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【祝!300万PV】転生した底辺OLが、雑用スキルで異世界を無双する話  作者: 楊楊
第四章 就職

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68 初勝利

 ドシアナは天才だった。

 オルガ団長に気合いを入れられ、態度もマシにはなり、仕事にも真面目に取り組むようになったのだが、瞬く間にロキ以上の性能のボウガンやスリングショットを作成してしまった。その中には連射式のボウガンもあり、誰もがその能力に驚かされた。やっぱり目の前に実物があると違うようだ。産業スパイがなくならないわけだね。


 そして、ボウガンやスリングショットを装備したハーフリング、コボルト族を中心とする斥候部隊が誕生し、ネスカの訓練を受けることになった。ネスカは職場研修では斥候部隊の研修を受けており、基本的なことを中心に指導していた。ネスカが言うには、かなり実力が上がっているらしい。どちらも隠れるのが上手いし、素早い。それにコボルト族は鼻が利くから、索敵能力はルータス王国や神聖ラドリア帝国の部隊をも凌駕するらしい。

 また、ゴブリン族は総じて手先が器用で、罠の設置はもちろん、自分たちで罠を自作できるようになっていた。そのほかにも簡単な小屋くらいならすぐに作れてしまうので、工兵としての運用を検討中である。


 ここまで見ても、優秀な部隊だが圧倒的に火力が足りない。結局はオルガ団長頼みになってしまう。彼らが冒険者ならば、B~Cランク程度の実力は既にあるのだが、魔王軍に求められているのは、それ以上の戦闘力だ。

 しかし、その火力を補う人材がいたのだ。それは一つ目巨人族一家だ。先端を尖らせた丸太を投げつけるだけで、ちょっとした城壁ぐらいなら粉砕してしまう。まるでミサイルだった。

 その家族だが、一応ジョブ鑑定をしてみた。一つ目巨人族はほぼ同じジョブが現れるらしく、次男以外は「剛力」というその名のとおりのジョブ持ちだった。しかし次男のロプス君は違い「狙撃手スナイパー」という、一撃必殺の弓兵タイプのジョブ持ちだった。ロプス君は身長が3メートル以上あるのだが、まだ少年と言える年齢らしく、「やったあ!!凄くカッコいい!!」と大喜びしていた。


 しかし、残念なことにロプス君が使える弓がなかったのだ。強弓と呼ばれる弓をダークエルフ部隊から何本も貰ったのだが、すべてへし折ってしまった。流石のドシアナも匙を投げる。


「アダマンタイトとかオリハルコンくらいじゃないと無理ッス。流石に弓1本のためには買ってくれないッス」


 ほう・・・コスト計算ができるようになったとは、ドシアナも成長したね。


 それは置いておいて、落ち込んでしまったロプス君はゴブリンたちとボウガンを撃って、お茶を濁していた。その図体でボウガンを撃っても意味はないだろ?隠れながら、ちまちま攻撃する武器を貴方が使ってどうするのか?という疑問もあったが、まだ子供なので大目に見ることになった。まあ、実戦になれば、その辺の石でも投げてもらおう。


 あれ?なんでボウガンは壊れないんだ?


 気になってロプス君に尋ねる。


「壊れないように気を付けて、弦を引いてるんだよ。こんな感じで、指でパチンってしてね」


 ゴブリンたちが一生懸命に全身を使って弦を弾いているのに・・・・

 だったら、いけるんじゃないか!!


 すぐにドシアナを呼び出して、私のアイデアを説明する。


「だったら、今ある素材で最高強度のボウガンを作るッス!!それにロプス君が使いやすいように大きくするッス。じゃあ、これから早速、作業に取り掛かるッス」


 次の日には試作品が完成していた。

 ロプス君に「大切に壊さないように使ってね」と言って、実際に使ってもらった。

 物凄い威力だった。もはやボウガンではなかった。バリスタと呼ばれる兵器だ。それをロプス君が持つと移動式のバリスタだな。


 この兵器は後にドシアナ式バリスタと呼ばれ、魔王軍の各軍団で標準装備されるようになる。でも、そのバリスタを手で持って使うのは第三軍団くらいだったけどね。まあ、敵からしたら悪夢だろうな。一つ目巨人族一家を部隊として見れば、ミサイルのような投擲攻撃を繰り出す三人と正確無比なスナイパー、私なら絶対に戦いたくない。


 数々の武器や装備を作り出したドシアナだが、彼女も徐々に変わっていった。元々第三軍団は何か問題がある者の寄せ集めだったので、多少、性格に問題があるドシアナを受け入れる土壌はあったのだが、彼女の一生懸命な姿勢が、団員たちの信頼を勝ち得ていた。

 今日も団員からお礼を言われている。


「お嬢、新しく作ってくれたボウガンはよかったぞ」

「ドシアナさんの罠や武器のお陰で、僕たち斥候部隊は成り立ってます。ありがとうございます」

「ちょっとした要望でも、改良してくれてありがとう」


 私はドシアナに話し掛けた。


「ドシアナ、よかったね。みんなが喜んでくれて」


「こんなに自分が作った物を喜んでくれるのは子供の時以来ッス。大切なことが少し分かったッス。先代の工房長で私の師匠がいつも『武器や防具は、使ってくれる人のことを常に考えて作れ』って言ってたッス。こういうことだったんスね」


「そうよ。職人だけじゃなく私たち全員がね。魔王軍は住民を守るためにあるから、住民のことを考えて行動しないとね。だから、強ければいいというものでもないわよ」


「そうッスね。コンテストで賞を取るためだけに武器を作っていた私は、本当に恥ずかしいッス」


「大丈夫よ。これから、みんなで一緒に変わっていけばいいんだからね」


 ★★★


 心を入れ替えたドシアナだったが、世界初の魔道具を生み出すことになる。


 ドシアナと雑談をしていたとき、「本部員用の装備も作りたいッス」と言ってきた。恥ずかしい話、「雑用係」である私は、あろうことか裏方の彼らのことを忘れていた。私はすぐにドシアナと一緒に本部員にリサーチを行った。

 チャックさんが言う。


「難しい話だと思いますが、クララ参謀長の「転写」のスキルみたいな魔道具は欲しいですね。まあ、荒唐無稽な話ですから忘れてください」


「ドシアナ、できそう?」


「やってみるッス」


 それから3日、ドシアナは作業場から出て来なくなった。心配になって覗いてみる。案の上、机に突っ伏して爆睡していた。ドシアナを起こして、話を聞く。


「もうちょっとなんスよ。クララ参謀長のアイデアは素晴らしいんスけど、最後の魔方陣の刻印が上手くいかないッス。こういうときは魔方陣が得意な魔導士に応援を頼むか、図書館で色々な魔方陣を見て、イメージを膨らませるんスけど・・・ここにはないし・・・」


「そうね、流石に私も魔方陣は・・・・あるわ!!」


 職場研修の地獄の体験がフラッシュバックする。あの時、私は意味不明な魔方陣を大量に「転写」させられていた。その時の魔方陣が「長期保存」のスキルの中にまだあるはずだ。私は、一気に「転写」で魔方陣をメモ用紙に写し出していく。

 魔方陣を見たドシアナは叫ぶ。


「凄いッス!!これくらいサンプルがあれば、何とかなりそうッス。それにちょっと組み合わせたら、もっと凄い物ができそうッス。でも、まずはチャックさんたちの為に転写機を作らないと・・・」


 その3日後、ドシアナは世界で初となる転写機を開発した。これは「ドシアナ式転写機」と名付けられ、魔王軍だけでなく、文官や商人にも幅広く普及することになる。また、何をどう応用したのか分からないが、私が言った思い付きから「ドシアナ式計算機」も誕生したのであった。

 ドシアナは涙ぐんで言う。


「これでやっと私もロキ殿と肩を並べることができるッス」


 ドシアナが言うには、ロキをこき下ろしていたのは、嫉妬からだという。本当は尊敬し、ライバルと思っていたらしい。弟を褒められると私も嬉しい。もしドシアナとロキが出会えたら、仲良くなれると思う。絶対に会わせてあげたいけどね。


「クララ参謀長にも感謝ッスけど、この魔方陣を作った方にも感謝ッス。この魔法陣はどれも美しく、まさに天才、いえ、神の技ッス。多分、このお方は、美しく華麗で、情熱的で、それでいて発想豊かで・・・素晴らしい人格者だと思うッス!!是非会いたいッス」


 こちらは絶対に会わせたくはない。



 短期間で数々の新装備や魔道具を生み出した私たち第三軍団は、魔王様の知るところになり、開発成績優秀として第三軍団が表彰され、ドシアナが個人賞を受賞した。「ドシアナ式転写機」と「ドシアナ式計算機」については、すでに生産ラインも確立され、売り上げの10パーセントが印税として第三軍団に入ってくることになった。ドシアナに「自分がもらわなくてもいいの?」と聞くと、「また新しい物を作ればいいッス」と言っていた。後年、本当にすごい物を開発してしまうのだが、それはまた別の話だ。


 この受賞を受けて、オルガ団長は大喜びだ。


「これは我が軍の初勝利と言っていい!!飲むぞ!!印税が入ったから打ち上げだ!!」


 これは、魔王様から注意され、会費を払って宴会することになった。

 チャックさんが言う。


「対戦相手がいないので、不戦勝で勝ちということにしましたよ。これで、こっちのもんですよ」


 チャックさんも逞しい。


 これも映画っぽい展開だな。流行りの追放物かもしれない。映画にするならタイトルはこうだ。


「もしもドワーフの天才職人が、追放されて魔王軍の工兵になったら」

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― 新着の感想 ―
略して 「もしドワ」 ですね
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