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(20)2025年8月3日 ダンジョンと狐耳

 地下水殿出入口を通過し、階段を降る。

 階段を降ると、ゲーム内で見た事のある光景(ダンジョン)が俺と魔女ルナの視界に映し出された。


「うおっ……」


 硝子でできた床と壁、そして、天井がやってきたばかりの俺達に『やあ』と声を掛けた。

 硝子でできた壁の向こう側を見る。

 硝子の向こう側には幾多の稚魚が泳いでいた。

 水の中を悠々自適に泳ぐ稚魚達の姿を見て、改めて此処──地下水殿が湖の中にある事を認識する。

 天井を仰ぐ。

 リバクエで出てくる巨大な魚が俺達の頭上を通り過ぎた。

 その後を稚魚達が追う。

 空に浮かぶ雲のように頭上を泳ぐ魚達を俺と魔女ルナは見送る。

 感動しているのも束の間、俺達の両脇を細長い魚が通り過ぎた。

 まるで水の中にいるような情景──ゲーム内で何度も見た幻想的な世界に俺は思わず心を奪われてしまう。


「ユウさん、見惚れている暇はありませんよ。モンスターの足音が遠くから聞こえてきます」


 そんな俺を隣にいる魔女ルナが現実に引き戻す。

 俺は『あ、ああ』と呟くと、隣にいる彼女の方に視線を向け──


「………」


 ──ピコンピコン動く魔女ルナの狐耳が、俺の視線を惹きつける。

 触ってみたいという衝動が俺の中で生じ始める。

 ダメだ、今はそんな事を思っている場合じゃないだろ。

 落ち着け、俺。

 あの狐耳は魔女ルナの身体の一部だ。

 了承なしに触ってしまったら、彼女を不快な気持ちにさせてしまう。

 というか、俺は知っている筈だ。

 了承なしに身体を弄られる不快感を。

 魔女ルナに胸を揉まれた時、俺はそれを嫌だと思った筈だ。

 その不快感を人に与える事はできな──


 むぎゅ。

 

「こーん!」


 ──いと思っていたけど、衝動に押し負けてしまいました。

 その所為で、魔女ルナの狐耳を両手で鷲掴みしてしまう。

 彼女の頭頂部に生えている狐耳を揉んでしまう。

 彼女の耳はフサフサしていて、とても生温かった。

 狐耳がピコンピコンと動く度、俺の掌が押し返される。


「おお……!」


 狐耳についた獣毛が俺の掌を擽る。

 犬の耳とは似て非なる感触が俺の掌を楽しませる。

 やばい。

 フサフサしている上、やわっこい。

 この感触、癖になりそ……


「こーん! ここここーん!!」


 壊れた目覚まし時計のように奇声を発する魔女ルナ。

 彼女は全身を小刻みに揺らし、恍惚した表情を浮かべつつ、口から無尽蔵に涎を垂らしていた。

 そんな彼女を見て、俺はようやく自分がやらかした事を自覚する。


「わ、悪い! つい魔が差しちまったっ!」


 慌てて彼女の狐耳から手を離す。

 彼女の狐耳から手を離した瞬間、恍惚した表情を浮かべていた魔女ルナは正気を取り戻した。

 

「はっ! 危ねぇ! 危うく嬉ションする所だった!」


 自らの股間を両手で押さえながら、魔女ルナは顔を真っ赤に染め始める。

 そして、俺を上目遣いでジーッと見つめると、コホンと咳払いした。


「……ユウさん、どういうつもりですか。今、シリアスパートなんですよ。なのに、了承なしに私の性感帯を触るなんて、……」


「わ、悪かったよ。つい反射というか、ピコンピコン動いていたから、つい衝動的になったというか……って、え、今、耳の事を性感帯って言った?」


「ユウさんが了承なしに触った所為で、危うく嬉ションしかけたんですよ、私。これはもう責任取って貰うしか無さそうですね」


「い、いや、結果的に嬉ションしなかったからセーフだろ。責任は取らなくていいだろ」


「でも、了承無しに触ったのは事実ですよね?」


「ぐっ……」


 ドヤァという擬音が聞こえてしまいそうなくらいのドヤ顔を見せびらかしながら、魔女ルナは俺との距離を詰め寄り始める。

 この機会を逃さないと言わんばかりの剣幕で、彼女は『うふふ』と妖しく笑う。

 それを見て、俺は『衝動に押し負けるべきじゃなかった』と後悔する。

 やばい。

 何を要求されるか分かったもんじゃねぇ。

 最悪、俺の初体験が彼女に奪われてしまうかもしれない。

 いや、初体験自体はいいよ?

 彼女、めちゃくちゃ可愛いし。

 でも、女の身体で初体験だけは迎えたくない。

 どうせ初体験迎えるなら、男の身体の方がいい。


「さて、ユウさん。了承なしに触ったって事は、こっちも了承なしに触ってもいいって事ですよね。ユウさんの豊満なおっぱいをモミモミしても、お咎めなしって事ですよね!」


「……まあ、そうなる……よな」


「いよっしゃあ! お触り権獲得しましたぁ!」


 ガッツポーズを披露する魔女ルナを見つめながら、俺は思う。

 『女の身体で初体験迎えるくらいなら、触られる方が断然マシだ』、と。

 どうせこの女体(からだ)は俺にとって偽りの身体。

 胸にぶら下がっている大きな乳肉も、少し大きめのお尻も、全部『この世界』に来た時に与えられたもの。

 俺のものじゃない。

 そもそも、俺は男だ。

 たかが胸触られる程度で一々騒いでいたら、男が廃る。


「……………触っていいぞ」


「え、本当にいいんですか。こっちは冗談のつもりでしたんですけど」


「男に二言はない。さあ、触れ」


「……………本当に、いいんですか」


「男に二言はない。さあ、触れ! さあ! さあ!!」


 魔女ルナは俺の覚悟を受け止めると、『分かりました』と呟いた。


「じゃあ、遠慮なく。えい」


 魔女ルナの両指が俺の乳房に食い込む。

 その瞬間、今までの人生で一度も感じた事のない感覚が、お腹の下辺りを微かに揺らした。


「んっ……」


 同時に、俺の口から艶のある色っぽい声が少しだけ漏れ出る。

 身体がビクッと揺れ、反射的に右手の甲で口元を押さえてしまう。

 頬が熱くなる。

 頬の温度が急上昇した瞬間、『自分が胸を揉まれて感じた事』を自覚してしまった。

 

「〜〜〜〜!!」


 頬だけでなく、身体全体が熱を帯びる。

 色っぽい声を自分が出してしまったという事実、そして、胸を揉まれて感じてしまったという羞恥心が俺の中で入り交じり、心を掻き乱す。

 両手で顔を隠したくなる気持ちに駆られる。

 けど、そんな俺に追い打ちをかけるかの如く、魔女ルナは白い花嫁衣装とブラに覆われた俺の乳房をモミモミし始めた。


「んっ……!」


 彼女の両手が俺の胸を揉みしだく。

その度に衣服と下着に覆われた乳肉が揺れ、お腹の辺りが微かに揺れ動き、口から色っぽい声を出してしまう。

 今までの人生で一度も感じた事のない感覚。

 身体の奥にある『何か』が疼くような、頭に甘い電流が走っているような、そんな感覚。

 ルナに胸を揉まれる度に、顔が更に熱くなり、顔だけでなく身体全体がほんのりと温かくなる。

 呼吸が荒くなる。

 胸から伝わってくる感覚が身体の奥にある『何か』を、男の頃にはなかった器官を更に疼かせる。

 熱い。

 お腹の下辺りが、とにかく疼く。

 男だった時には一度も感じた事のない感覚。

 だからこそ、恐怖を覚える。

 この感覚が何なのか、分からない。

 身体の奥で疼いている『何か』が何なのか、分からない。

 けど、このまま揉まれ続けていたら、自分が自分じゃなくなりそうだという事だけは理解出来た。


「………」


 俺の胸を揉んでいた魔女ルナの手が止まる。

 まるで捕食者と言わんばかりに、彼女は自らの唇を舌でペロリとひと舐めすると、右手を俺の乳房から離す。

 そして、右手をゆっくり下に降ろすと、俺の股間に手を伸ばし──


「って、そこはだめだろっ!」


「こーんっ!」


 俺の股間を弄ろうとしたルナの頭にチョップを叩き込む。

 その瞬間、俺は思い出した。

 思い出してしまった。

 初めて彼女と会った時の事を。

 

「……そーいや、お前、俺と初めて会った時、お○んちんチェックと称して、俺の股間を弄ったよな」


「あ」


「右掌で俺の股間をグリグリしながら、『ノーオティンティン! イエスプリティ! ユーはナイスガール!』って言ってたよな?」


「………」


 初対面時の事を思い出したのだろう。

 気まずそうに俺から視線を逸らしながら、ルナは額に汗を浮かべ始める。

 それを見て、俺は更に思い出した。


「そういや、人面樹見つけた時、『はい、此処で唐突なおパンツチェック!』って言って、俺のスカートを捲り上げたよな?」


「………」


 魔女ルナの額に汗が更に浮かび上がる。

 

「俺が了承なしにお触りする事よりも、お前が了承なしにお触りしたりセクハラしたりした回数の方が多いよな?」


「………」


 汗を垂らしながら、魔女ルナは恐る恐る俺の方に視線を向ける。

 そして、ニコッと笑うと、回れ右を繰り出し、脱兎の如く駆け出した。


「逃すかっ!」


 逃げ出そうとしたルナの狐耳を両手で掴む。

 そして、揉む。

 その瞬間、彼女の口から『こーん!』という甘ったるい声が漏れ出た。

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