89 家族団欒
レベッカさんがルータス王国に帰還して約3ヶ月、ついにこの日が来た。
お父様とお母様に会えるのだ。
思い返せば、私の方も忙しく過ごしていた。大きな変化もあったしね。
まずは、冒険者ギルドができたことだ。ギルマスはライアンさんで、その下でミリアとゴンザレスが働いている形だ。それにゴブリンやコボルトも雇用している。
ミリアが言う。
「素材も魔石も豊富に獲れていいんだけど、スライムの捕獲依頼が異常に高額なのよ。依頼者はハイドン所長なんだけど、こっちが心配になるくらいなのよね。一度、こっちから『報酬を少し下げてみたらどうでしょうか?もう少し報酬を下げても、冒険者はスライムを集めてくれますよ』と言っても聞いてくれないのよね。『俺はスライムハンターを尊敬しているからな』とか言ってさ・・・」
心配になって、ネスカとともにハイドンを訪ねた。
例のごとく、私が用件を言う前に、スライムの研究結果を嬉しそうに発表してきた。ハイドンが言うには、すべてのスライムは、透明の食用スライムからの派生ではないかと仮説を立てているそうだ。食用スライムが汚れの多い場所に行くと、青色のクレンジングスライムとなり最終的にはポイズンスライムになる。鉱石や魔石の多い場所では黄色のエナジックスライムになり、それが変異するとメタリックスライムになるのではないかということだった。
凄い研究成果だと思う。
一通り、発表が済んだところで、本来の用件を伝えた。一言で言うと、資金は足りているかを確認しに来たのだ。ネスカが必要があれば、予算を増額する旨を伝えた。
「十分足りてますぞ。足りなくなれば、ライアン殿や部下とともに魔物を狩りに行ってますからな。冒険者ギルドができて、魔石や素材を買い取ってくれるから、大丈夫ですぞ」
ハイドンは冒険者としても優秀だった。戦闘力が並外れている。あのオルガ団長とも互角に戦えるくらいだからね。
ネスカに目で合図を送る。
「放っておこう。定期的に視察に来れば、問題ないだろう」
実はこのハイドン、付近を探索して奇麗な湖を発見したのだ。ハイドンは食用スライムがいっぱいいることを嬉しがっていたが、それ以上に水産資源が豊富だった。魚もいっぱい獲れるし、ルルとロロも大喜びだった。ネスカの考えでは、資金が無くなったハイドンが、定期的に冒険者活動をしてくれることを狙っているんだと思う。
ミリアやライアンさんにこのことを伝えた。
「ハイドン所長らしいわ・・・」
「ハイドンの旦那は、スライムハンターが評価されないのは許せないと言っていたからな。ギルドとしても、サポートするよ」
上手くいっているので、良しとしておこう。
続いては、鉄道の建設だ。
ロキが来てから、大幅に進んでいる。というのも、納得のいく物ができるまで、じっくり作り上げる考えのドシアナとは違い、ロキはとにかく作ってみて実際に運用し、それから改良して作り直すことを信条にしている。
この二人がバランスよく機能し、駐屯地から王都の中間地点にあるゴブリン第2居住区との間で、試験運用が始まったのだ。
というのも、私やネスカは王都でも仕事があり、往復に時間が掛かるので、ロキが最優先で鉄道建設をすることを提案してくれたのだ。もし全線が開通すれば、1日で王都まで行けるようになるからね。
この鉄道建設でロキとドシアナ以外では、一つ目巨人族のラプス君夫婦が大活躍だった。でっかいし、力が強いからね。
そんな感じで、町がどんどん大きくなっている。もはや駐屯地ではなく、城塞都市だ。他の集落から移住してくる者たちも増えた。閣僚の会議では、そろそろ町の名前を付けたほうがいいのではとの意見も出ている。
★★★
そして今日、ガルフさんが先触れとしてやって来た。
ネスカに連絡事項を報告している。
「明日には着きますよ。シャイロさんもムーサさんも元気ですよ。それと今回のトップはレベッカではなく、ダミアン王子です。国王陛下の代理ということでね」
私はせっせと料理の下ごしらえを始めた。お父様とお母様に料理を振る舞うためだ。そして、連絡を受けた魔王様もやって来た。ガルフさんも驚いている。
「魔王様だって!!なんでまた?」
「不始末をしでかした馬鹿息子のことで、謝罪に来ました。悪いことをしたら謝罪する。人族では常識ではないのですか?」
それはそうだけど、立場上、謝れない人もいるんだけどな。
そして次の日、レベッカさん、エスカトーレ様、レニーナ様、それに護衛が数名を引き連れたダミアン王子が現れた。ダミアン王子がネスカと魔王様と話している側で、私はお父様とお母様との再会を喜びあった。二人と抱き合った。
「お父様、お母様!!本当に会いたかった」
「私たちもだ、クララ。それはそうとロキは?」
「研究が忙しくて手が離せないんだってさ。用があるなら工房に来てくれだって」
「全く、薄情な奴だねえ・・・ロキらしいけど」
お父様はしみじみと言う。
「クララもロキも親離れの時期だからね」
しばらくして、ダミアン王子との挨拶を終えた魔王様がこちらにやって来た。
「ウチのネスカが大変申し訳ないことを・・・深く謝罪します」
お父様とお母様にネスカが王子で、今、目の前で謝っている女性が魔王様だと伝えると大変驚かれた。
「魔王様、お顔をお上げください。クララも無事ですし・・・」
「そうですよ。やり方は間違えていたかもしれませんが、今もよくして、もらっていますしね」
「そう言ってもらえると助かります。ほら、ネスカ!!貴方も謝りなさい」
恐縮するお父様とお母様だった。
それから私たちは、ロキを工房まで迎えに行き、久しぶりに家族団欒で食事をすることにした。
「みんなのために私が料理を作ったからね」
私がみんなに出したのは冷麺だ。麺はもちろんアレだけどね。
「料理人」のお母様も唸る。
「冷やしラーメンか・・・でも、この麺は何だい?コシがあって、独特の触感で・・・」
私がドヤ顔で言う。
「びっくりした?これはね、スライムなんだよ」
二人は凄くびっくりしていた。
スライム冷麺を開発するにあたって、ハイドンに協力してもらった。完成した時には、涙を流して喜んでいたけどね。
「素晴らしい味だ・・・これで、死んでいったスライムたちも浮かばれる」
他人事のように言うけど、貴方が一番スライムを惨殺してるんだけどね。
そんなこともあり、楽しい時間は過ぎていった。
しばらく経って、お父様が真剣な表情で言う。
「クララもロキも、今後どうするんだ?ケーブに帰るか?どちらでもいいのだが・・・」
「お父様、ごめんなさい。私はこの国では一応大臣なの。このまま仕事を放り出すことはできないの。魔族も悪い人じゃないしね」
これにロキが続く。
「僕は帰らないよ。学校の勉強が必要だというんなら、ミリアさんにでも教えてもらうしね。それに近くにライバルがいるのはいい環境だよ。お姉様のアイデアを独占できなくなるのは辛いけど、甘えがなくなるからね。厳しい環境に身を置こうと思うんだ」
ロキの発言を受けて、お父様とお母様はお互い、驚いて見つめあっていた。
「ロキも成長したもんだ。よし!!だったら、私たちがここに住もう。ムーサ、いいだろう?」
「もちろんだ。新メニューもどんどん作るよ!!」
お父さんが言うには、男爵位を返上し、私たちの元で暮らすことを考えていたそうで、事前に相談していたという。そうしたところ、返上は勘弁してほしいと言われ、名誉伯爵という形だけの貴族を提案されているというのだ。
お父様はそれを選択しようとしているのだった。
「いいの?私は嬉しいけど。せっかく大きくしたベル商会なのに」
「別にいいさ。お金には困らないけど、商人の仕事ではなく、最近は政治家や官僚の仕事ばかり、させられるからね」
「私もだよ。めっきり、厨房に立つ機会が減ってね。もう一度、一料理人に戻りたいと思っていたんだよ」
二人が本当にそう思っているのか、それとも私たちと暮らすためにそう言っているのかは分からないが、また、家族一緒に暮らせることを深く感謝した。
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