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(41)2025年8月17日 風の塔と唐突

 ノルフェア村に辿り着いて、約1日。

 そして、ノルフェア村を発って、僅か三時間程経ったある日の昼下がり。

 俺──神永悠は魔女ルナと共に風の塔攻略を始める。

 と言っても、特筆すべき事は何一つない。

 地下水殿や岩の神殿と同じく、風の塔もゲームでプレイしたものと同じだった。

 ダンジョンの構造も、モンスターが湧くポイントも、そして、宝箱が置いてある場所も。

 そのお陰で、道に迷う事なく、モンスターに遭遇する事なく、難なく最上階まで辿り着く事ができた。

 

「さて、これから風の四天王グリフォを倒すんだが、……」


 そう言いつつ、俺は最上階に繋がる大きな扉を仰ぐ。

 この扉を開けたら、ボス戦が始まる。

 四天王グリフォーとの闘いが始まってしまう。

 そんな事を思いつつ、俺はルナの方に視線を向ける。

 彼女は首を縦に振ると、準備万端だと言わんばかりに笑顔を俺に見せつけた。


「はい。気を引き締めていきま……って、ユウさん。何で私から距離を取っているのですか?」


「いや、そろそろセクハラされそうだなって」


「私を何だと思っているんですか!?」


 心外だと言わんばかりに声を荒上げるルナ。

 そんな彼女に対して、俺は冷静な態度でツッコんだ。

 

「いや、いつものパターンじゃん。ボス戦前に必ずセクハラしてくるじゃん、お前」


「いや、してい……ないと思いたいです、はい」


「している自覚はあるんだな」


「はい! 此処で唐突なおパンツ……」


「させるかっ!」


「こーん!」


 俺のスカートを捲ろうとするルナ。

 そんな彼女の脳天に軽くチョップを叩き込む。

 彼女はいつも通り奇声を口から発すると、両手で頭を押さえつつ、『いったーい!』と叫んだ。


「何するんですかぁ!? 私はまだ何もしていないというのに!」


「いや、俺のスカート捲ろうとしただろ」


「まだ捲っていません!」


「捲る気満々じゃねぇか」


「いたたた……嫁入り前の女の子に手を挙げるなんて、……これは責任取って貰うしかないですねぇ」


「なぁ、軽くチョップしているつもりだけど、そんなに痛いか? 痛いんだったら、もっと力抜くけど、……」


「ぶっちゃけ全然痛くないです」


「痛くないんかい」


「むしろ気持ちいいって思っています。私、Mなんで」


「おい、さらっと性癖を暴露するな」


「偶に来る本気チョップが私的にはちょうどいいです。なんか、こう、ユウさんの愛が伝わっている感じがするので」


「無敵かよ、お前」


「はい! 此処で唐突なおパンツチェ……あり!?」


 ルナが俺のスカートを捲ろうと、一歩前に踏み出す。

 その時だった。

 彼女が何もない場所ですっ転んだのは。

 

「危ねぇっ!」


 俯せの体勢で倒れ込もうとするルナ。

 慌てて俺は倒れそうになるルナを抱き締める。

 抱き締めた瞬間、俺の大きな乳房が彼女の顔に激突してしまった。


「ふごおっ!?」


 俺の乳房に埋まりながら、ルナは驚いたような声を上げる。

 そして、彼女はゆっくり目蓋を閉じると、俺の乳房に頬を擦り付けつつ、深呼吸を開始し──


「って、そこでリラックスすんなぁ!」


「こーん!」


 ルナの身体を引き剥がした後、彼女の脳天にチョップを叩き込む。

 本気チョップを脳天に叩き込まれた途端、彼女はちょっと嬉しそうな笑みを浮かべた。


「ユウさんのお胸の臭いを堪能できた上、本気チョップされるなんて、……今日は吉日ですか?」


「ちょっとは悪いと思えよ変態っ!」


「ユウさんが本気で嫌がるようになってから考えます」


「もう一回、本気チョップするぞ!」


「どんと来いやぁ!」 


「しまった、逆効果だった……!」


「何いちゃついとるねん」


「「うおっ!?」」


 背後から聞き覚えのある声が聞こえてくる。

 振り返る。

 呆れた様子で俺達を見つめる黒髪ツインテールの女の子──魔女エリザと目が合ってしまった。


「い、いつの間にいたんですか!?」


「ついさっき此処に来たんや。ほら、そこにいるユウさんが言っとったやろ? 素材集めてくださいって。やから、言われていた素材持ってきたで」


 そう言いつつ、エリザさんは俺に袋を手渡す。

 そこに入っていたのは、次のボス戦──火の四天王イフリトとの闘いで必要な素材が詰め込まれていた。


「大魔女ウルからの伝言や。『ちょっと予定よりも早まってしまったが、イフリト戦に必要な素材が集まったから、エリザに届けに行かせた。遠慮なく使ってくれ』だそうや」


「ああ、ありがとう。これで次のボス戦は楽に闘える」


 手渡された袋の中身を脳内ステータス画面に入れながら、俺はエリザさんに感謝の言葉を告げる。

 すると、エリザさんはこんな事を尋ねてきた。


「というか、今回のボス戦は対策せんでええんか? いや、この質問はちょっと違うな。──もう対策はできとるんか?」


「ああ。今回は多分ルナの力を借りる事になる」


 そう言いつつ、俺はルナの方に視線を向ける。

 彼女は狐耳をピコンと揺らすと、ドヤ顔をエリザさんに見せつけていた。


「ほー、んじゃあ、ここに来たついでや。ウチも手伝おうか?」


「いや、いい。もしもの時に守れるのはルナだけだ。ルナとエリザさんを守りつつ、ボスと闘う余裕を俺は持ち合わせていな──」


 唐突だった。

 最上階に通じる大きな扉。

 それが独りでに開いてしまう。

 その瞬間だった。

 矢を模った風の塊が俺達の方に向かって射出されたのは。


「なっ……!?」


 予想だにしていなかった攻撃が迫り来る。

 その攻撃に反応できなかった俺は、ただ突っ立っている事しかできなかった。

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