(29)2025年8月7日 PvPと『レオ』
◇
「殺気を放ち過ぎたな。そんなんじゃ、俺達の不意は突けねぇよ」
場所はジール村から少し離れた山の中。
俺は振り返る。
振り返るや否や、雷の棒を茂み目掛けて放り投げる。
放り投げた瞬間、茂みの中から茶髪の男性が飛び出した。
「あんた、何者だ」
すぐさま脳内ステータス画面から雷の棒を引っ張り出す。
出したばかりの雷の棒を右手で握り締めながら、俺は茶髪の男性に問いかける。
案の定と言うべきか、男は俺の疑問に答えなかった。
「……」
レア武器である『天空の弓矢』を構えながら、男は俺達を睨みつける。
武器を見て、俺は気づいた。
──彼が管理者を名乗る女性の提案に乗っている事を。
「……」
男は弓矢を仕舞うと、片手剣を取り出す。
彼が取り出した片手剣もレア武器だった。
銘は、『天空の剣』。
攻撃力トップクラスの片手剣。
耐久力が非常に高く、使い難さもない良武器だ。
「狙いは俺か? それとも魔女か?」
「………」
「……これが最後通牒だ。今すぐ此処から去れ。じゃないと、俺はあんたに危害を──」
俺が喋っている最中だった。
男が動き始める。
両手剣を構えながら、前に向かって前進する。
彼の瞳には金髪金眼の美女──今の俺の姿が映し出されていた。
くる。
そう思うや否や、俺は息を短く吸い込む。
雷の棒を構え、男の目を真っ直ぐ見据える。
「しっ!」
男が武器を振るう。
片手剣が左斜め下から右斜め上に振り上げられる。
それを目視しながら、俺は1歩下がる。
1歩下がる事で敵の攻撃を直撃寸前の所で躱す。
「てりゃ!」
男の口から掛け声が漏れる。
それと同時に、男が持っている片手剣が振り下ろされる。
俺の脳天目掛けて振り下ろされる剣。
それを見ながら、俺は雷の棒を振るう。
雷の棒を振るい、『リフレクトアタック』を繰り出す。
タイミングがバッチリ合っていたんだろう。
眩い光が俺と男の間に発生する。
その瞬間、男が持っている片手剣が弾き飛ばされた。
宙を舞う片手剣──天空の剣。
それを目視しながら、俺は雷の棒を振るう。
男の胴体目掛けて振るう。
彼は『ジャスト回避』を繰り出すと、俺の攻撃を紙一重で避けた。
「……っ!」
それを予め読んでいた俺は、すぐさま右手を動かす。
男の方目掛けて、雷の棒を放り投げる。
その瞬間、ジャスト回避し終えた男の顔面に雷の棒が突き刺さった。
「うがあっ!」
雷の棒がピカリと光る。
その瞬間、雷の棒に流れていた稲妻が男の体内を駆け巡る。
それと同時に、男は麻痺状態に陥った。
数秒間、男は指1本動かせない状態に陥る。
それを見るや否や、俺はルナの名を呼んだ。
「ルナ」
「言われなくても分かっております!」
そう言って、ルナは札のようなものを取り出す。
札のようなものを放り投げる。
札のようなものは瞬く間に木の枝に成り果てると、男の四肢を拘束──
「あ、それは私にとって都合悪いので邪魔しまーす」
──できなかった。
聞き覚えのある声──管理者を名乗る女性の声が響き渡る。
その瞬間、男の身体を黒い影が包み込んだ。
黒い影が男の身体を包み込んだ途端、男の身体は煙のように消え失せてしまった。
男の姿を見失ってしまった。
逃げられてしまった。
その事実を認識するや否や、俺は軽く舌打ちする。
「あの声、管理者を名乗る陰キャ女のものですよね。もしや、あの男、管理者を名乗る女と繋がっているのでは」
「……多分、そうだろうな」
溜息を吐き出した後、俺はゆっくり視線を地面に向ける。
すると、俺の視界に男が落とした片手剣──天空の剣が映し出された。
◇side:管理者
『この世界』の裏側にある管理室。
そこに降り立った私は黒い影に包まれた彼を解放する。
「感謝してくださいよね。私が助けなかったら、アナタ、彼等にやられていましたよ」
そう言って、私は金髪の男性──プレイヤーネーム『レオ』に話しかける。
私の言葉を否定する事ができないのだろう。
プレイヤーネーム『レオ』は忌々しいと言わんばかりの態度で顔を歪ませていた。
「レアな武器を幾ら揃えようとも、今のアナタのプレイスキルではプレイヤーネーム『ユウ』に勝つ事ができません。彼は既に『この世界』に順応し切っています」
「……そうみたいだな」
ようやくプレイヤーネーム『レオ』の口から言葉が飛び出る。
それに少々驚きながらも、私は表情を歪ませる事なく、淡々と言葉の続きを口にする。
「プレイヤーネーム『ユウ』に確実に勝つ方法は唯一つ。──私の提案を呑む事です。そうすれば、アナタはレア武器なんてクソと思える程の力を得る事ができます」
「………」
再びプレイヤーネーム『レオ』は沈黙を選ぶ。
けれど、妖しく輝く彼の目が、彼の気持ちを代弁していた。




