70 初陣 2
そしてとうとう私たちが初めてとなる緊急出動を経験する。
駐屯地にサイレンが鳴り響き、拡声の魔道具から緊急通報が発せられる。
「緊急!!緊急!!ルセン山のゴブリン族第三居住区でグレートコングの群れが大量発生!!被害状況は不明。至急訓練を中止して、出動準備せよ」
オルガ団長が吠える。
「とうとう来たぞ!!出動だ!!」
「「「オオオオオー!!」」」
通信の魔道具で、出動を報告する。
「第三軍団から軍団本部!!先ほどの緊急通報、傍受了解!!これより出動する!!」
軍団本部の通信兵は、慌てた様子で通話してくる。
「ちょ、ちょっと待ってください!!第三軍団だけで、ですか?」
「そのとおりです!!」
「それはその・・・少し上官に聞いてく来るので・・・」
私は通話を遮り、言い放った。
「ネスカ戦略顧問の承認はもらっています!!それにもう出動してますから。以上!!」
すぐに通話を打ち切る。
ここまで私たちが素早く出動できるのも訳がある。必要物資を予め竜車に積み込んでいるからだ。毎朝点検し、いつでも出動できる準備を整えている。これは魔王軍全体に言えることだが、魔王様やネスカ、スターシア軍団長が駐屯地に居るときはいいが、居ないときは部隊間で、どの部隊が出動するかで、もめることもあり、それから準備しての出動になるので、酷いときは緊急通報から2時間後の出発になってしまうこともある。
住民にしたら、「2時間も無駄にしやがって!!」と思うだろう。なので、その点を改善したのが第三軍団なのだ。
そして、出発から2時間で目的地であるゴブリン第三居住区に到着した。余談だが、どういう理由かは不明だが、王都ブリッド周辺に変異種は多く出現するようだ。なので、王都に魔王軍を集中させている事情がある。
到着して、驚いた。意外に戦線が維持できている。というのも、偶々新婚旅行に来ていた、魔王軍に所属するオーガ族とダークエルフ族のカップルとその家族11人が、住民の避難誘導や遅滞戦闘をして、凌いでくれていたのだ。
オーガ族の男性が私たちに向かって走って来て、オルガ団長に申告する。
「第一軍団所属のウドルであります。自分と第二軍団所属の妻、並びに我らの家族11名で応戦中。住民の避難は終えており、敵戦力はサル型魔物のグレートコング約30、変異種は1体を確認したであります」
「良く持ちこたえたぞ、ウドル!!すぐに第三軍団の指揮下に入れ」
「了解であります!!」
すぐにオルガ団長は指揮をする。
「ネスカ!!作戦を考えてくれ。運よくオーガ6とダークエルフ5の戦力がある。戦略顧問なんだろ?」
「もちろんだよ、オルガ姉さん。幸運な余剰戦力を最大限使うよ」
「では指揮をネスカに委譲する。アタイは前線に出るよ。クララ参謀長は通信兵としてネスカ付きとし、チャック以下本部員はネスカの指揮下に入れ」
オルガ団長はネスカの指示を受けて、オーガ族の家族と合流し、臨時の突撃部隊を編成した。殲滅狙撃隊とダークエルフの家族が遠距離攻撃で足止めしている間にネスカが軍団員に指示をする。
流石はネスカだと感心する作戦だった。
「オルガ団長はオーガ部隊で突撃隊として運用する。今回、一番危険なのは、斥候部隊だ。上手く釣り出せば、いつも通り、殲滅狙撃隊で壊滅できる。安心しろ!!」
戦闘が始まる。
グレートコングは、それなりに知能が高く、投石攻撃もしてくるので迂闊に近付けない。それに自分たちに有利な森の中で戦闘をしたがる傾向にある。なので、ダークエルフの弓と魔法、グレートコングの投石攻撃で膠着状態が続いていたのだ。私たちにとってみれば運が良かったと思う。
ネスカが作戦を指示すると、一旦遠距離攻撃は中止して、斥候部隊が向かって行く。斥候部隊は素早いハーフリングとコボルト族で構成されているので、投石が当たることはない。例え当たったとしても、致命傷になることもまずない。斥候部隊はボウガンやスリングショットでグレートコングの群れを挑発する。こちらも致命傷は与えられていないが、それでもそれなりにダメージは入っている。
しばらくして、痺れを切らしたグレートコングが10体ほど、突進してきた。
すると斥候部隊は一斉に退却する、それも絶妙な距離で。興奮したグレートコング10体が突進したことで、追従する個体も現れ始め、頃合いを見て罠を発動させた。丁度その頃にオルガ団長から報告が入る。
「変異種を討ち取ったぞ!!」
それを受けて、ネスカが指示をする。
「殲滅狙撃隊攻撃開始!!突撃部隊がいるから森には撃つなよ!!」
後はいつも通りの作業だった。森から出て来て、変異種がいなくなった今、グレートコングは普通のCランクの魔物でしかない。殲滅狙撃隊は余裕があると見て、ビッグチャクラムでどんどんとクビを刈り取っていき、ダークエルフが弓と魔法であっという間に殲滅した。
しばらくして、ネスカが私に目で合図を送って来た。私は通信の魔道具で通話を開始する。
「戦闘終了!!総員待機体制を取れ。オルガ団長、確認作業をお願いします」
「もう終わったのか・・・」
オルガ団長に率いられたオーガ族の突撃部隊が確認作業を行う。念入りに確認作業を行った後にオルガ団長は勝鬨を上げ、団員が歓声で答える。
「今回もアタイたちの勝利だ!!」
「「「オオオオオー!!」」」
斥候部隊を囮にして、守りの薄くなった変異種をこちらの最強戦力で一気に叩く。後はいつもの行程で殲滅。ネスカらしい、悪辣で嫌らしい作戦に素直に感心した。まだ、許してないけど。
★★★
戦後処理だが、全く居住区に被害がなかったので、居住区に住むゴブリンたちが住民総出で手伝ってくれたので、すぐに終了した。この居住区で私たちは英雄の如き扱いを受け、この居住区出身のゴブリン団員たちは、胴上げまでされていた。
そして、私たちが到着するまで、的確な対処をしてくれたオーガ族とダークエルフ族の家族には、王子と王女が授与できる最高勲章である第一級アイズン勲章が授与されることになった。
その場で、授与式が行われる。
「第一軍団所属ウドル団員以下11名に対し、王女オルガ・ブライトンの名において、第一級アイズン勲章を授与する。副賞として、今回素材として採取した魔石の半分を授与する」
周囲から大歓声が起こる。勲章よりも副賞が凄い。豪邸が建つくらいの金額だ。続いて、ゴブリン居住区の代表者から名誉市民賞を授与された。こちらの副賞はこの滞在期間中の宿泊代、飲食代すべて無料というものだった。討伐したグレートコングの素材の3分の1はこの居住区に寄付されるし、被害もゼロだからこれくらいしても罰は当たらないと思ったらしい。
この居住区は温泉が有名で、私たちも無料で入らせてもらった。その後、宴も開催された。私たちが楽しんでいるところにオーガ族と虎人族の部隊が到着し、目を丸くしていた。
そんな彼らにオルガ団長は言い放つ。
「今頃来たのかい?せっかくだから、一緒に飲んで行くか?」
後日談だが、ここまで到着が遅れたのは、出動する部隊をどこにするかでもめたらしい。グレートコングであれば、力業で押し切る作戦が有効なのだが、第一軍団は近接戦がめっぽう強い部隊が揃っていて、武功を立てるチャンスでもあるので、喧嘩にまで発展したそうだ。
呆れて物も言えない。
今回の件で、第三軍団だけでなく、魔王軍全体が大きな問題を抱えていることに気付かされた。
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