88 王女を救え
~レベッカ視点~
いやはや、クララ嬢には驚かされる。魔王国ブライトンから帰還し、父上に報告したら、流石の父上も冷静さを欠いていた。まあ、クララ嬢は大臣になっているし、ロイター王国は魔族と戦っていなかったんだからな。
それはさて置き、私にはやらねばならんことがある。まずは第一王女であるルミナス殿下を救わなければな。
母上の国への帰還はあっさりと認められた。被害者であるクララ嬢の嘆願書もあるし、こちらでは被害者のクララ嬢は死んでいることになっているからな。嘆願書に日付は書いてないので、生前に書いたのだろうと納得してくれた。
そして、ルミナス王女と如何にして接触するかだが、ネブラスカ氏の預言「聖女よ!!古き友が待っている。同胞を救え、そして世界を救え!!」をまた利用することにした。エスカトーレ嬢とルミナス王女は幼少期から交流があり、もしダミアン王子とご成婚されれば、義姉となる存在なので交流は続き、預言の「古き友」と言っても差し支えないない。
王宮に申請を出して2日後、すぐに面会できることになった。異例の速さだ。これには国王陛下の意向も大きかった。藁にも縋りたい気持ちだったのだろう。
ルミナス王女の部屋に案内された。部屋に入るのは女性と身内のみとなったので、国王陛下、ダミアン王子、エスカトーレ嬢、母上、私だった。第一王女はかなり衰弱していた。ベッドに横たわり、苦しそうにしている。エスカトーレ嬢と母上が診察する。
「これは・・・ベッドと明かりの魔道具におかしな魔法陣が刻まれてますね。専門家が見ないと分からないくらいにさりげなく。一見して性能をよくするだけの魔法陣ですが、ダミーですね」
「エスカちゃんも、腕を上げたね。そのとおりだ。そして、薬かなんかに変なものを混ぜたんだろう。ベッド、明かりの魔道具、薬、この三つが揃わなかったら、発動しないようになっているね。だから、薬をいくら調べても分からない。マドメル魔法国で仲良くなった暗殺に適した魔法を研究している魔導士に教えてやろうかな?喜ぶと思う」
母上、それは止めてくれ・・・
「国王陛下、ルミナス王女に薬を出していた者を拘束したいのですが、可能でしょうか?」
「もちろんだ」
それから、エスカトーレ嬢と母上は魔法陣を壊さないように、証拠を保全しながら解除、薬を出していた医師も無事に確保した。医師から事情を聞いたが、ある人物に依頼されたという。その医師の話では、鑑定しても毒ではないし、この薬を飲ませるだけで、高額の報酬がもらえることから、話を受けたそうだ。医師に依頼した人物の地位を考えると従わざるを得なかったのだろう。
魔法陣を解除すると、ルミナス王女は今までの症状が嘘のように回復した。国王陛下も喜びを爆発させていた。しばらくして、その喜びが怒りに変わる。
「我の大切な娘、ルミナスにこのような仕打ちをした者どもを許すことはできぬ。レベッカよ。手段を択ばずともよい。父フレッドとともに奴らを血祭りに上げろ」
底冷えのする声だった。
「御意!!」
★★★
父上に報告し、今後のことを検討していたところ、ガルフがやって来た。いつものマスクを着けて、ニヤついた男に戻っている。
「証人の確保に成功しました。気付かれないようにこちらに向かわせています。これから、以前に拘束した前第3騎士隊長の尋問を開始します。許可をください」
「許可しよう。殺さん限りは何をしてもいい」
私とガルフの最大の目的は、復讐だった。ライアン先生の未来を奪ったことが許せなかった。先生は常々「俺はいつかAランクになる」と言っていた。その夢を非道な奴らの所為で奪われた。もちろん、先生以外にも多くの冒険者が、冒険者の道を諦めざるを得なかったのだが、そんな彼らの名誉を少しでも回復させるためにやらなければならない。たとえ国が傾いたとしてもな。
前第3騎士隊長の取調べを続け、証人の証言をまとめていく。どれもライアン先生の奥様であるスラール氏の証言に一致する。長い間、不正に手を染めた国賊どもが浮かび上がった。
そして父上が招集を掛けた。
ジョージ兄上もいるし、ジャンヌもいる。ここにいるのは信頼のおける同志だけだ。皆に向かって父上が言う。
「売国奴を一人残らず拘束する。抵抗するなら、殺しても構わん。行け!!」
全員が出動した。残ったのは父上と私とガルフだけだった。
「レベッカ、ガルフ・・・行くぞ・・・」
★★★
私たちが訪れたのは、宰相の自宅だった。
問答無用で押し入る。小太りの宰相が驚きの表情を浮かべている。突然のことで、全く抵抗ができなかったようだ。まあ、このメンバーであれば、反撃されたところで、どうとでもなるのだがな。
「こ、これは騎士団長!!どういことですかな?宰相の私にこんなことをして、いかに騎士団長と言えど・・・」
父上が宰相の言葉を遮る。
「陛下の許可は得ている。長年の不正は白日の下にさらされた。もう観念しろ。ここで死ぬか、公開処刑にされるかを選べ!!」
不正の始まり、それは13年前の戦役に遡る。ライアン先生を含む冒険者だけでなく、ルータス王国からも多くの騎士が出征した。その中にはこの宰相も前第3騎士隊長もいたのだ。冒険者と騎士隊は別行動だったのだが、騎士隊も多くの被害を出した。魔族の攻撃ではなく、魔物による被害だ。多くの死傷者を出し、騎士隊は壊滅状態になった。そのとき、ロイター王国の関係者からこのような話を持ち掛けられたそうだ。
「魔族に襲撃されたことにしてくれれば、英雄として帰還できますよ。魔物相手に騎士隊が壊滅状態になるなんて、恥ずかしいでしょうしね。もちろん、こちらも協力させてもらいます」
この話に乗ったようだ。
ロイター王国の元騎士スラール氏の証言では冒険者部隊の指揮をしていた伯爵家の令息の実家が、この担当をしていたそうだ。冒険者部隊の案内役だった伯爵家の令息は既に他界しているが、間違いないだろう。
それから、彼らは予想通り英雄としてルータス王国に帰還した。そして、英雄の彼らを国としては優遇しなくてはならなかった。個人の能力は別にして、国のために命を懸けたことになっている彼らを冷遇することはできないからな。
そして、当時一介の小隊長だった宰相は文官に転身し、今の地位を築いた。それから、宰相は親ロイター王国、反魔族派の旗頭となった。というのも、ロイター王国への支援金を増やせば、そのキックバックを受けられるからだ。その莫大な資金を背景に地盤を固めていった。
6年前、この事実が神聖ラドリア帝国に掴まれることになる。ロイター王国も宰相たちも神聖ラドリア帝国の傀儡となってしまったのだ。それはそうだろう。この事実がバレたら、国では英雄の自分たちが、ただの嘘吐きの売国奴に成り下がってしまうのだからな。
そして、自らの手で騎士団の新兵や冒険者を死地に送り込んだ。まあ、クララ嬢のお陰で、すべて計画は破綻したのだが・・・
救いは戦役から帰還した騎士隊の中に、恥を忍んで証言することを決意してくれた者が多くいたことだ。彼らは何年も、苦しんでいたそうだ。その証言と数々の証拠資料、ライアン先生たち冒険者の証言、スラール氏の証言、もはや言い逃れはできない。それに宰相には王女暗殺未遂事件の容疑もあるしな。
「観念しろ」
低く、底冷えするような声で父上が言う。
宰相が怯えながら言った。
「き、聞いてくれ・・・我らの派閥の者が一斉に粛清されれば、国が傾くぞ!!それこそ、魔族や隣国から攻められる。国のことを思えば、それはできんだろう?悪いようにはせんし、金も出すからな」
「もういい、連れていけ・・・宰相閣下は、名誉ある自死ではなく、公開処刑をお望みのようだ」
泣き叫ぶ宰相を私とガルフで拘束して、馬車に放り込んだ。
★★★
その後のことだが、国は大混乱だった。宰相でなくても予想できたことだ。国の要職という要職に宰相の息の掛かった者が多くいたからな。しかし、救いもあった。それはエスカトーレ嬢の派閥だ。国の半分以上の貴族が加入している組織で、家同士の対立を度外視して加入しているようで、王家と対立関係にある東辺境伯令息も加入している。
その貴族たちを利用することにした。正義の貴族としてな。
そして、クララ嬢たちも利用されることになる。最初から国の命を受けて、死んだことにして魔王国に潜入し、和平交渉を成立させたことにしたのだ。卑怯な手だが、これくらいは勘弁してもらいたい。
それよりも、私にはやらなければならないことがあるのだ。
「シャイロ、ムーサ!!用意はできたか?」
「もちろんです」
「とっくの昔にできてるよ。それにしても、レベッカちゃんが付いてきてくれていいのかい?国は大変な状況だろ?」
「それは私の仕事ではない。私はギルドからシャイロとムーサを無事にクララ嬢の元に送り届けるという依頼を受けた、一介の冒険者だからな・・・」
私たちは馬車に乗り、魔王国ブライトンへ旅立った。
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