81 クララの町づくり 3
あの会議から1ケ月、町はますます発展していく。
まず私だが、副本部長なので常にネスカと一緒にいる。魔王軍でいう副官のポジションだから仕方がないのだけどね。それに私が魔王軍に残したマニュアルには、「副官とは、常に仕える上官の立場に立って考え、上官が指示するよりも先に行動し・・・・」などなど、OL時代の秘書の心得を応用したものが記載されている。なので、「クララ大臣は口だけだな。実際はできていない」と言われるのが嫌で、ネスカのことを常に考えて、先を読んで仕事をしているのだ。これは、ネスカを許したのではなく、プロとして当然のことだ。
「クララ、今日の予定を教えてくれ」
「今日は、ドシアナの開発した鉄道の試作品の視察、その後にスライム研究所の視察となっています」
「じゃあ、行こう」
★★★
ドシアナはやはり天才だった。
1ケ月で鉄道の試作品を完成させていた。ネスカも驚いている。
「これなら、本格的に事業を開始してもいいな。予算も付けよう。後は王都までのコースの選定だが、これは冒険者たちに任そうか・・・」
「嬉しいッス!!すぐに取り掛かるッス!!ところで、クララ大臣は何かないッスか?」
もう私が口出しできることはないと思うんだけど・・・
あっ!!これからどんどんと鉄道が敷き詰められるということは・・・
「ある程度完成した段階で、車輪の大きさや部品の性能を統一すればいいと思うわ。規格の統一化と言うんだけど、これから鉄道が普及するに連れて、好き勝手に部品なんかを作ったんじゃ、修理するときに部品から作り直さないといけないでしょ?だから、統一できるところは統一してね」
「なるほど・・・鉄道が国中に張り巡らされるんスね!!燃えてきたッス!!」
その後、ネスカが更にドシアナを激励して、次の視察場所に向かった。
★★★
スライム研究所にやって来た。スライム研究所の所長はなんと、ハイドンなのだ。
「ネスカ王子、わざわざ来てくださって、ありがとうございます。スライムとは本当に奥が深いものですね」
ハイドンの挨拶の後、研究施設を回りながら、スライムの研究成果をチェックしていく。
スライムは多くの種類があり、現在主に研究しているのは、黄色いエナジックスライム、透明の食用スライム、青色のクレンジングスライム、緑色のポイズンスライムの4種類らしい。ハイドンが誇らしげに説明する。
「エナジックスライムは魔石の代用品として活用できますし、クレンジングスライムは、ゴミ捨て場やドブを奇麗にする効果があるんです。ただ、一定以上汚れを吸い取ると、ポイズンスライムになってしまうのですがね。今後は、これらのスライムの研究を進めるとともに、もっと食べられるスライムがないか、探しています」
なぜ、食用にこだわる?
これだけでも凄い成果じゃないか!!
ネスかも言う。
「あまり食べないほうがいいと思うよ・・・」
「そうなのですか?食用スライムは美味しいですぞ。今日はお二人の為にご用意しているのですが・・・」
ハイドンの熱意に水を差したくなかったので、仕方なくネスカと二人で食べることにした。ルルとロロは、「お付きの私たちが一緒に食べるなんて、おそれ多いニャ」と言っていたが、これが缶詰であれば、私よりも先に食べただろう。
肝心の味は、あっさりして美味しかった。かなりコシがあって、冷麺に似た触感で、雑味がなく、スッキリとした味わいだった。工夫すれば、もっと美味しく作れる。このとき、ふと「料理人」のお母様がいればとしんみりしてしまう。
そんなとき、ライアンさんがやって来た。
「ハイドンの旦那!!戻ったぞ。今日も大量だ」
「いつもすまんな、ライアン殿。貴殿はスライムハンターとして、人族の世界でも名を成しただろうな。俺はスライムを見付けるのは苦手だからな」
「スライムハンターなんて、馬鹿にされるだけだよ。でも、アンタの強さとスライムへの情熱は尊敬しているんだ。アンタにも、アンタの部下にも礼が言いたい。冒険者として復帰できた奴も大勢いるからな」
なぜか知らないが、この二人が仲良くなっている。
この後、ライアンさんを交えて、食後に雑談をしていた。何の気なしにハイドンに尋ねた。
「ハイドン所長、本当に感心しました。ところで、どうやってスライムの効能を見付けたんですか?」
「それはだな・・・」
ハイドンの語った内容は衝撃的だった。報告書の報酬をもらうために色々と実験していたという。
「・・・悪いことはできんもんでな。魔石を横流ししようとしていたんだ・・・魔王様には正直に言って、腹を切ると言ったのだが、功績は素晴らしいから、「心を入れ替えて、新天地で頑張れ」と言われてここにいるのだ。スライムに感謝してもしきれん」
お金に困っていたなら、もっとやり方があっただろうに。スライムの討伐に向かう途中に討伐した魔物の魔石や素材を売るとか・・・こういうところはハイドンらしいけどね。それにハイドンのお陰でスライム研究が100年進んだと言われているしね。
なので、「スライムに感謝している割には、切り刻んで、実験してますけど!!」とツッコミを入れることは止めておいた。
「それにしてもライアンさんは、スライムを捕獲するのが上手いですね。私も冒険者をしたり、ギルドの臨時職員だったこともあり、ライアンさんの凄さは分かりますよ」
「そう言ってくれるとありがたいな。俺は「導き手」という人を指導するのに向いたジョブ持ちなんで、よく新人の世話をさせられたんだ。だから、ドブ掃除やスライムの駆除は人一倍やったな・・・」
ライアンさんはしみじみと語る。
「いろんな若い奴を指導したんだ。多分、今はみんな俺より強くなっているだろうけどな。特に印象に残っているのは、貴族の少女と獣人の少年だな。最初は反発して、なんで「私がドブ掃除なんて・・・」と言って少女は泣き出すし、獣人の少年は「俺がやるような仕事じゃない」って文句ばっかり言っていたな。それを殴って言うことを聞かせて・・・最終的には町の人に感謝されて、大喜びしてたけどな。
俺がこっちに来るときも、二人して『先生行かないで!!』って言って、抱き着いてきたな。俺も若かったから、『そんなお前たちを守るために俺は行くんだ』って臭いこと言っちゃってさ。
今思うと恥ずかしい。だって、こっちに来てやっていることは、スライムの捕獲だからな・・・あの二人に「カッコつけて、スライムを捕獲しに行ったんですか?」て言われるだろうよ」
「そんなことはないですよ。その少女たちもライアンさんには感謝してると思いますし、心配していると思います。私もルータス王国に帰還できたら、ギルドの記録で確認してみます」
「クララ大臣ありがとう。そういえば、アイツらなんて言ったかな・・・生徒が多くて名前が出てこないんだが・・・あっ!!思い出した!!」
ライアンさんは言った。
「泣き虫レベッカと皮肉屋のガルフだ!!」
私とネスカは、顔を見合わせた。
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