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(37)2025年8月11日 魔女エリザと『あの人』


「……っ!? この声は……!?」


 助けを求める声を聞くや否や、ルナは狐耳をピコピコ動かしつつ、表情筋を強張らせる。

 それを見るや否や、俺はすぐさま『どうした』と声を掛けた。


「私の耳が正しければ、この声は同僚──魔女のものです! 近くに私の知り合いがいるのかも! ユウさん!」


「いや、その前に俺のおっぱいを引き千切ってからだ」


「いい加減にしないと、ベロチューしますよ」


 そう言って、ルナは舌でくちびるを舐める。

 彼女の目は本気(マジ)だった。

 このままじゃメス堕ちさせられると思ったので、俺は思わず『ひゃい』と呟いてしまう。


「んじゃあ、ユウさん、ダッシュで向かいましょう! ひゃっほう! 同僚に私の女を見せびらかすチャンスだぜ!」


「おい。私の女って、どいつの事だ。俺の事か? 俺を女扱いしてちないよな?」


「細けぇ事は気にしないでください! ほら、早くしないと、私の同僚があんな目やこんな目に遭っちゃいますよ!」


「いや、俺にとって細かくないから。アイデンティティに関わる事だから」


 そんな事を言いつつ、俺とルナは声が聞こえてきた方に向かって走り始める。

 走り続けて、早数分。

 ゴブリン達に襲われている少女を発見した。

 

「く、くんなぁ! ウチは食べても美味くない系のやつやで!」

 

 少女はルナと同じローブのようなものを着ていた。

 色は黒色。

 長い黒髪をツインテールにしており、顔面のルックスはクラスで1位2位を争える程に可愛らしかった。

 むう。

 この子といい、ルナといい、魔女は美形しかいないのだろうか。

 そんな事を考えながら、俺は木の棒を拾う。

 そして、木の棒を装着すると、ゴブリン達に『おい』と声を掛けた。


「お前らの相手は俺だ」

 

 木の棒を握り締めながら、ゴブリン達の下に向かって駆け寄る。

 『ジャスト回避』と『リフレクトアタック』を駆使しつつ、木の棒1本でゴブリン5匹と闘う。

 『この世界』に来て、幾度となくゴブリンの群れと闘ったので、ノーダメージかつスピーディーにゴブリン達を倒す事ができた。

 

「ふぅ、これで終了っと」


 ゴブリン達の下に駆けつけて、約5分程度。

 黒髪ツインテールの女の子を襲っていたゴブリン達を1匹残らず倒し尽くす。

 俺は息を短く吐き出すと、黒い煙と化したゴブリン達の遺体を眺めつつ、持っていた木の棒を放り投げた。


「大丈夫か?」


「あ、あんがとな、金髪の別嬪さん。あんたのお陰で、命拾いしたわ」


 黒髪ツインテールの女の子に声を掛ける。 

 地面に尻餅を突いていた彼女はお礼の言葉を言うと、ゆっくり立ち上がり始めた。


「いやー、本当助かったわ。あんたが通りがかってくれなかったら、うち、確実に死んでいたわ。ほんま、あんたは命の恩人や。あんがとな、この恩はいつか返すわ」


 そう言って、黒髪ツインテールの女の子は快活な笑みを浮かべる。

 うん、爽やかな笑顔だ。

 見ている方も爽やかな気持ちにな──


「隙あり!」


 ──背後からルナに抱きつかれる。

 彼女は俺の背中に自分の頬を擦り付けると、両手を俺の胸へと伸ばした。

 ルナの綺麗な指が俺の乳房に食い込む。

 白い布によって覆われた俺の乳房が淫靡に歪む。

 それと同時に、男の頃にはなかった器官が疼き、俺の口から『あんっ……』という艶かしい音が漏れ出てしまった。


「へへーん! どうですか、エリザ! 私の嫁は! 美しいでしょ! エッチでしょ! かっこいいでしょ! だが、私の嫁は外見だけの女じゃありません! 中身もイケイケ……」


「胸モミモミやめろぉ!」


「こーん!」


 右足を軸に半回転した後、ルナの脳天目掛けてチョップを叩き込む。

 チョップが彼女の頭に叩き込まれた途端、ルナの口から聞き慣れた奇声が漏れ出た。

 

「ったく、なんか静かだと思っていたら、胸揉むタイミングを見計らっていたのか」


「ええ。そういや、日課であるセクハラしていないなと思いまして」


「日課にするな。いい加減、怒るぞ」


「言葉責めプレイですか。ふっ、悪くねぇです」


「しまった、怒るのは逆効果だった」


 キメ顔で鼻息を荒上げるルナを見て、俺は大きな溜息を吐き出す。

 すると、黒髪ツインテールの女の子がルナに声を掛けた。

 

「お、どこの変態かと思いきや、ルナやんけ。あんたも生き残ってたんか」


「ふっ、私は大魔女に最も近いと噂されている魔女。そんな私が有象無象の雑魚にやられる訳ないじゃないですか」


「いや、お前、俺と出会った時、ゴブリンにやられかけ……」


「ないじゃないですか!」


 俺の指摘を大声で掻き消すルナ。

 そんな彼女に対して、黒髪ツインテールの女の子──エリザさんは『相変わらずルナは元気やなぁ』と疲れた様子で呟いていた。


「まあ、細かい事は置いといて。本題に移りましょう。──エリザ。貴女は何故此処にいるのですか」


「あんたの事やから、もう気づいているやろ。ウチが此処にいる理由くらい」


「なるほど。貴女が此処にいる理由は私達ですか」


「正確に言えば、そこの別嬪さん──プレイヤーネーム『ユウ』や。彼女を連れて来るよう、『あの人』から頼まれてんねん」


 話がスムーズに進んでいく。

 彼女達の頭の回転が早いのか、それとも俺の頭の回転が遅い所為なのか、会話がスムーズに進み過ぎて、彼女達が何を言っているのかイマイチ分からなかった。


「んじゃ、ちゃちゃっと『あの人』の下まで連れて行って下さい。ちょうど、私も『あの人』と話したいと思っていましたので」


 そう言って、ルナはエリザさんに『あの人』とやらの下に案内するように促す。

 エリザさんは『んじゃ、ウチに着いてき』と告げると、俺達に背を向け、何処か目指して歩き始めた。

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