99 獣王国ビーグル 2
次の日私たちは、ビーグル王の案内で王都周辺を回ることになった。私たちの他に東辺境伯夫人のロザンナ様も同行することになった。ロザンナ様が言うには相談したいことがあるらしく、私たちの視察先とも被るので、一緒に見て助言が欲しいとのことであった。
王都周辺はかなり発展していた。
ビーグル王が言う。
「鉄道が開通したことが大きいな。それとそちらの東辺境伯領へは建設中だ。工事をするだけでも人が多く来るから、景気はいいぜ。そういえば、冒険者ギルドを設置したいと言っていたな?もちろんOKだ。国軍だけじゃ、警備に人が回せない。それにロイター王国は、訳の分からん連中を集めているというしな。もっとも、国軍といっても領兵に毛が生えたくらいだがな」
レベッカさんが答える。
「それは有難い。すぐに人員を派遣させてもらう。冒険者ギルドの予定地だが・・・」
「今なら土地は空いているから、融通は利くぞ。メインストリートになる予定の場所を確保しておいてやるよ」
ビーグル王は、即断即決のようで、どんどんと決まっていく。
次に案内されたのは、織物工房だった。色とりどりの糸から、奇麗な織物が誕生している。手触りは絹のようだった。
「これが今売り出し中の商品だ。特殊な糸を使っているからな。もう東辺境伯領でも流行っているんだぜ」
これにロザンナ様が続く。
「もう大量に輸入してますよ。ここだけの話、王都のケーブだと5倍以上で売れるんですよ。ビーグル王には、もっと高い値段を設定してもいいと言っていますのに・・・」
「東辺境伯領とは仲良くしたいからな。多少安くてもこっちは十分元が取れるんだ」
そのほかにも特産品となりそうな商品をビーグル王自ら案内してくれた。獣王国ビーグルは特産品もあり、今後発展することは間違いないだろう。
ネスカが言う。
「僕たちに見せたのは、いい投資先だと思ってもらいたいからだと思う。土地はまだまだ余っているし、交通の便もいい。後は資金さえあれば大発展するよ」
ネスカも太鼓判を押す。
★★★
次に案内されたのは郊外だった。
少しだけ、ビーグル王の表情が曇る。
「ここから案内する場所はちょっと見せづらい場所だ。ネスカの友達だから見せるんだが、正直な感想を言ってくれ。それとこのことは口外しないでほしい」
そこに住んでいたのは、獣人は獣人でも私たちと姿形が全く違う種族だった。下半身が蜘蛛のアラクネ族、下半身が馬のケンタウルス族、下半身が蛇のラミア族だった。
「こいつらがさっき見せた特産品を作ってくれているんだ。織物に使っている糸は、アラクネたちがスキルで出した物だし、畜産が盛んなのもケンタウルスたちのお陰だ。それにラミアは薬草やキノコ採取の名人が多いからな。こいつらはいい奴なんだが、見た目がな・・・だから、ロイター王国では昔から迫害されて、こっちに隠れ住んでいるんだ。俺たちは独立して国になったから、こいつらにも堂々と暮らしてほしいと思っているんだ」
すぐにネスカとエスカトーレ様が反応する。
「魔王国ブライトンにも、普通の人間とかけ離れた姿をした種族は多くいます。他のどの国が取引きをしなくなってもウチはしますよ」
「そうですよ。ルータス王国もルータス公国もそのようなことで、縁を切ることはないと思います。製品の良さをまず知ってもらえれば、賛同してくれる人も増えていくと思います」
ロザンナ様も続く。
「東辺境伯領の代表として言わせてもらうと、「それが何か?」ということですね。私たちは良い製品を求めているのであって、誰が作ったかなんて気にしません。もちろん、彼らを奴隷のように扱っているのなら話は別ですが、彼らも生き生き暮らしているのであれば、こちらから言うことは何もありませんよ」
「ありがとう!!そう言ってくれると助かるよ」
ビーグル王の不安は取り除かれたようだ。
★★★
最後に案内されたのは、王都の広場だった。
ビーグル王が言う。
「最後に見てもらうのは、アンタらの知り合いだ。悪いことはしてないんだが、少々不気味でな。これは相談なんだが、一体どうすればいいかと思ってな。ロザンナさんにも相談したんだが・・・」
「私もどうしていいか分からないのです。同じ派閥ですから強くも言えないし・・・それにエスカトーレ様もレニーナさんもいなくなって、彼女たちを止められる存在がいなくなってしまいました。私も派閥の執行役員になって、エスカトーレ様やレニーナさん、そして皆さんの苦労を知ることになりました。国を出られた皆さんに頼るのは筋が違うかもしれませんが、相談に乗ってもらえないでしょうか?」
広場を確認したところ、驚きの光景が飛び込んで来た。
奴らだ・・・
「皆さん!!獣人を迫害するイカれた輩は皆殺しですわ!!」
「そうですよ!!武器も食料も大量に用意しました。私たちは味方です」
「さあ、訓練ですよ!!」
ギュンター伯爵家の三人娘が、スナイパーボウガンやスリングショットを配り、非戦闘員である市民に対して、軍事訓練をしている。彼女たちの賛同者は獣人だけでなく、人間の冒険者もいて、戦いに不慣れな、市民たちに丁寧に指導をしていた。
その中に、見知った顔を見付けた。栗鼠人族の冒険者のリタさんとルタさんの姉妹だ。こっそりと二人に声を掛ける。
「皆さん、久しぶりですね。あっ・・・これですか?あの御三方が、獣人たちのために立ち上がると言い出してしまってですね・・・非戦闘員向けに訓練をすると言い出しまして・・・」
「そうなんですよ。どこからか、ロイター王国のメサレムに謎の軍勢が集結しているという情報を入手しまして、居ても立っても居られなくなったみたいなんですよね」
リタさんとルタさんも困り顔だ。
ビーグル王が言う。
「やっていることは間違いじゃないし、俺だって時間があれば、市民向けの訓練は必要だと思う。有難いとは思うんだが、少し心配でな。というのも、こっちが心配になるくらいあの三人は、金遣いが荒いんだ。どっから金が出ているのか不思議でな。流石にどっかの国の工作員、なんてことはないだろうけど」
ロザンナ様も続く。
「今年から派閥活動で必要な資金は、予め年の初めに別にすることにしました。その資金以外はすべて彼女たちのお小遣いです。ただ、彼女たちにお小遣いを渡せば渡すほど、派閥の資金が増えていくんですよ。だから、私もどうしたものか・・・」
遠い目をしたレニーナ様が言う。
「その気持ちはよく分かります。予め活動資金を別にするのはいい案だと思います。私もそれで苦労しましたからね・・・」
そんな話をしていると、どうやら訓練が終わったようだ。
「皆さん!!よく頑張りました!!」
「頑張った皆さんにご褒美です!!BBQ大会をしますよ」
「いっぱい仕入れてきましたから、どんどん食べてください!!」
大きな歓声が上がる。子供たちには別にお菓子やケーキを用意しているようで、三人はもみくちゃにされている。それでも三人は凄く嬉しそうだ。
「いつもあんな感じだ。非戦闘員の意識も高まるし、武器も無償で融通してくれている。助かってはいるんだがな・・・」
ネスカが言う。
「彼女たちの性格上、資金援助してもすべて、お菓子や食べ物になるだけでしょうから、勲章でも与えればいいんじゃないですか?名誉市民賞なんかでどうでしょうか?下手に止めさせると大変でしょうから、やり過ぎたら諫められる関係を築く意味でもね」
この案は受け入られ、次の日には獣王国ビーグルで初となる名誉市民勲章が授与されることになった。受賞式には私たちも来賓として参列した。三人は、獣人たちに囲まれて幸せそうにしている。
ネスカが言う。
「昔から思っていたんだけど、彼女たちのジョブって何なんだろう?あれもスキルなんだろうか?」
ミリアが答える。
「私も調べたことがあるのよ。これは噂だけど、三人とも「村娘」っていうスキルが全く身に付かないジョブで、絶対に他人に自分のジョブのことは言うなと、彼女たちの親から言われているらしいわ。だから、ジョブの話をしたら駄目らしいのよ」
ビーグル王が言う。
「至上最強の「村娘」だな・・・「聖女」もびっくりだろうよ」
それについては、100パーセント同意する。
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