71 森の危機
私たちの快進撃は続いた。
緊急通報は月に大体10回はある。先月は12回あり、その内7回で討伐任務を完遂させた。4回は、第二軍団が、残りの1回は第一軍団が討伐任務に当たったのだが、第一軍団は後処理を全くしないので、私たちが、応援に駆け付ける羽目になった。
この成績なので、当然月間優秀軍団は第三軍団になる。オルガ団長の目指した第一軍団と第二軍団よりも強い部隊という目標はここに達成されたのだ。まあ、直接戦ってないんだけどね。
そんな感じなので、上機嫌のオルガ団長と私、チャックさんは月1回の定例会に出席していた。私は魔王軍全体の参謀長として、チャックさんはオルガ団長の補佐としてだ。早速、オルガ団長が魔王様から表彰を受ける。
これで面白くないのが、実質的な第一軍団のまとめ役であるハイドンというオーガ族の部隊長だ。このハイドンはオルガ団長に告白して振られた経緯があり、それ以後、何かに付けて嫌がらせをしてくるそうだ。ネスカ並みのクズだ。
そのハイドンが定期報告の後に文句を言い始めた。
「魔王様は、オルガのいる第三軍団ばかり贔屓にしているんじゃないでしょうね?」
「それはありません。予算も均等に分けています」
「それなら、なんでこんなに差がつくんですか?絶対に卑怯なことをしていますよ」
この男は、第三軍団の運動会で、オルガ団長に「イカサマだ」と難癖を付けていたけど、今回もその調子だ。自分が無能だからとは思わないのか?それに厚かましい。
「そうだ、やっぱり第一軍団に常駐の軍団長がいないのが原因ですよ。俺に軍団長をさせてくださいよ」
これには隣に座っていた獅子族の部隊長が異論を唱え、意味不明な罵り合いが続いた。
ハイドンは初代魔王の血を引く者で、王位継承権もある。だから、我儘を言う親戚の子みたいな感覚の魔王様は、ハイドンにあまり強く言わないらしい。
それを知っているスターシア軍団長が提案をする。
「ハイドンもオルガ姉さんがどんなことをしてるか、興味があるんでしょ?だったら、みんなで見に行かない?せっかくだから母さん・・・じゃなかった魔王様もどうですか?」
「そうですね。私も気になります。部隊長で希望者は次の出動に同行しましょう」
結局、部隊長は全員参加することになった。
★★★
そこから3日は地獄のような日々だった。
だって魔王様とスターシア軍団長、それに各部隊長が第三軍団の待機室に勢ぞろいしているからだ。私はこれでも一応は参謀長で、隊長クラスの身分なんだけど、なぜか私が、お茶出しや食事の世話をしている。というのも、当初は本部員にお願いをしたのだが、魔王軍最強クラスの猛者たちのオーラに当てられ、軒並み体調不良を起こしてしまったからだ。
それに第一軍団は部隊長間の仲が悪く、ちょっとしたことで喧嘩になる。それこそ、ご飯の量が多いとか少ないとかでだ。その喧嘩を止めるものはおらず、魔王様は子供たちの喧嘩を微笑ましく見るような感じで、スターシア軍団長を筆頭とした第二軍団の部隊長は、ドシアナと魔道具や魔方陣談義に花を咲かせていて、全く我関せずの姿勢だ。
結局いつも、私が仲裁に入り、なぜか平謝り。そして「本当に第三軍団はなっとらん!!」と喧嘩していた部隊長から叱られて終わるという、ストレスで胃に穴が開きそうな状況なのだ。だから、不謹慎にも「早く緊急通報が来ないかな・・・」と、被害を受ける住民を無視するような気持ちにもなっていた。それにネスカは、一向に待機室に来ない。腹が立って廊下ですれ違ったネスカに文句を付ける。
「ネスカ!!なんで待機室の手伝いをしてくれないの!!待機室は最悪の状態よ!!」
「だからだよ。こっちだって、輸送計画を練っていたんだよ。クララも分かるだろ?誰と誰が仲が悪くて、一緒の竜車に乗せられないとか・・・その分竜車を増やしたり、資材を減らしたり・・・アイツらが喧嘩を始めたら、御者のゴブリンやコボルトたちじゃ止められないんだからさ。こっちだって、余計な仕事が増えて、いい迷惑だよ。それに僕が注意したところで、「王子がそんなに偉いのか?文句があるなら、表に出ろ」って言われるだけだし・・・」
「ごめん・・・私も余裕がなくて・・・」
「いいよ・・・」
「あっ・・・ネスカ王子、大変失礼いたしました。ご配慮感謝いたします」
「もう、遅いと思うけどね・・・」
そんなことをしていたら、駐屯地にサイレンが鳴り響き、拡声の魔道具から緊急通報が発せられる。
「緊急!!緊急!!シュバルツ森林のダークエルフ族の集落で、スライムが大量発生!!スライムの種類は多種多様!!被害状況は不明。至急訓練を中止して、出動準備せよ」
私はここにきて初めて、緊急通報に胸を躍らせた。やっとこの地獄から解放される。
「ネスカ、さっさと片付けて、アイツらにギャフンと言わせてあげようよ!!スライムなんて一捻りだよね」
しかし、ネスカの表情は硬かったし、若干青ざめている。
「クララ、これは不味いよ。詳しくは軍議で話すから、とにかく急いで!!」
ネスカに手を引かれ、待機室に向かう。団長室から、オルガ団長がチャックさんに「装備も資機材も出し惜しみするな!!」と指示しながら、走って来た。この時はなぜ最強の魔王軍が、スライムくらいで大騒ぎしているのか分からなかった。軍議でネスカの説明を聞くまでは・・・・
★★★
待機室は異様な雰囲気だった。歴戦の猛者たちも黙り込んでいる。オルガ団長が口火を切る。
「ちょっと不味いな。とりあえず第三軍団長としてスターシア軍団長に支援を要請する。受けてくれるか?」
「もちろんよ。それで私とここにいる部隊長は一旦、第二軍団駐屯地に戻って、すぐに現地に向かうわ。ダークエルフ族の希望者は連れていけるだけ連れて行くからね」
ネスカが割って入る。
「それでは、第三軍団の斥候部隊も同行してさせてください。竜車を1車・・・いや2車貸与します」
「1車でいいわよ。こっちも新型の竜車を配備しているからね」
スターシア軍団長とその配下の部隊長は、魔王様に一礼をして、出発した。
オルガ団長が言う。
「ネスカ、お前の見立てを聞かせろ」
「分かりました。かなり不味い状況だと推測します。戦闘能力の高いダークエルフ族が、救援を求めている状況から、敵戦力は相当なものだと判断できます。それに多種多様なスライムの大量発生となると・・・」
魔王様が言う。
「スライムデザスター。つまり災害級案件であり、ここからは私が指揮をします」
災害級案件?スライムで?
ダークエルフ族が手に負えないくらいだから、そうなのかもしれないけど・・・
「まず、第三軍団はこのまま出動。第一軍団はすぐに駐屯地に戻り、出動準備を。全軍がそちらに行ってしまうと、他の事案に対応できませんから、その辺はハイドンに任せます」
「分かりました。俺はこれより第一軍団代理として、指揮します。では俺はこれで失礼します。第二軍団に支援をもらって鎮圧しても、第三軍団の実力ではないし、視察しても意味がありませんからね」
そう言うとハイドンは待機室を出て行った。
この状況でも嫌味を忘れないハイドンはある意味、大物だと思った。
ここで、獅子族、虎人族、リザードマンの部隊長が立ち上がる。代表して獅子族の部隊長が魔王様に進言する。
「俺たちは三人は、オルガ団長の指揮下に入ります。一兵卒として最前線で使ってください」
「認めます。それではすぐに出発です。細かい指揮はオルガに任せます。最悪の場合は、やりたくはありませんが、私が何とかしましょう」
そうして、私たちは出発した。
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