」
ベッドの上。
布団の中に入り込みながら、俺はルナに懇願する。
「いいえ。恥ずかしい事じゃないですよユウさん。異性の気持ちいいを味わってみたい。それは人間が持つ根源的な願いですから」
「やめて! 生温かい目で俺を見るのやめて! どうせ俺はムッツリスケベですよーだ!」
「スケベのなにが悪いんですか!? 人は皆スケベなんですよ! むしろスケベだから、人は人を愛し、子を作る事ができるんです! スケベ万歳! スケベは人類繁栄のために必要な性なり!」
そう言って、『スケベ万歳』を連呼し始めるルナ。
彼女みたいにオープンスケベになり切れない俺は、布団の中で頭を抱えると、さっきの痴態を思い出しつつ、悶絶し続けていた。
「安心してください! ユウさん! 私は最も大魔女に近い魔女! ユウさんに女の子の気持ちいいを教えるのなんて、朝飯前です! ですから、私に身と心を委ねて下さい!」
「もう勘弁してってさっきから言ってるじゃん! 何で追い打ちかけ続けてんの!?」
「いや、この流れだったらワンチャンいけるかなって」
「この流れでワンチャンいく程、俺はオープンになり切れねぇ!」
「あ、大魔女とエリザの魔力を感知しました。あと五分程度で此処に着くみたいです」
「待て。俺、まだメンタル整ってないんだが! さっきの痴態を思い出し、悶絶し続けているんだが!」
「大丈夫です。私は最も大魔女に近い魔女にして性技の味方。五分あれば、ユウさんをイカせる事ができます」
「どこに大丈夫の要素があるんだ、それ!?」
そんなこんなルナと話している内に、我が家に大魔女ウルさんと魔女エリザさんが来訪する。
俺は無理矢理メンタルを切り替えると、彼女達の来訪を歓迎した。
「なるほど。プレイヤーネーム『ユウ』の身体を調べて欲しいのか」
リビングのソファーに腰掛けながら、ウルさんは俺の方を一瞥する。
「はい。ユウさんの身体を知る事ができたら、この状況をより理解できると思います」
ウルさんとエリザさんに一通りの事情を話し終えた途端、ルナはウルさんに俺の身体の調査をお願いする。
ウルさんは『分かった』と告げると、俺に向けて右手を差し伸べた。
「では調べさせて貰おう。プレイヤーネーム『ユウ』、私の手を握ってくれ」
そう言われたので、俺は自らの右手をウルさんの方に差し出す。
ウルさんは俺の手を握ると、右手を微かに発光させた。
「なるほど。どうやらプレイヤーネーム『ユウ』の身体は、樹木のようなもので構成されているみたいだな。プレイヤーネーム『ユウ』の本体は、その女体の内側にある」
「やっぱり」
大体推測できていたのだろう。
ウルさんの言葉に反応したルナが、『やっぱり』の一言を搾り出す。
「恐らく他のプレイヤーも似たようなものだろう。樹木のようなもので構成された身体。その中に本体を内包していると思われる」
「つまり、魔女以外の人類は本体である身体を樹木の中に閉じ込められている……と」
「ああ、多分な。」
「あ、あの」
ルナとウルさんの会話に割り込む。
そして、俺は彼女達を交互に見ると、疑問の言葉を口遊んだ。
「今の俺の身体って、樹木でできているんですか。その割には柔らかい……というか、肉々しいと思いますが」
「それは君の本体である身体が、樹木のようなものでできた身体──今の女体に混ざり合っているからだ。いや、混ざり合っているというよりも適応してしまったと表現する方が適切か」
「……え、えーと、どういう意味ですか、それ」
「簡単に言ってしまうと、今の君の女体と本体である男体、その境界が曖昧になっている。その所為で、今の君の女体は樹木でありながら必要以上に人間らしくなっているのだろう」
「……それ、大丈夫なんすか。俺の身体、ちゃんと元に戻りますよね? 男に戻れますよね?」
「多分、戻るさ。四天王を全て倒しさえすれば」
そう言って、ウルさんは溜息を吐き出す。
そして、握っていた俺の手を離すと、ソファーに全体重を預けた。
「四天王は残り1体。管理者を名乗る女性の言葉が正しければ、その1体を倒した瞬間、『この世界』は保たれなくなり、世界は元の姿を取り戻す。樹木の中に閉じ込められていた者達も解放されるだろう」
「そうですね。あと1体さえ倒しさえすれば!」
ふんと鼻息を荒上げつつ、ルナはガッツポーズを披露する。
そんな彼女……いや、俺達に大魔女ウルは投げかけた。
「だが、引っかかる。何故あの管理者を名乗女性は人々を木の中に閉じ込めたんだ? どうやって、世界中の人間を木の中に閉じ込めるだけの魔力を用意したんだ? どうやって『リバースクエスト』風の世界を生み出した? ──本当に残り1体四天王を倒せば、世界は元の姿を取り戻すのか?」
そう言って、ウルさんは首を傾げる。
その疑問を耳にした途端、俺もルナも、そして、ずっと沈黙を貫いていたエリザさんも、口を閉ざしてしまった。




