93 外交官クララ 3
落ち着いたところを見計らって、魔王様がご挨拶をする。続いてチャーチル様が二人のエルフに声を掛ける。
「ブリギッタ様、ブリギッテ様、お約束では1ヶ月後だったと思うのですが・・・」
「そうだね。でもヤスダが言うには、早めに来たほうがいいんだって。だから1ヶ月前に来たんだ」
「実は1ヶ月前か1週間前かで迷ったんだけどね」
多分、5分前集合のことだろう。長命種だから時間感覚がバグっているのかもしれない。
「そ、そうですか・・・では、こちらにどうぞ」
仕方なく案内することにした。
チャーチル様の考えでは、念のためドラゴン御一家と会わせないほうがいいとの判断だったので、別室に案内しようとしたのだが、駄目だった。
「懐かしい匂いがする」
「これはドラゴンだね」
勝手にドラゴン御一家がいる応接室に入って行ってしまった。
ザスキア様が気軽に声を掛ける。
「ブリギッタ、ブリギッテ!!久しぶり。実はね、私たち凄い物をもらったんだよ。二人にも見せてあげるよ」
「凄い物って何だい?」
「どうせ、大した物じゃ・・・これは、凄い!!」
「凄いでしょ?これはブライトンが贈ってくれた物なんだけど、貴方たちにはヤスダが用意してくれているらしいのよね?そうだよね?」
魔王様は、返答に窮したが、何とかその場を取り繕った。
「も、もちろんブリギッテ様とブリギッタ様のも準備はしていますが、急に来訪されましたので・・・」
「そうだね。今すぐ出せとは言わないよ」
「早く来た私たちが悪いからね。用意ができるまで待たせてもらうからね。その間そのアルバムとかいうやつを見させてもらうからね」
私たちは、一旦退出した。オルガ団長をお世話係にして。
スターシア団長が言う。
「実はヤスダ様の手記も見付けたんだけど、解読ができないのよ。古代エルフ文字や古代ドワーフ文字でもないし・・・全然別の言語体系なのよね。流石のクララちゃんでも・・・」
魔王様が言う。
「でもクララちゃん以外頼れる人はいないのよね。駄目元でいいから、解読をやるだけ、やってみてもらえないかしら?」
「分かりました。ご期待に添えるかどうかは、分かりませんが」
資料室に入るとスターシア団長の部下たちが手記を持ってきてくれた。渡されて、びっくりした。これって・・・
そこに書かれていたのは、なんと日本語だったのだ。
★★★
転生者様へ
この手記を読まれる頃には、私はもうこの世にいないでしょう。本当は生きている間に会いたかったのですが。まずは私の自己紹介からしますね。こちらでの名前はヤスダと呼ばれていますが、本名は、安田美穂です。前世は日本で中学校の社会科教師をしていたんですが、生まれた頃から、かなり運が悪かったのです。遠足の前の日には決まって高熱を出すし、入試では道に迷って第一志望を落ちるし・・・それでも何とか教師になりましたが、要領も悪いから毎日徹夜続きでした。
それで帰宅途中に、フラフラになりながら車を運転していたんですが、居眠り運転をしちゃいまして、気が付いたときには、ガードレールを突っ切って、車が崖から空を飛んでました。
そのとき、神様に祈りました。
ヤバい!!死ぬ・・・どうか空を飛ばせてください!!そうすれば助かります。
もし、死ぬなら運がいい人生を!!
この願いが通じたのか、私はこちらの世界に転生してしまいました。空を自由に飛ぶことができる天使族として。
転生してから分かりましたが、天使族って超が付くほど適当集団でした。名前も付けないし、物心がついたら、勝手に自分で名前を決めます。だから私はとりあえず、前世の名前を名乗っていたんですが、美穂のほうはあまり、覚えてもらえなくて、ヤスダと呼ばれていました。
天使族の里は食べ物が豊富にあるから、争いもないし、他種族と交流することもありませんでした。最初はそれでよかったんですが、だんだん飽きてきちゃって、旅に出ることにしました。
私も長い間、天使族として暮らしてきたから、凄く楽観的になってしまって、特に準備をすることもなく旅に出てしまいました。そしたら、空を飛んでいるところで、ワイバーンに襲われて、必死で逃げていたら、地面に墜落しました。そこで、親切な人に助けられました。
それが夫となるブライトンでした。
ブライトンは魔人族のイケメンでした。なんでも弱い種族やハーフの子を集めて、彼らが住みやすい場所を作ろうとしていました。私もその活動に携わるようになって、自然にブライトンと仲良くなって・・・まあ、そんな感じです。
それからエンシェントドラゴンのベンドラとパミラと仲良くなって、ハイエルフのブリギッタとブリギッテとも仲良くなって、楽しい日々を過ごしました。
ある日、今の大陸では暮らす場所がないという話になって、海を渡ることになりました。そのとき私とブライトンはベンドラとパミラに乗せてもらって渡ったんですが、後のみんなは歩きでした。ブリギッタとブリギッテの魔法で海を割りました。リアル聖書の世界でしたよ。まあ、このときにブリギッタとブリギッテを怒らせたらヤバいと思いましたけどね。
新しい大陸に渡ってからも波乱万丈でした。でもみんなで協力して乗り越えました。因みにこのとき、初めてジョブ鑑定というやつを受けました。結果は「聖女」でした。滅茶苦茶嬉しかったけど、私が期待したスキルはありませんでした。どちらかというとハズレのジョブで、イメージでは回復魔法が得意で支援魔法も・・・と思っていたけど、そうではなかったのです。
毎日1回はちょっとした運がいいことが起こり、3日に1度は中くらいのいいことが、月に1回は物凄くいいことが起きるというスキルでしかなかったのです。
自分では何が起こるか分からないし、選べません。でもブライトンはジョブで、どうこう言う人ではありませんでした。だってジョブが「博愛主義者」で、色んな人に情を掛け、多くの人から信頼されれば、されるほどパワーアップするレアジョブでしたからね。
それからも、私のお陰かどうか知らないけど、ブライトンの活動は新大陸に来てからも上手く行き、とうとう国になりました。でも、元から住んでいた人族との争いが絶えなくなり、仕方なく、ベンドラやブリギッタたちに頼んで、人族との境界線上を中心に強力な魔物を配置してもらいました。
それからしばらくは、平和になりましたが、ベンドラやブリギッテたちは、定期的に魔物を持ってきてくれるようになりました。魔物を口実に私たちに会いに来てくれていたんだと思います。何もなくても友達だから会いに来てくれたらよかったのですがね。
そんな中大事件が起きました。愛するブライトンの浮気が発覚したのです!!
ブライトンは王だし、「博愛主義者」だから結婚前は、結構、分け隔てなくどんな種族の女子とも関係を持っていたのです。結婚してからは止めてくれましたけど。
でもこの浮気相手が許せませんでした。相手はベンドラの妹のビッテでした。ビッテは私たちと一緒に行動したいと言って、一緒に住むようになり、移動するときは、いつも背に乗せてもらっていたんだけに、ショックでした。
ブライトンだけでなく、ベンドラも謝ってきましたが、ビッテに「死んでも許さないから!!」と言って、家出しました。せっかくなんで、人族が暮らしている地域に行きました。そこでは、マイモッダおじさんやエランツ君たちと一緒に過ごしました。彼らは貧しいながらも、協力して頑張って生きてました。当時の思い出を日記にしているから、興味があればそっちも読んでくださいね。
それから1年が経ち、何とブライトンが私を迎えにやって来ました。「もう浮気はしないし、君以外愛さない」と言われました。ここで許してしまうのが、私のお人好しなところです。今回だけということで、私はブライトンの元に戻ることにしました。
その後は子供も生まれ、今まで以上に幸せな時間を過ごすことができました。
そして、もうすぐこの世界ともお別れです。普通の人間の3倍は生きたのに、やはり死ぬ前は後悔の連続です。もっとああすればよかったとか、いっぱいあります。その内の一つが転生者に会うことだったんですがね。
なので、この手記を読んでいる転生者の貴方へ、プレゼントを用意しました。資料室に一つだけ、少し色の違うレンガがあります。その前で大切な人(友達でも、恋人でも構いません)の手をつないで、二人一緒にこう唱えてください。
「友情は永遠に」
じゃあ、これで失礼します。もう気力も体力もありません・・・
ああ!!ヤバい!!間違えてそこにブリギッタとブリギッテに渡すプレゼントも入れてしまってました!!転生者の君!!それをブリギッタとブリギッテに渡してください。二人はハイエルフなので、ハイエルフの里を訪ねて・・・
厚かましいことは十分に分かるけど、どうしてもお願いします。そうしないとビッテが許してもらえないから
★★★
ヤスダが転生者だということは驚きだ。それにヤスダってもしかしたら、ヤスダ教のヤスダかもしれない。聖書の創世の物語がヤスダとブライトン王がこちらの大陸にやって来た話と酷似しているしね。人間たちと過ごした日々にも興味があるけど、今はそれどころじゃない。
まずは、ブリギッタとブリギッテへのプレゼントを見付けないと。
気が向きましたら、ブックマークと高評価をお願い致します!!




