79 クララの町づくり
私たちが、開発予定の町は、王都から竜車で2日の距離にあった。新型のホバークラフトであれば、1日で行けるんだけど、物資も多いから、竜車も組み込んだのだった。着いてみて驚いた。私が捕虜になったときに訪れた駐屯地だった。
ネスカが言う。
「少し歴史の話をする。歴史書によると、初代魔王のブライトン王はこの地まで、やって来て、街道を整備した。しかし、街道を延ばした先で、人族と争いになってしまった。平和的な解決が難しいと判断し、街道を放棄したそうだ。その後、何代か後の魔王が、この地に人族の監視のために駐屯地を設置することにした経緯がある」
「そうなのね・・・だったら過去に何度か戦争になったことがあるの?」
「ないよ。ただの一度もね」
これはおかしい。私たちは、何度も魔族と領土を巡って戦争を繰り返していると習っていたからね。ネスカに疑問をぶつける。
「そういうことを含めて、クララに会ってもらいたい人がいるんだ」
しばらくして、ネスカが一組の夫婦を連れて来た。二人とも30代半ばに見える。夫がライアンさん、妻がスラールさんで、ライアンさんが元冒険者、スラールさんはロイター王国の元騎士だという。
「クララ大臣だね。ネスカ王子から聞いているよ。これでも俺はルータス王国の冒険者だったんだ。話せば少し長くなるんだけどな。話は10年ほど前に遡る。当時、ロイター王国から大規模な魔族の侵攻があり、条約に従って応援部隊を派遣してほしいとルータス王国に要請があった。大規模な魔族の侵攻だから、冒険者も徴兵されることになった。その中に俺もいた」
あれ?これって、私がレベッカさんにプレゼンし、ロイター王国と魔族のいざこざを防いだ事件の5年前の事件じゃないのか?
「当時のことはよく覚えているよ。何というか、使命感に燃えていた感じかな。20歳そこそこだったからな。それにBランクに昇格したばかりで、血気盛んだった。支援物資や装備品がかなり値上がりしていたけど、仲間からカンパをもらって、なんとか装備を集めたよ」
やはり私の分析どおり、物資が高騰していたんだね・・・
「そして、ロイター王国の冒険者と合流し、冒険者の連合部隊を結成し、魔族領に乗り込むことになった。そのとき、冒険者部隊の案内役をしてくれていたのが、妻のスラールだ。スラールの案内で魔族領に来てびっくりしたよ。魔族なんていやしなかった。代わりに大量の魔物がいた。それも恐ろしく強い魔物ばかりな。
必死で戦った。だが、Bランクの俺でも防戦一方だった。それにここまで大量の魔物との戦闘なんて経験がなく、おまけに寄せ集めの集団で、部隊として成り立っていなかったこともあり、すぐに戦線は崩壊した。もう駄目だと思ったところ、魔王軍が来て、魔物を鎮圧してくれて、俺たち冒険者は保護されたんだ」
私はライアンさんに尋ねた。
「以前私は、ライアンさんが参加された戦争の資料を分析したことがあります。ルータス王国の公式発表では、冒険者の8割が死亡、残りの冒険者も行方不明となっていました。その発表自体が嘘であると?そういうことですか?」
ライアンさんが答えにくそうに言う。
すると、スラールさんが話を引き継いだ。
「ここからは私が話すわ。私はロイター王国の騎士爵家の娘で、冒険者部隊の案内役として冒険者部隊に帯同したの。使命感に駆られたわけではなく、回復魔法が多少使えるから選ばれただけなのよ。案内役は、私と伯爵家の令息、その従者の三人だったわ。大量の魔物の攻撃を受けたときに、伯爵家の令息は真っ先に逃げ出そうとしたの。けど私や周りの冒険者が逃がしはしなかった。私はその令息に怒鳴ったわ。『ロイター王国のために来てくれた冒険者をおいて、逃げるとは何事なの!!恥を知りなさい!!』てね。そうするとその令息は驚くことを言ったわ。『冒険者を嵌めるだけの、簡単な仕事だと聞いて、この任務を受けたのに、全くツイてない』ってね」
そこで、一旦スラールさんは話を切った。
「私だけでなく、みんなが死を覚悟したんだけど、魔王軍が来て、魔物を蹴散らして、私たちは保護された。当然、魔族たちと話が噛み合わない。助けに来てくれた虎人族の部隊長に話を聞いたら『魔物が大量に発生したから討伐に来ただけだ。俺たちが撃ち漏らした魔物がそっちに行って悪かったな』と言ってきたの。それでおかしいという話になって、伯爵家の令息を締め上げることにしたの。そうしたら・・・」
スラールさんの語った内容は、衝撃的だった。
ロイター王国はルータス王国や小国家群の各国から支援金をせしめるために、何年かに一度、大規模な魔族の襲撃事件を自作自演していたのだ。ロイター王国から東に進めば、強力な魔物が大量に出没する地点が現れる。この地点を利用して、生贄部隊を作り、大きな被害を出させる。それにより、また各国から多くの支援金をせしめることができる。
この生贄部隊は、あるときから冒険者が使われるようになる。まあ、他国の騎士団を生贄にするよりは、冒険者のほうが後腐れないし、冒険者が大量に死亡したとしても「冒険者はそういう仕事だから、自己責任だしね」という感じなのだろう。
最初の頃は国内の冒険者だけでやりくりしていたのだが、そのうち募集しても数が足りなくなり、他国からも冒険者を集めることにしたという。
「本当に腐ってますね・・・7年前にも同じようなことを画策してましたが、失敗しましたよ」
7年前のことを思い出すと、ロイター王国のやり口の汚さに腹が立つ。魔族の襲撃に見せかけ、それを利用して、応援部隊をもらう国の相場を吊り上げて、大儲けし、冒険者の犠牲をネタに悲劇の物語を演出して、支援金をせしめる。国家ぐるみの詐欺をしていたのだ。自作自演だから、戦闘が始まるのも匙加減だから、相場の操作なんて簡単と思ったんだろう。
あのとき、ロイター王国の企みを防いだ当時の自分を褒めてやりたい。
「ところで、どうしてここに住まれているのですか?ルータス王国にも、ライアンさんたちのことを心配されている方がいるのではないでしょうか?」
「そうしたいんだけど、事情がある。魔族に保護された後、しばらく様子を見た方がいいという意見とすぐにでも家族の元に帰りたいという意見が出た。冒険者は基本的に自由で、自己責任だからな。最初に10人の奴が本国に帰ることにした。それでどうなったかというと・・・みんな帰る途中で死んだよ」
「それは魔物によってですか?」
「違う。安全地帯に入るまで、魔王軍が護衛してくれた。そのときの部隊長が言うには、その10名は、ロイター王国の拠点で保護を求めたという。それを斥候部隊が確認したから、安心して魔王軍は引き上げたみたいだけど。1年後、そいつらの動向を調べてもらったら、戦死扱いにされていた。このことが公に出たら、大変なことになるから、消されたんだろう。だから、帰るに帰れないんだよ。帰りたいけどな・・・」
本当に酷い、酷すぎる。
「私もね。多分、消される予定だったんだろうね。従軍が決まる半年前に評判の悪い伯爵様との縁談を断っているから、その腹いせだろうね。まあ、もうどうでもいいけどね。今はそれなりに幸せだし・・・」
ネスカが言う。
「ライアンさんやスラールさんの話を聞いて、僕はルータス王国への留学を決めたんだ。ロイター王国は信用ならないからね。それから、諜報部隊を発足させ、その大半をこの駐屯地に集めていたんだ。流石に10年以上経つとすぐに気付かれないから、冒険者たちにも協力してもらっていたんだ」
「話は大体分かったわ。それで、なぜこの駐屯地の開発を進めるの?」
「ちょっと事情が変わってね。どうも、無理やり攻め入ろうという話が、神聖ラドリア帝国で出ているようなんだ。その対策でね」
一体、人族は何を考えているんだ!!
と人族ながら思ってしまった。
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