82 幕間 クララ救出作戦
~ロキ視点~
その日、僕たち家族は絶望に打ちひしがれていた。王宮の使者を名乗る偉い人が家に来て、お姉様の死を告げた。
「クララ様の死は無駄にはしません。必ずや魔族を滅ぼします。つきまして、国葬で・・・」
お姉様は殉職者として、国葬が開かれるという。僕に取ってみれば、どうでもいいことだった。だってお姉様が帰ってくるわけではないのだから。
その日から家の中は、火が消えたように暗く沈んだ。商会のみんなが気を遣ってくれ、ケンドウェル伯爵領からオジールも駆け付けてくれて、僕たち家族を励ましてくれたけど、お父様とお母様と僕の三人だけになると、誰も何も話さない。
そんな日々が続き、お姉様の国葬が執り行われた。お姉様は騎士爵に任じられ、大勢の前でその功績が称えられる。説明によると身を盾にして、王子様や聖女様を守ったらしい。お姉様も、お姉様だ。そんなことをせずに逃げ出せばよかったのに・・・
国葬を終え、家に帰った。
しばらくして、ギルマスのレベッカさん、一緒に旅をしていたエスカトーレ様とゴンザレスさんの3人が訪ねて来た。正直、エスカトーレ様とゴンザレスさんの顔は見たくなかった。今にも「お姉様を見殺しにしやがって!!」と怒鳴りそうになってしまうからだ。
そんなとき、レベッカさんが驚きの内容を話した。
「驚かずに聞いてほしい。クララ嬢は生きている。本当は、捕虜として魔王国ブライトンに囚われているのだ。ゴンザレスも私も、エスカトーレ嬢も、早く捕虜の引き渡し交渉をすべきだと主張したが、聞き入れられなかった。逆にこれ以上、このことは口に出すなと警告された」
お父様が言う。
「そ、そんな・・・レベッカ様。もちろん、クララが生きていてくれたら、これ程嬉しいことはありません。しかし・・・」
お父様も混乱しているようだった。
「ならこれを見てほしい」
渡されたのは、僕たち家族へ向けた手紙だった。
間違いなく、お姉様の文字で書かれていて、どれだけ家族のことを思い、そして幸せだったかが綴られていた。そして最後にはこう書いてあった。
「私は大丈夫。魔族もそこまで悪い人たちではなさそうだし、ネスカもいるからね。しばらくは帰れそうにないけど、体に気を付けて。その内帰るから、心配しないで待っててね」
お姉様らしい・・・
そのとき、ゴンザレスさんが土下座を始めた。
「本当に申し訳ない!!クララを守れずに・・・俺が代表して捕虜になればよかったんだ・・・」
「ゴンザレス、それは違うぞ。何らかの意図があって、魔族はクララ嬢を選んだんだ。クララ嬢の活動報告を読むとそれがよく分かる。おかしいことだらけだ」
ゴンザレスさんは、ピンときていないようだが、エスカトーレ様はレベッカさんに続いて、話始めた。
「ゴンザレスさんも気付いたでしょ?私や貴方が戦った魔族は、相当な実力者で、私たちを殺そうと思ったら、いつでも殺せたと思います。戦ってみて、何かこう・・・指導をしてもらっているような感覚でした」
「そ、そうだ。オルガとかいう女は、いつでも俺に勝てたのに、弱点を示すように戦ってくれていた。まるで、姉上や父上と模擬戦をしているようだった・・・」
レベッカさんは、ニヤっと笑った。
「つまり、そういうことだ。これから極秘作戦を慣行する。それはもちろん「クララ救出作戦」だ」
★★★
それから、1年が経った。
すぐにお姉様の元に連れて行ってくれるものだと思っていたが、そうではなかった。レベッカさんが言うには、綿密に計画を練り、仲間を集めないと、この作戦は成功しないという。それまでにできることをすることにした。
表向き僕はケーブ学園に入学したけど、実質は授業そっちのけで、冒険者活動をしていた。お父様もお母様も最初は反対していたけど、何とか折れてくれた。自分で言うの何だけど、よくあの訓練に耐えたと思う。ゴンザレスさんやレベッカさんだけでなく、ミリアさんやレニーナさんも模擬戦をしてくれて、実力がついた。それに毎日厳しい体力強化メニューも必死でこなした。
戦闘に向かない「武具職人」だけど、高価な武器や防具に身を包めば、それなりに戦えた。努力に努力を重ね、今ではBランクになっている。
もちろん、武器や防具、罠などの開発も続け、週末にはミリアさんやゴンザレスさん、レニーナさんとともに依頼をこなす。僕はBランクだけど、ミリアさんたちは既にAランクになっている。
また、お姉様が入っていた派閥の活動にも、参加させられた。その時は詳しい理由を教えてくれなかったけど、「とにかく悲しそうな顔をして、挨拶すればいいだけだから」と言われた。この活動は遠方でも行われ、東辺境伯と西辺境伯にも挨拶に行った。挨拶だけで国の端から端まで移動するなんて、と思ったけど、これもお姉様に会うためだと思って、我慢した。
このような状況なので、学校の試験はヤバい状態だった。弓術の臨時教官をしているレニーナさんが、サポートしてくれなければ、追試やレポートの嵐だっただろう。
そして今日、レベッカさんに呼び出しを受け、僕とミリアさん、ゴンザレスさん、レニーナさんがギルドに集合した。いよいよ出発するのだ。このメンバーに加えて、やけにニヤついた男の人もレベッカさんとともに参加するらしい。ミリアさんに聞いても、この男の人が誰なのか分からないらしい。
それはさて置き、僕たちが出発の準備をしていると、ギルドの職員が慌ててレベッカさんを呼びに来た。
「宰相の使いという文官が来ています」
「通してくれ」
しばらくして3人の文官が入って来た。レベッカさんに早速、抗議を始める。
「レベッカ殿、今回は取り止めてもらうことはできませんか?神聖ラドリア帝国との関係が・・・」
「こちらは依頼を受けて、その依頼を達成するために最適なメンバーを選んだだけだ。もう出発するから、用件がそれだけなら、お引き取り願おう」
レベッカさんが言うには、1年前に僕たちに渡してきた手紙以外にお姉様が作成した報告書があったみたいだ。それを最近、何者かがギルドに届けに来たことにして、生きている可能性が高いなら、捜索隊を組織しようという建前にしたようだ。
「そ、そんな虫のいい話が、通るとお思いですか?いくらギルマスと言えど・・・・」
ここでレベッカさんは、依頼書の束を文官に投げ付けた。
「私はギルマスとして、依頼を達成しに行くのだ。どうしても、取り止めろと言うのなら、その依頼者一人一人に、依頼を取り下げてもらうように言うんだな!!」
レベッカさんは、お姉様の件は、何か大きな力が働いていると言っていた。普通に捜索に行ったのでは、潰されかねないと・・・
だから、1年も時間を掛けて、用意周到に準備してきたのだった。
「これは・・・名だたる貴族がすべて依頼している」
「西辺境伯に東辺境伯、それにギュンター家も・・・」
「全部に取り下げの要求に回ったら、1年経っても無理だろう・・・」
僕が派閥活動に参加させられていたのは、こういう事情だった。一人でも多くの有力貴族の協力を得ることが目的だったんだ。
そして貴族の半数以上が、今回の捜索隊派遣に賛成という立場を取っていた。
「そういうことだ。騎士団長である私の父上から初めに説得に行けばどうだ?多分、「決闘に来たのか?」と言われるのが、オチだろうがな」
項垂れる文官たちを尻目に、僕たちはクララ救助隊はギルドを後にした。
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