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(33)2025年8月10日 残骸と不意打ち

 ロックゴレムについていた腕と脚を全て圧し折る。

 ロックゴレムの中にいるヤツが全力で脚を引っ張ってくれたお陰で、難なく乗り越える事ができた。

 

「お疲れ様です、ユウさん!」


 上から狐耳をつけた美少女──魔女ルナが落ちてくる。

 それと同時に、空中に浮いていたルナの分身50体がパンと音を立てて割れた。

 ルナの分身だったものの残骸が花弁のように舞い散る。

 それを眺めていると、箒に跨りながら落ちてくるルナ(下着姿)が目に入った。


「今回も魔女(わたし)達の代わりにロックゴレムを倒してくれて、ありがとうございます! あと2体ですね!」


「お礼よりも先に服着ろ服っ! まだ半裸のままだぞっ!」


 下着姿のルナから目を逸らしながら、俺は彼女に服を着るように要請する。

 彼女は『ふっ』という音を口から漏らすと、ドヤ気味にこう言った。


「ユウさんが私のでっけえおっぱいに欲情するまで、私は服を着ません」


「着ろよ! 警察に捕まるぞ!」


「へっへーん! 『この世界』に警察はいません! よって、私の露出は誰にも止められねぇぜ!」


「それ以上、暴走するんだったら、強めのチョップ頭に叩き込むぞ!」


「おや? そんなに強い言葉を吐いてよろしいのでしょうか? 私は目的のためなら全裸になる事も厭わない女ですよ?」


「厭えよ、人間だろ」


「今は1匹のケダモノです」


「今はじゃなくて、ずっとそうだろ」


「人はチャンスを前にしたら、肉食獣になるものです」


「やめろ、血走った目でこっちを見るな。貞操の危機を感じる」


「安心してください、同意なしのエッチをやるつもりはありませんから」


「本当か?」


「本当で……はい、ここで不意打ちのパイタッチ!」


 油断していた。

 その所為で、ルナの胸が俺の右乳に触れる。

 彼女の右指が食い込んだ途端、俺の右乳がむにゅっという擬音を放ちながら、厭らしく歪んだ。

 

「うおっ! 想定していたよりも柔らかい……! もしかして、ユウさん! その白い布の下にブラを着けていないので……こーん!」


 顔を真っ赤にしながら、ルナの脳天に強めのチョップを繰り出す。

 すると、いつものように彼女の口から『こーん!』という断末魔が聞こえてきた。

 ルナが脳天にできたタンコブを両手で撫で始めた所で閑話休題。

 俺達はロックゴレムの残骸の方に視線を傾ける。


「これで2体目ですね」


「ああ、これでやっと折り返しだ」


 四天王は残り2体。

 あと2体倒せば、俺は男に戻る事ができる。

 1番厄介なロックゴレム戦を乗り切ったから、あとは消化試合のようなものだ。

 そう思いながら、ロックゴレムの残骸を一瞥する。

 

「あと2体倒せば、『この世界』は崩壊し、事態が収拾する。ヒュードラを倒した時はまだ先って思っていましたけれど、意外とゴールは近いみたいですね」

  

 そう言って、ルナは何処からともなく紅色のローブを取り出すと、それを着衣し始める。

 『やっと服を着てくれるのか』と思ったその時だった。

 ロックゴレムの残骸の方から矢が飛んできたのは。


「危ないっ!」


 衣服を着ているルナの身体に覆い被さる。

 彼女の身体に覆い被さりながら、地面に倒れ込もうとする。

 だが、地面に倒れ込むよりも先に左肩に矢が突き刺さってしまった。

 HPが2割程削れる。

 左肩が焼けるように熱い。

 そう思った直後、左肩から激痛が押し寄せる。

 『この世界』に来て、初めての被弾。

 初めての激痛。

 それが俺の脳を蝕む。

 口から絶叫が出そうになる。

 けれど、寸前の所で絶叫を押し殺す事に成功した。


「……っ!」


 ルナと共に地面に倒れ込む。

 すると、左肩から生暖かい血が垂れ始めた。

 垂れた血が皮膚を焼き始める。

 熱い。

 痛い。

 それらが脳を犯し尽くす。

 それらが俺の顔を歪ませる。

 注射なんて目じゃない痛みが、俺を断続的に襲いかかる。


「ユウさん……ユウさん! 大丈夫ですか、ユウさん!」


「だい、……じょうぶ、ちょっと擦り傷を負っただけだ」


 ルナの瞳に俺の姿が映る。

 彼女の瞳に映る俺の肩には矢が突き刺さっていた。

 矢が突き刺さった箇所から血が溢れ出している。

 どう見ても、大丈夫じゃない傷だった。

 

「……っ! すぐに傷を治し……っ!」


 ルナの狐耳がピコンと動く。

 何かを感じ取ったのだろう。

 俺はすぐさま地面に倒れ込んだ身体を起き上がらせる。

 脳内ステータス画面から 片手剣天空の剣(キャリーバーン)を取り出す。

 そして、ロックゴレムの残骸の方に視線を向ける。

 その瞬間、矢が飛んできた。

 飛んできた矢を取り出した片手剣で弾き飛ばす。

 カキンという音が鳴り響くと同時に、矢が片手剣に弾かれ、砕け散ってしまった。


「雌如きが……! よくもオレを此処まで追い詰めやがったな、クソが……!」


 ロックゴレムの残骸から何かが出てくる。

 何かの正体は茶髪の男性──先日、俺達に奇襲を仕掛けてきたプレイヤーだった。

 

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