91 外交官クララ
レベッカさんが来てから2日目にベルシティの創設を祝うお祭りが開催され、お父様が初代領主となることになった。
「僕が領主だなんて・・・」
少し戸惑っていたけど、怖いオーガたちに囲まれて、断るに断れなく、受けてしまった。
「でも商人の立場から見ると非常に魅力的な投資先だよね。ロキたちが中心となっている鉄道事業は莫大な利益が出るだろう。ギールス会長に言えばすぐに飛びつく案件だね」
だけど、すぐに前向きになっていた。
それは私も思う。ベルシティと王都、ビーグル子爵領、それに小国家群と鉄道をつなげば、かなりの利益が出る。それに防衛戦力も整っているから、治安も安定するだろうし、虐げられている獣人たちを積極的に雇用していけば、人口も増える。
「まあ、何にしてもまずは鉄道の整備だな。それからだ」
祭りは大盛り上がり、その2日後にレベッカさんたちは帰還して行った。
「必ず希望に添えるようにする。楽しみに待っていてくれ」
★★★
ここに来て、大分仕事に慣れて来た。冒険者ギルドもでき、お父様が領主になったことで、私は少しゆっくりできるようになった。ルーティーンワークをこなしたら後は自由な時間になる。その時間をどうしようかと悩んでいた。
やっぱり家族と過ごすことにしよう。お母様と料理を一緒に作って、みんなで食べて・・・ネスカも誘ってあげようかな?
考えが甘かった。
魔王様から緊急招集が掛かったのだ。私とネスカは急いで王都に向かうことになった。私はゆっくりできない星の下に生まれたのだろうか?
王都に着くと魔王様とその夫であるチャーチル様が出迎えてくれた。チャーチル様は吸血族だけあって、整った顔と少し青白い肌をしている。嗜む程度に血は飲むが、血が主食というわけではないらしい。そんな話をする間もなく、用件を告げられる。
「クララ大臣、初めましてだね。早速で悪いが、外交官としての仕事をお願いしたいんだ。もうすぐ、賓客が到着される。その方たちをもてなしてほしいんだ。その賓客というのはドラゴンの御一家なんだ」
ドラゴン?
私が呆気に取られているとネスカが話を引き継いでくれる。
「父上、全く事情が分かりません。クララは能力は高いですが、なんでもかんでも任せたら上手くいくわけではないのです。それに5年も帰って来ないで、帰って来たら来たで突然クララに仕事を押し付けて・・・そもそもこれは外務大臣である父上の仕事でしょう?」
「それは分かっているんだが、事情があってな・・・」
チャーチル様が言うには、ドラゴンの御一家というのは、以前に魔王様が話された強力な魔物を定期的に持ってくる方たちらしい。外交努力で、今回は魔物を持ってくるのではなく、日頃の感謝の気持ちを込めて、接待させてほしいとの申し出が受け入れられたそうだ。そして、その席でさりげなく、「魔物はもういらない」と伝える予定だったのだが、その接待を手伝ってほしいというのだ。
「頼む!!クララ大臣。無理は承知の上、頼んでいるんだ。この国の未来が懸かっていることだからね」
「分かりました。やれることはやりましょう」
出迎えの準備を整え、中庭に魔王様以下の幹部全員が集合する。しばらくして、3体のドラゴンが空から舞い降りた。体長が10メートル以上はあるドラゴンが2体、その半分くらいのドラゴンが1体だ。すぐにそのドラゴンは光に包まれ、イケオジ風の髭の生えた男性、美しい淑女、きりっとした美少女になった。
ネスカに聞くと、エンシェントドラゴンは人化できるそうで、男性がベンドラ様、女性がパミラ様、少女がザスキア様というらしい。三人とも悠久の時を生きているそうだ。
魔王様が代表して、挨拶をする。
「ベンドラ様、パミラ様、ザスキア様、お待ちしておりました」
ベンドラ様が答える。
「もしかして、何か思い出したのか?それとも、見付かったのか?」
「そ、それは・・・一体何の・・・」
「皆まで言うな。知っているぞ。ブライトンやヤスダから聞いている。サプライズというやつだな?」
ここでパミラ様が話を遮る。
「貴方、サプライズに気付いても知らないフリをするのが礼儀だと教えてもらったでしょ?」
「そうであった!!我としたことが・・・」
そんな感じで、ドラゴン御一家は上機嫌で城の中に入って行った。
チャーチル様が言う。
「こちらにお招きした時に何かを期待していることが分かったんだけど、それが何か分からないんだ。滞在期間は5日、それまでに彼らが求めている物が分からなければ、この国は終わる・・・」
ドラゴン御一家はそれは凄い戦闘力を持っているらしい。
接待は続く。
私は大臣として、ドラゴン御一家にご挨拶だけして、末席で接待の様子を観察する。ベンドラ様は仕切りに魔王様に対して、「竜人が魔王とは、何かの縁だ。もしかして、思い出したのか?」といい、奥様のパミラ様に「こちらの方たちの都合がありますから、知らないフリですよ」と窘められる。
そして、美少女のザスキア様が言う。
「お父様、お母様、初日から出るわけないじゃないの。そういうことよね?」
「そ、そうですね・・・ハハハハハ」
流石の魔王様も笑って誤魔化すしかなかった。
初日の宴は終了し、魔王様やチャーチル様と対策を練る。
魔王様が言う。
「ベンドラ様たちは、何か勘違いをされていますね。私たちがブライトン王所縁の何かを見付け、プレゼントしてくれると思っていますね。このまま帰られる前に望みの物を渡せなければ、大変なことになってしまいます」
「こんなことになるなんて・・・ただ、おもてなしをして、要望を伝えたかっただけなのに・・・」
「貴方が努力してきたことは分かっています。上手くいかなくても責任は魔王である私にあります」
ここで私は提案する。
「初代ブライトン王の資料や手記はありますか?私にできることと言ったら、過去の資料を分析するくらいしかできません。それでよろしければ、最善を尽くします」
「クララちゃんありがとう。でも、かなりの量があるのよね・・・」
私が案内された資料室には所狭しと手記や資料が並んでいた。
これを分析するの!!
流石に眩暈がした。これが1ケ月くらいの期間をもらえれば、何とかなっただろう。しかし、期限は後4日しかない。流石に「速読」のスキルを使ったとしても厳しそうだ。そんなとき、新たなスキルが発現した。それは「検索」だった。
ネットの検索機能と同じで、キーワードを指定すれば、手に触れている資料であれば、キーワードがある箇所が分かるのだ。私はベンドラ様が良く言っていた「プレゼント」「贈り物」などで「検索」をしていく。
そうしたところ、それらしい手記を見付けた。それは死期の迫ったブライトン王が残した最後の手記だった。
「多分これが、最後の手記となるだろう。
妻のヤスダには迷惑を掛けたし、多くの過ちも犯した。多くの友と巡り会えたが、悠久の時を生きるベンドラたち、ブリギッタ、ブリギッテ姉妹は親友と呼べる存在だったと思う。この二組にはそれぞれプレゼントを用意した。ベンドラたちには我が、ブリギッタとブリギッテにはヤスダが用意することになった。我の命が尽きるのが早ければヤスダが、逆ならば我が渡す予定だが、無理ならば我が子孫に託したい。
そのプレゼントの場所だが、絶対に動かしてはならない物の後ろにある。絶対に、絶対に動かしてはならない場所だ。本当に絶対に動かすなよ。世界が崩壊するからな。本当に絶対に動かすなよ。
ヤスダが言うには、これで分かるらしい。もしもヤスダも我もプレゼントを渡せなかったときは、頼む」
そう書かれていた。
私はネスカを呼び出した。
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