87 再協議
それぞれが、それぞれの再会を果たしたところで、協議が再開した。
この協議の参加者は、昨日のメンバーに加えて、ライアンさんとスラールさん夫妻にも来てもらった。レベッカさんの推薦で、特にスラールさんにロイター王国の実情を聞きたいとのことだった。そしてオルガ団長とスターシア団長も参加する。
協議の前に偶々ゴンザレスと再会したオルガ団長はゴンザレスに模擬戦をお願いされて、模擬戦をすることになり、意気投合してしまった。そして、それを聞きつけたエスカトーレ様やスターシア団長、果てはレベッカさんとガルフさんも参加して、大模擬戦大会に発展した。拳で語り合うと仲良くなるというやつだろうか、みんな打ち解けている。私には理解できないけどね。
まあ、そんな流れでなし崩し的に二人も協議に参加することになった。
この協議に参加しない者もいる。ロキとドシアナとハイドンだ。ロキとドシアナは研究したいことがあると言って、二人で研究室に籠って出てこないし、ハイドンは「スライム研究に忙しい」らしい。ロキとドシアナは職人気質なので納得できるが、ハイドンも研究者になってしまったようだ。
協議が始まる。まずは、レベッカさんが発言する。
「クララ嬢とライアン先生たち冒険者のルータス王国への帰還についてだが、すぐにでも帰らせてやりたい気持ちはある。しかし、情勢を考えると得策ではないと思われる。こちらの国内事情も複雑だからな」
ネスカが答える。
「それは十分理解しています。できれば、クララのご両親をこちらに連れてくることは可能でしょうか?こんなことをしでかした僕が言うのもアレですが・・・」
「それは大丈夫だ。ご両親はクララのことを言えば、何をおいてもここに来るだろう」
国にはすぐに帰れそうにないけど、お父様やお母様に会うことができればそれでいい。
「今後のことだが、魔王国ブライトンとして、他に要望はあるか?」
「ゆくゆくは同盟又はそれに代わる条約でもいいので、締結したいと思っています。そして今現在、迫害されている亜人や獣人を保護し、彼らの生活や文化を尊重する声明を共同で出してもらいたい。それが可能であれば、特に多くは望みません」
「それは願ったり叶ったりだな。ロイター王国へ毎年払っている支援金も馬鹿にならんしな。ただ、そうできない特殊事情があるのだ。ウチの第一王女なのだが・・・」
レベッカさんが言うには、第一王女が病に倒れ、その原因が「魔族の呪い」と言われているので、今の段階で国王陛下を説得できないという。
「馬鹿げた話だが、子を持つ親の立場なら、信じても仕方がない。もちろん貴殿ら魔族が、そんなことをするとは思えないが・・・」
ここでスターシア団長が声を上げる。
「呪いというか、魔道具か魔法?若しくはその両方の合わせ技かな?そんなのアイツ・・・なんて言ったかな?そうだ!!「イカれた稲妻」とかいう魔女なら何とかなるんじゃない?」
「貴殿が言っているのは、私の母で、「狂った雷」のことか?」
まあ、二つ名は少し違うけど、ヤバいってことは確かだけどね。
「多分、それよ。傍若無人だけど、腕は確かな奴よ。魔方陣の知識とそれに対処できる魔力があれば何とかできるわ。エスカちゃんでもいいけど、あまりそういった経験はなさそうだし、一応は指導してあげるけどね」
この提案にレベッカさんは悩む。
「クララ嬢が母上を許してくれるなら、母上を国に連れ帰ることができる。協力してくれないか?」
レベッカさんの話を聞くと、被害者である私がキャサリン様を許し、それを王族が確認すれば、キャサリン様の処分は終わるという。なので私が「反省されているので、許してあげてください」という嘆願書を書き、ダミアン王子が確認すれば、キャサリン様は国に帰れるということらしい。
ダミアン王子はエスカトーレ様の言いなりなので、私が許せば解決するというわけだ。
「分かりました。許します。ただ、今後このようなことがないように監督をお願いしますね」
「もちろんだ。家族総出で監視しよう」
それから、同意できる事柄などを確認していく。簡単な合意事項も書面にする予定だ。もちろん、その書面は私が作るんだけどね。
レベッカさんが言う。
「今のところ、魔王国ブライトンは「亜人や獣人を保護する声明を共同で発表する」ことが要望で、それについては、こちらの第一王女の問題が解決すれば可能か・・・だったら第一王女の問題を解決することが現時点での最重要課題だな。その件で最大限の協力をしてほしい」
「もちろんです。スターシア姉さん、いいよね?」
「いいわよ、この後に簡単な解除方法や選別方法をエスカちゃんに教えてあげるわ。もう弟子みたいなものだからね」
「ありがとうございます。スターシア王女」
話は上手くまとまった。
「今のままでは、こちらがそちらに与える物が何もない。共同声明はまだ先のことだしな。何か要望があれば、こちらができることであれば受けよう」
私は駄目元で要望を出してみた。
「この町にも冒険者ギルドを設置してほしいと思います。幸い元冒険者も多くいますしね」
「そんなことでいいのか!!だったらすぐに設置しよう。私のギルマス権限があれば、それくらいはできるし、ライアン先生もいるし、正規のギルド職員が二人もいるからな。ミリア、ゴンザレス、命令だ。この町にしばらく残って、冒険者ギルドの立ち上げをしてくれ。ノウハウはケンドウェル伯爵領で立ち上げた実績もあるし、大丈夫だろ?」
「もちろんです。統合ギルドにすることもできますよ。そうですよね、ゴンザレス様?」
「そうだ。俺がいれば大丈夫だ」
それから3日、レベッカさんたちと協力しながら、準備を進めていく。最終的にレベッカさん、ガルフさん、エスカトーレ様、レニーナ様がルータス王国へ帰還することになり、ロキ、ミリア、ゴンザレスがこちらに残ることになった。
レベッカさんが去り際に言う。
「なるべく早く、クララ嬢のご両親をお連れしよう」
「お願いします。報酬は弾みますよ」
「そうだな、この町の冒険者ギルドの初仕事としては、申し分ないだろう。では!!」
レベッカさんたちが去って行く。
ライアンさんが呟く。
「俺にこの町のギルマスをやれだってさ。恩返しのつもりかね?」
私は答えた。
「そうですよ、きっと・・・私もレベッカさんには冒険者の心構えや大切なことを教えてもらいました。それでいうと、私もライアン先生の孫弟子ですね」
「そんな年齢でもないのに、もう孫ができたのか・・・でもクララ大臣には感謝しているよ。レベッカが帰って来たら驚くくらいのギルドにしてやろうぜ」
ライアンさんは、嬉しそうに旅立つレベッカさんたちを見つめていた。
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