85 再会
駐屯地の整備も大幅に進んだ。
今日は、魔王様の視察の前にオルガ団長とスターシア団長の視察で駐屯地を案内していた。
お二人も上々の評価だ。
「もう町じゃないか!!それに多種族が共存している」
「人族もいるしね。王都以外では珍しいわね・・・」
魔王国ブライトンは多種族共存を謳っているが、実は種族ごとに居住区を分けている。文化や習慣の違いで諍いが起きないようにするための配慮だという。例外として王都ブリッドが挙げられるが、これは初代魔王の血を引く者が集められた結果だという。初代魔王の血を引く者は、子供に他種族の特徴が現れることが多い。オーガの夫婦にダークエルフの子供が突然生まれたりするのだ。そんな子供たちは、各集落でも爪弾きにされる傾向にあるため、苦肉の策として王都に集めることになったそうだ。そのような事情から、王都に多様な種族が住むことになった歴史がある。
だから、こういった光景は非常に珍しいのだという。
今も人族の冒険者とオーガの兵士が親しげに話をしている。
「スライムばかり集めさせられて、Fランク冒険者に戻った気分だ。これでもCランクだったのに」
「文句を言うな。ハイドン所長も自らスライムを捕獲されているぞ」
「分かってるよ。Sランク冒険者もびっくりなハイドン所長にそんなことされたら、やるしかないだろ」
そんなとき、通信の魔道具に報告が入った。
「すぐに帰還をお願いします。クララ大臣の親友たちと弟と名乗る人物がこちらに来られています。クララ大臣を救出に来たと言われています」
私はネスカに目配せをする。
「一旦、視察は中止にしよう。すぐに戻るよ」
そこで、見たのは衝撃の光景だった。
弟のロキとドシアナが取っ組み合いの喧嘩をしていた。
なぜ!?
★★★
慌てて、ロキとドシアナを引き離した私だったが、懐かしい顔を見付けた。ミリア、エスカトーレ様、レニーナ様、ゴンザレス、そしてレベッカさん。
「み、みんな!!どうしてここに?」
「それはこっちの台詞よ!!大臣って・・・もう・・・心配させないでよ!!」
喜びを爆発させて、ミリアやエスカトーレ様、レニーナ様と抱き合った。
一頻り再会を喜び合った後に今までのこと、これからのことを話し合うことにした。まずはネスカが、状況を説明する。
「ふざけないでください!!どれだけ、僕たちが心配したか、分かってるんですか!!」
「ネスカ、ずっと騙してたのね!!それにこんなことをするなんて!!」
ロキとミリアが怒り出した。まあ、当然だよね。
ネスカは平謝りだ。仕方なく、私も助け船を出す。
「ネスカの行動が褒められたものじゃないけど、理由があったし・・・それに手紙とかも書かせてくれたしね。もっとやりようがあったかもしれないけど、もっとあくどい手段を取ることもできたし・・・」
すると、途端にミリアがニヤニヤし始めた。
「クララもそんな風にネスカを庇うんだ?ふうん・・・だったらネスカ、貴方の今の正直な気持ちを聞かせてよ。それで、許してあげなくもないわね」
若干、煽りが入っているミリアの言葉にネスカは乗ってしまった。
「僕は誰よりもクララを大切に思っている。将来は妻にと考えている。こんなことをしてしまって、申し訳なく思うが、この気持ちに嘘はない。ずっと前からそういう気持ちだった」
突然の告白に私は顔が真っ赤になってしまった。そして、ネスカに文句を言う。
「なんでそんなことを今言うの?あの事件が起こる前とかに言ってくれれば、考えることくらいはしたのに・・・ゴンザレスの3倍ズレているわ!!」
「ゴンザレスで思い出した!!
ゴンザレス!!君にも言いたいことがある。君のことは親友だと思っている。しかし、クララは渡さない。君はライバルでもあるんだ」
これにゴンザレスが答える。
「よく分からないが、結婚は父上や母上が決めるものだ!!そうですよね?姉上」
「ゴンザレス・・・そこは男らしく「受けて立つ」と言え。父上には私から言っておく」
「分かりました。そういうことだ、ネスカ!!クララは渡さない!!」
場は、何とも言えない空気になってしまった。
悪いと思ったのか、ネスカを煽ったミリアが話題を変える。
「えっと・・・色々あると思うけど、状況を整理しない?こちらの情報と魔族側の情報をすり合わせた方がいいと思うのよね。隠し事はなしで。クララの報告書やこれまでの情報を精査すると、私たちと魔族を仲違いさせて、戦争をさせようとしている奴らがいるのよね?
この際、プライベートなことは一旦置いておいて、話し合いましょうよ」
これにはみんなが同意した。
★★★
まずは、私とネスカが過ごしたこの1年の出来事と魔王国ブライトンの歴史を中心に話した。みんな一様に驚いている。まあ、それはそうだろう。私たちが習った歴史と全く違うからね。そして、私たちもミリアたちが、この1年何をしていたのか、そして最近の国際情勢などをレベッカさんを中心に教えてもらった。
レベッカさんが言う。
「つまり、魔族と人族が戦争をしたことは一度もなく、すべてがロイター王国の自作自演だったと?」
「そうです。13年前に生贄にされた冒険者も、こちらで保護し、8割は生きています。残りの2割は戦闘で亡くなったり、保護した後に病気やなんかでね・・・」
「それは仕方がない。冒険者なんてそんなもんだ」
レベッカさんがしんみりしたところで、ネスカが言う。少し嫌らしい顔をしている。
「ところで、隠し事はなしでしたよね?だったらそちらのニヤついた男性の正体を教えてください。獣人でしょ?それにかなりの手練れだ。それから考えて、数年前までSランクで、現在所在不明の・・・」
ネスカが言い掛けたところで、ニヤついた男は顔のマスクを取った。いつも変な顔だと思っていたけど、マスクだったとは・・・
マスクの下にあったのは、狼系の獣人の顔だった。
「お前の言う通り、俺は餓狼族の冒険者ガルフだ。「疾風のガルフ」って言えば、それなりに知っている者もいるぜ。訳あってこんなことをしているけどな」
「そうですか・・・「疾風のガルフ」か・・・僕が聞いたのは「泣き虫レベッカ」と「皮肉屋ガルフ」ですけど・・・」
これにはレベッカさんが反応する。
「ネスカ、お前・・・どうしてそれを・・・」
「それは本人に聞いてくださいね。呼んでますから」
しばらくして、ライアンさんがやって来た。
「なんで、俺が偉い人の会合に出なきゃならないんだ?貴族とか、あんまり好きじゃ・・・」
そう言うが早いか、レベッカさんとガルフさんがライアンさんに抱き着いた。レベッカさんは涙を浮かべ、「泣き虫レベッカ」に戻っていた。
三人は、再会を喜び合っている。
「レベッカもガルフもSランクで、レベッカはギルマスだと!?そうか・・・才能があると思っていたけど、びっくりしたな」
「今の私があるのも先生のお陰だ。感謝している」
「俺もだ」
「そうだ!!俺以外の奴も生きてんだぜ。「スライム狩り」のニックも「配達屋」のジョンもな。それに俺も結婚して子供もいるんだ。お前らに見せてやるよ」
レベッカさんが言う。
「提案がある。とりあえず、プライベートを片付けないか?私とガルフがここに来たのも、ライアン先生たちの安否確認が一番の目的だったんだ。クララ嬢の件を出汁にして悪かったとは思っているが・・・」
みんな冷静に話し合う雰囲気ではなくなってしまったので、会議はそこで解散になった。
因みに会議終了後、ルルとロロもミリアたちと感動の再会をしていた。みんな、あの侍女がこんなにかわいい猫人族の姉妹だと分かってびっくりしていた。
まあ、情勢的にすぐに対応した方がいいけど、今日くらいはゆっくり、再会の喜びを味わえばいいよね!!
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