(44)2025年8月17日 作戦Bと想定
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「うがああああ!! いたい、いたい、いたい、いたいぃぃいいいいい!!」
魔女ルナと共に地に降り立った俺は、地面の上で這いつくばる敵──緑の着物を着ている長髪女──を睨みつける。
風の四天王グリフォの力を宿した敵は、さっきまでの余裕が嘘だったかのように泣き叫んでいた。
「……っ!」
地面の上で悶え苦しむ敵を目視した後、地面を蹴り上げる。
片手剣──天空の剣を握り締め、地面の上で倒れ伏す敵の下に向かって走り始める。
走り始めた俺を見た瞬間、敵は歯を強く食い縛る。
そして、敵は両手で握っている双剣のようなものを使うと、再び上空に浮上した。
「はぁ、……、はぁ……、ず、ずるい……! ま、魔女の力借りるの、反則……!」
「何が反則だ。そっちこそグリフォの力を借りているじゃねぇか」
上空から俺を見下ろしながら、文句を告げる敵。
そんな敵に俺は反論しながら、眉間に皺を寄せる。
「で、でも、ワタシは1人……! そっちは2人……! だから、えと、」
「ルナ」
「ええ、作戦Bですね」
喚いている敵を無視し、俺はルナに指示を送る。
彼女は即座に俺の意図を汲み取ると、懐に仕込んでいた札のようなものを取り出した。
それを目視するや否や、俺は両瞼を閉じる。
「──瞬け、呪光」
両瞼を閉じたその瞬間、ルナが取り出した札のようなものが眩い光を発する。
すると、上の方から敵の奇声が聞こえてきた。
「あぅ……! 目が……!」
両瞼を開ける。
眩い光で目が眩んでしまった敵の姿を目視する。
敵は目を瞑ったまま、焦った様子の声を上げていた。
それを認知した途端、俺はルナに視線を送り、『作戦B2』と呟く。
「──呪法『風律』。風よ、我が指に従え」
黒い竜巻が俺の身体を覆う。
黒い竜巻は轟音のようなものを発すると、俺の身体を真上に吹き飛ばした。
天高く跳び上がる俺の身体。
黒い竜巻に押し飛ばされた俺の身体は、真っ直ぐ真上に飛翔すると、上空で佇んでいる敵の下に辿り着いた。
「せやっ!」
片手剣を振るう。
敵の脳天目掛けて真っ直ぐ振り下ろす。
片手剣を敵の頭に叩き込む。
クリティカルヒット。
甲高い音が鳴り響くと同時に、敵のHPが大きく削れる。
「あいたっ!?」
俺の一撃を喰らった所為で、宙に浮けなくなったのだろう。
宙に浮いていた敵の身体が、地面に墜落する。
頭から落ちた敵は苦悶を訴える声を口から出すと、地面の上で悶え苦しみ始めた。
(追撃チャンスだ……!)
俺の身体が重力に引っ張られ、落下し始める。
先に地面に落ちた敵に向かって落下し始める。
俺は息を短く吐き出すと、地面の上で蹲る敵目掛けて片手剣を振り下ろ──
「な、舐めるなぁ!」
──そうとするも、突如発生した竜巻が俺の身体を弾き飛ばした。
「くぅ……!」
敵の手により生み出された突風が、俺の身体を再び天目掛けて吹き飛ばす。
俺の身体は再度上昇し、地面から遠ざかる。
「こ、これでお前は、お、終わりだ……!」
そう言って、敵は天に向かって吹き飛ばされた俺を睨みつける。
そして、両手で握っている双剣のようなものを握り締めると、攻撃を仕掛け──
「ユウさん!」
──るよりも先に、ルナが動いた。
箒に跨ったルナが俺の下に向かって非常する。
そして、再び落下し始めた俺の方に手を伸ばすと、右手を握るよう催促した。
「……っ!」
差し伸べられたルナの手を握る。
その瞬間、敵の方から槍を模した風の塊が射出された。
迫り来る風の槍。
それを俺は左手でルナの手を握りながら、右手で握っている片手剣で受け流す。
飛んできた風の槍を片手剣で受け流す。
「ちっ……! ま、魔女が厄介……!」
「ありがとうございます、目隠れ女さん。それ、私にとって褒め言葉です」
箒に跨ったルナと共に地面に降りる。
俺は握っていたルナの手を離すと、間髪入れる事なく、敵の下に向かって駆け出す。
迫り来る俺を目にするや否や、敵は双剣のようなものを振るうと、再び上空──俺の攻撃が届かない位置──まで浮上してしまった。
「な、なんで、お前、わ、ワタシの攻撃に対応できる……!? げ、ゲームではなかった筈だろ、ワタシの攻撃……!?」
息を切らしながら、敵は俺に疑問の言葉を投げかける。
俺はそれに敢えて答えた。
「想定していたんだよ、この状況を」
「……は?」
「ロックゴレム戦の時のように、ボスの力を宿したプレイヤーが敵に回る。ボスの力を使って、俺に未知の攻撃を仕掛けてくる。そう予想しておいたから、事前にシュミレートしていたんだよ。この状況を」
「……は? は?」
「『自分が風神グリフォの力を使えるなら』という仮定を組み立てる事で、お前の攻撃パターンを事前に予想しておいた。その結果、魔女の力が必要不可欠である事に気づいた」
敵の疑問に答えながら、俺はルナの準備が整うまでの時間を稼ぐ。
作戦Dを実行するための時間を稼ぐ。
「もしグリフォの力を使えるんだったら、敵の攻撃が届かない空から一方的に攻撃し続ける。そう思ったから、俺はルナの力を借りたんだよ。空を自在に飛び回れる魔女の力を」
敵の攻撃は予知できない。
けれど、その力の源がグリフォならば、予想する事ができる。
ゲームの中でグリフォを倒しまくったからこそ、予想する事ができる。
ゲームの知識があるが故に、敵の挙動を予想する事ができる。
「俺の予想を超えない限り、お前に勝ち目はない。大人しく降伏しろ。じゃないと、俺はお前を……」
「な、なら、……!」
そう言って、敵は両手で握っていた双剣のようなものを手放す。
「お、奥の手を使う……!」
「は?」
俺が予想だにしなかった一言を呟く敵。
俺が首を傾げたその時。
敵は何処からともなく『木の棒』を取り出した。




