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(47)2025年8月17日変わり果てた街と帰宅

 ──真っ白に染まっていた視界が正常に戻る。

 気がつくと、俺は宙に浮いていた。


「大丈夫ですか、ユウさん!?」


 上から魔女ルナの声が聞こえてくる。

 上を見上げると、箒に跨ったルナが俺の右手を掴んでいた。

 どうやら彼女が助けてくれたらしい。


「ああ、大丈夫だ。ありが……っ!?」


 ルナにお礼を言っている最中だった。

 俺が視線を下──地面に向けたのは。


「……な、なんだ、あれ」


 地面に向けた視線が異様な光景を映す。

 俺の視界に映し出されたのは、緑に覆われた町の景色だった。

 信号機に絡みつく蔦。

 アスファルトを覆っている葉っぱ。

 植物に覆われているビルや一軒家。

 そして、町の至る所に生えている樹木。

 緑の草木に呑み込まれそうになっている町の姿が、俺の視界を覆い尽くす。

 それは異様としか言いようのない光景だった。


「……とりあえず、地面に降りますね」


 そう言って、箒に跨った状態のルナは俺の右手を握ったまま、地面に向かって飛翔する。

 そして、俺とルナは地面の上に降り立つ。

 降り立ったのは、校庭らしき場所だった。

 錆びたサッカーゴール。

 地面に敷かれた野球用ホームベース。

 先生達が集会などでよく使う朝礼台に校庭の隅っこで佇む鉄棒。

 

「……」

 

 校庭と思わしき場所の近くにある建物。

 その建物を仰ぐ。

 建物は四階建てだった。

 白い箱を小洒落た感じにしたような建物。

 建物の表面には葉っぱや蔦等が覆われており、濃い緑の臭いを放っている。

 

「……あ」


 緑に包まれた建物──『校舎』を見て、俺は気づいた。

 この校舎に見覚えがある、と。


「どうしたんですか、ユウさん」


「ここ、俺が通っている高校だ」

 

 そう言って、俺は校舎を指差す。

 鉄筋コンクリートで作られた建物の正体は、俺が通っている高校──東雲高校の校舎だった。


「……なるほど。つまり、私達は現実世界の『上』にいたんですね」


「え、どういう事だ」


「言葉通りの意味ですよ。私達が今までいた世界──リバクエ風の世界は、現実世界の上にあったんです」


 ルナの口から出た言葉は俺の理解を超えた代物だった。

 

「あの世界──リバクエ風の世界は、いわば、現実世界を覆い尽くす膜。その膜の上に私達はいたんです」


「……そ、そうなのか」


「あ、その顔、あまりピンと来ていない顔ですね」


 頭頂部に生やした狐耳を揺らしながら、ルナは俺の顔を一瞥する。

 俺は『むぐぅ』と唸ると、明後日の方に視線を投げかけた。


「説明したいのは山々ですが、今は探索に専念しましょう。此処は敵地かもしれませんし」


「そ、そうだな」


 いつにも増して真剣な表情を浮かべる彼女を見て、俺は思わず、気圧されてしまう。

 この状況はあまり良くないのだろう。

 おふさげ無しで俺に接する彼女を見て、俺は唯ならぬ雰囲気を──


「はい! ここで恒例のおパンツチェッ……」


「そろそろ来ると思ったよ!」


 俊敏な動きで俺のドレススカートを捲り上げようとするルナ。

 それを事前に察していた俺は『ジャスト回避』を繰り出す事で、ドレススカートを捲り上げようとする彼女の手を避ける。

 そして、彼女の頭頂部目掛けてチョップを叩き込もうと──


「あらよっと!」


 ──直撃寸前の所で避けられてしまう。


「へっへーん! 何度もやられちゃうルナちゃんじゃありません! 私、こう見えても反省できるタイプの美女なんで!」


「ならば、もう一発!」


「もう一発やないわ! なにこの状況でイチャコラしてんねん!」


「「うおっ!?」」


 空から降り落ちた黒髪ツインテールの女の子──魔女エリザさんが『なんでやねん!』と叫びながら、俺達の視線を惹きつける。


「こんな明らかに異常事態でイチャコラできるアンタらの神経が分からんわ! ウチが小心者なだけなんか!? アンタらみたいなのが普通なんか!? ああん!?」


「落ち着いてください、エリザ。此処で焦ったら敵の思う壺。此処は普段通りに徹するのがベストだと思います。ね、ユウさん」


「普段通りの行為がスカート捲りでいいんですかね、ルナさん」


「なるほど。ユウさんはつまりこう仰りたいのですね。──俺の乳を揉めと」


「言ってねぇよ」


 ルナをジト目で睨みつけた所で閑話休題。

 話を本筋に戻す。


「とりあえず、此処らへんを探索しましょう。そうしたら、何かしら分かる筈」


「じゃあ、アンタらが探索している間、ウチはウルさんと合流するわ」


 そんなこんなで俺とルナはエリザさんと別行動をする。

 先ず俺達が向かったのは、東雲高校の近くにある住宅街だった。


「人は、……いねぇみたいですね」


 周囲を見渡す。

 かつて通学路として使っていた場所は、異様なものに成り果てていた、

 苔に包まれた郵便受け。

 蔦が絡まっている電柱。

 幾多の葉っぱに覆われた塀。

 血管のようにアスファルトに絡みつく無数の蔦に葉っぱや蔦の下敷きになった家屋。

 一ヶ月前までごく普通の通学路だった道は、これ以上ないくらいに緑に包まれていた。


「……なぁ、ルナ。確かめたい事があるんだ。ちょっと付き合ってくれないか」


 そう言って、俺は向かう。

 俺が生まれ育った場所──自宅へ。

 自宅に辿り着く。

 他の家同様、俺の家も葉っぱや蔦等に覆われていた。

 玄関の扉を開け、中に入る。

 そして、お目当ての部屋──寝室に向かう。

 寝室に辿り着くと、ベッドの上に居座る樹木2本と目が合った。

 息を呑みながら、俺は2本の樹木の表面──幹部分を見つめる。

 そこには、案の定と言うべきか、木の幹には『人の顔』が浮かび上がっていた。


「……ユウさん」


「ああ、思った通りだ」


 そう言って、俺は右の拳を握り締める。

 そして、眉間に皺を寄せながら、事実を告げる。


「この幹に浮かび上がっている人の顔、父さんと母さんのものだ」



◇side:管理者


「……とうとうグリフォまで倒されてしまいましたか」


 『はぁ』と重苦しい溜息を吐き出しながら、私は椅子に寄りかかり、管理室の天井を仰ぐ。

 私以外に誰もいない管理室は、しんと静まり返っていた。


『………』


 私の中にいる『アレ』が不満げな様子で唸り声を上げる。


「……分かってますよ」


 そう言って、私は再び溜息を吐き出す。


「次は……、いえ、次も手段を選びません。必ず勝ちます」


 私の声を聞いた途端、私の中にいる『アレ』が再び唸り声を上げる。

 私はゆっくり目蓋を閉じると、もう後がない事を改めて痛感した。


 


 明日から毎日更新再開します。

 最終話まで毎日更新するので、お付き合いよろしくお願いいたします。

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