(24)2025年8月5日 練習と魔女狩り
◇
「……本当にいいんですね」
『この世界』に来て、早5日。
水の四天王ヒュードラを倒して、2日程経過したある日の朝。
ハール草原と呼ばれる場所で、俺──神永悠は木の棒を構えながら、金髪碧眼の少女──魔女ルナール・ヴァランジーノと対峙する。
「ああ、本気でやってくれ。じゃないと、『対策』にならない」
そう言って、草原の上で佇みつつ、俺は木の棒を構える。
魔女ルナは『分かりました』と呟くと、そこらで拾った小石を右手で握り締めた。
「では、先ずは小石から」
そう言って、彼女は俺目掛けて放り投げる。
そこらで拾った小石を。
飛んでくる小石を回避しようと、『ジャスト回避』を繰り出そうとする。
けれど、タイミングが合ってないのか、『ジャスト回避』は失敗してしまった。
その所為で、普通の『回避』になってしまう。
「……っ!」
右の方に大きく跳びながら、余裕を持って飛んできた小足を回避する。
回避した瞬間、新しい小石が俺目掛けて飛んできた。
木の棒を振るう。
飛んできた小石を『リフレクトアタック』しようとする。
だが、これもタイミングが合っていなかったらしく、『リフレクトアタック』は発動しなかった。
「いてっ」
木の棒が宙を裂く。
小石が左肩に直撃する。
『この世界』に来て、初めての被弾。
『この世界』に来て、初めての痛み。
ダメージが入ったのだろう。
脳内ステータス画面に表示されたHPバーが、ほんの少しだけ減少してしまった。
「大丈夫ですか!?」
俺の左肩に小石が当たるや否や、魔女ルナが心配そうに声を掛ける。
俺は『大丈夫だ』と告げると、彼女に次の攻撃を促した。
「……っ! で、では、木の棒いきます!」
そう言って、魔女ルナは地面に置いていた木の棒を拾う。
そして、俺の下に駆け寄ると、勢い良く木の棒を振り落とした。
「──っ!」
彼女が振るう木の棒。
それ目掛けて、俺は『リフレクトアタック』を繰り出す。
今度はタイミングが合っていたらしく、『リフレクトアタック』は発動してくれた。
俺の木の棒と彼女の木の棒が交差する。
その瞬間、眩い光が俺の木の棒から放たれ、彼女が持っている木の棒は宙目掛けて飛び去ってしまった。
「次、魔法いきます」
後方に跳びながら、魔女ルナは何処からともなくお札を取り出す。
彼女は取り出した札を放り投げると、札を火の玉に変えた。
「……っ!」
『リフレクトアタック』を発動しようと、木の棒を振るう。
だが、タイミングが全く合っていないのか、『リフレクトアタック』は発動しなかった。
「うわっ!? 大丈夫ですかぁ!?」
火の玉が顔面に直撃する。
直撃した瞬間、痛みを感じ──ない。
それどころか、熱ささえ感じなかった。
「だから、やる前に言ったじゃないですか! この訓練は危ないって! ああ、もう綺麗なお顔が焼け爛れて……ない? あれ? 私の攻撃ノーダメですか?」
「みたいだな」
魔女ルナの攻撃──正確に言えば、彼女の魔法は俺に通用しなかった。
「これでハッキリしました。どうやら私の攻撃魔法は『この世界』の人やモンスターに当たっても、作用しないみたいですね」
「そうみたいだな。HPバーも変動していないっぽいし」
そう言って、脳内ステータス画面に表示されたHPバーを見つめる。
火の玉が当たったにも関わらず、HPバーは一ミリたりとも動いていなかった。
「でも、私が投げた小石はユウさんに傷つける事ができた……となると、『この世界』の人やモンスターを傷つけられるのは、『この世界』のモノだけなんでしょうか」
「多分、そうだろうな。さっきの石攻撃は痛みを感じた上、HPバーが少し削れたし」
「じゃあ、私もユウさんみたいに木の棒を装備すれば、モンスターとも闘えるのでしょうか」
「ダメージを与える事くらいはできるんじゃないかな。ちょっと試してみるか」
そう言いつつ、俺は魔女ルナに木の棒を手渡そうとする。
彼女は『いや、いいです。ユウさんの身体に傷をつけたくないです』と告げると、首を横に振った。
「分かった。じゃあ、魔法攻撃が効かない事が分かったし、引き続き『対策』をやろうぜ。ルナ、どんどん攻撃を仕掛けてくれ」
「あの、ユウさん」
ルナが俺の名を呼ぶ。
彼女はいつにも増して真剣な表情を浮かべていた。
だから、つい俺は『ん、どうした』と尋ねてしまう。
「聞きそびれてしまったので、今聞きますけれど、……これは何の『対策』なのですか?」
「──PvPの対策だよ」
ルナの疑問に端的に答える。
PvPという言葉に聞き馴染みがないのだろう。
彼女は首を傾げると、か細い声で『ぴーぶいぴー?』と呟いた。
◇side:管理者
「はろはろー♪ 『魔女狩り』は順調ですかー?」
ロックシティから少し離れた所にある深い森の中。
そこにいた茶髪の男性──プレイヤーネーム『レオ』に話しかける。
「………」
これを見ろと言わんばかりに、プレイヤーネーム『レオ』は顎で指し示す。
──魔女だったモノの成れの果てを。
どうやら魔女狩りは順調らしい。
「はいはーい♪ いつも魔女狩りしてくれて、ありがとーございまーす♪ では、いつも通り報酬を渡しますねー♪」
そう言って、私は彼に報酬であるレア武器や大金を手渡す。
彼はお礼を言う事なく、それを受け取ると、私に『他の魔女は何処にいる?』と尋ねた。
「この近くに潜伏していますよ♪ ──大魔女と共に行動している魔女十数人が」
「……」
「あ、あと、大魔女に最も近い魔女── ルナール・ヴァランジーノとプレイヤーネーム『ユウ』もロックシティに向かっているみたいです」
「……」
相変わらず、プレイヤーネーム『レオ』は何を考えているのか分からなかった。
でも、今の私にとってレアアイテム欲しさに魔女を狩ってくれる彼の存在はありがたかった。
「ねぇ、レオさん。提案があるんですけど」
そう言って、私はプレイヤーネーム『レオ』に提案する。
彼は私の提案を聞くと、目を妖しく輝かせた。




