92 外交官クララ 2
私はネスカに言った。
「多分だけど、手記によるとベンドラ様たちへのプレゼントは、絶対に動かしてはいけない物の後ろにあるそうよ。ネスカは何か心当たりはない?」
「あるにはあるけど、本当に動かしてはいけないと代々言い伝えられている。僕の権限では無理だ。母上の裁可をいただかないとね・・・」
すぐに魔王様の許可を求めたが、渋られた。とりあえず、その場所に案内される。場所は謁見でも使われる玉座の間で、玉座の後ろにブライトン王と妻のヤスダが描かれた大きめの肖像画が設置されているのだが、その肖像画は絶対に動かしてはいけないと言われているそうだ。もし動かしたら、国が亡ぶと。
肖像画を見ると、ブライトン王は少し褐色の人間のような姿、妻のヤスダは背中に羽があり、天使のような姿だった。
魔王様が言う。
「この肖像画は、代々「絶対に動かしてはいけない」と伝わっているのよ。なんでもブライトン王の遺言だとか。だから、動かさなくていいなら、動かしたくはない。クララちゃん、貴方が動かそうと思った経緯を教えて」
私はブライトン王の手記のことを説明した。
そして、ここにプレゼントがあるという根拠だが、この世界の住人に説明するのは難しい。どう見てもフリだ。妻のヤスダは転生者なのか?「押すなよ、押すなよ、絶対に押すなよ」とかいうやつだ。こうなったら適当に理由を付けるしかない。
「これはあくまでも、私の仮説でしかないのですが、こう考えてはどうでしょうか?ブライトン王は、真の勇者を求めている。それはどんな困難にも立ち向かう勇気を持った者の覚悟を試すために、このようなことをしたのではないでしょうか?」
説明していて無理がある。ネスカも魔王様もチャーチル様も渋い顔をしている。それもそうだ。これで国がもし本当に滅びたら、誰が責任を取るんだという話になってしまう。
しかし、そんなことを全く考えない人物がいた。オルガ団長だ。
「アタイがやるよ!!勇気がある者が次の魔王ってんだろ?だったら、すぐやるよ!!」
「オルガ止めなさい!!もう少し検討して・・・」
「オルガ姉さん!!ちょっと、落ち着いて!!」
言うのも聞かずにオルガ団長は、壁の肖像画を外してしまった。すると肖像画の後ろの壁には窪みがあり、その中にはかなり分厚い書物のような物と手の平サイズの四角い物体が置いてあった。
「なんだよ。お宝かと思ったのになあ・・・」
残念がるオルガ団長は置いておいて、中身を確認する。まず書物だと思ったものはアルバムだった。ドラゴン御一家とブライトン王夫妻がメインで構成されている。誰もが笑顔だった。アルバムの最初のページにはこう書いてある。
「ベンドラたちに金銀財宝は必要ないだろ?だから、これを送る。お前たちとの思い出は、俺たちにとっての宝物だからな」
そして、最後のページには・・・
となると、この四角いやつも見覚えがある。私が生きていた頃にはもう廃れてしまったが、どう見てもポラロイドカメラだ。シャッターを押すと、数分後には現像されるカメラで、私が生きていた当時は、結婚式の二次会のメッセージ用にしか使われていなかったけどね。
アルバムを見たネスカや魔王様たちは驚愕していた。
「こんな精巧な絵を描ける絵師なんているのか?」
「ブライトン様は凄いから、そういったスキルを持った従者がいたんじゃないのか?」
そんな話をしていた。
この世界にカメラは普及していない。「絵師」に代表されるジョブ持ちが、スキルで同じような物を作成できるからね。わざわざカメラを作ろうなんて思わなかったんだろう。
「私はこちらの四角い物体も気になります。遅れて来たロキとドシアナに鑑定させましょう。くれぐれも分解するなと伝えてですが」
★★★
すぐに会議が始まった。ドラゴン御一家のお相手はスターシア団長が行っている。なるべく、引き延ばすように指示を受けて。
議題は、これを見せていいものかどうかということだった。チャーチル様が言う。
「見せても問題はないと思う。しかし、ベンドラ様の期待を裏切る結果になるかもしれない。それで怒り出したらどうしよう・・・」
「貴方、それを言ったら始まりませんよ。もし期待外れの品だった場合は、平謝りしましょう。私たちは喜んでもらえると思って渡したと。ブライトン王の所縁の品だったから、舞い上がってしまったと言いましょうよ」
「そうだな。もしも駄目なら私の首を差し出そう」
そんな話をしている所にドシアナとロキがやって来た。
「この箱は、アルバムにある絵を作る魔道具ッス。すごく単純で、光を情報として読み取り、それを紙に転写するだけの物ッス。今まで、こんな単純なことに気付かなかったなんて、悔しいッス」
「そうだね。これならスキルがない人が欲しがると思うよ。偉い人の肖像画を描く人のように薄くなった髪の毛を少し盛ったりはできないけどね」
「ロキ殿、すぐに試作品を作るッス」
「そうしよう」
結果だけ伝えると、アルバムと一緒にあったカメラを置いて、二人は出て行ってしまった。
オルガ団長が言う。
「アタイは勇者だ。何ならアタイが渡してやってもいいぜ」
こういう豪快なところは、魔王に相応しいのかもしれない。
★★★
ドラゴン御一家がいる応接室に向かう。スターシア団長が涙目で近寄ってきた。
「もう限界よ。仕切りに『思い出したか?』『もう出してもいいんじゃないか?』って言われるのよ。それに追従して、ザスキア様も騒ぐし、パミラ様も宥めてくれていたんだけど、『私も早く見たいわ』と言い出してさ・・・」
スターシア団長も限界だったようだ。
魔王様が代表してドラゴン御一家に言う。
「お待たせしました。ご期待に沿えるかどうか分かりませんが、こちらの品がブライトン王が、ベンドラ様に残された物になります。ご確認ください」
受け取ったドラゴン御一家だが、静まり返っていた。そして、ザスキア様が大喜びで騒ぎ出す。
「見て見て!!私が卵の時のやつだ!!それに私がこんなに小さい」
ベンドラ様とパミラ様も続く。
「こっちは二人の結婚式のものだな・・・この後、ヤスダが飲み潰れて、大暴れしたんだ」
「そうですね。懐かしいわ・・・」
そして、どんどんページを捲っていき、最後のページまで来た。そのページには写真は2枚貼ってあった。両方とも集合写真で、一つはドラゴン御一家とブライトン王夫妻、もう一つはそれに加えてエルフの少女二人が写っている。
そしてそのページには「友情は永遠に」と書かれていた。
「思い出した「友情は永遠に」だ・・・死んでも友情は変わらないと言っていたな。妻のヤスダが言うには、生まれ変わりというものがあるそうだ。自分の子孫に生まれ変わることが多いとも言っていたな」
「そうですね。私たちが来たのもヤスダやブライトンの生まれ変わりが見付かったのかと思ったからです。しかし、この贈り物も素晴らしい。本当に感動しました」
ドラゴン御一家はご満悦のようだ。ここですかさずチャーチル様が要望を言う。
「実はですね。強い魔物ではなく、私たちが乗って空を飛べるような魔物をいただけないでしょうか?ブライトン王の手記には、「子供たちにも、空を飛ばせてやりたい」との記載がありました」
これも策略の一つだ。単純にお断りをするのではなく、こちらが必要な要望をする。そうしないと、今までが有難迷惑だったと思ってしまい、気分を害するかもしれないからだ。なので、本当に手記に書いてあったことを参考にした。実際、騎飛竜という大人しい飛竜に乗っていたのと手記に書いてあったしね。
ベンドラ様は渋い顔をした。これって何か不味いことを頼んだんだろうか?
「もう許してやってもいいかもしれんな・・・十分に罰は受けたと思う。実は、ブライトンとヤスダの元に我が妹であるビッテを・・・」
言い掛けたところで、ゴブール宰相が駆け込んで来た。
「大変です!!魔王様!!ドラゴンに乗ったエルフの女性二人が中庭に降り立ちました!!」
ベンドラ様が言う。
「行ってやれ。我らのことは後回しでいい。ブリギッタとブリギッテが来たのであろう。それに愚妹もな。もし暴れるようなことがあれば、言ってくれ。抑えてやろう」
言っている意味はよく分からなかったが、とりあえず中庭に向かうことになった。すると驚きの光景が飛び込んで来た。妙齢のエルフ二人がドラゴンを殴り付けていた。
「この馬鹿ドラゴン!!ちゃんと着地しろ!!首が折れたらどうするんだ」
「そうだ!!反省しているのか!?」
「ごめんなさい、ごめんなさい・・・反省してます」
「私たちに謝らなくていい。ヤスダに謝れ!!」
「そうだ!!自分がしたことを反省しろ!!」
意味が分からない。しかし、このエルフたちが危険人物だということは、十分理解できた。
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