64 参謀長クララ 3
とりあえず、オルガ軍団長を通じて、魔王様に第一軍団と第二軍団の訓練視察をさせてほしいと要望を出した。すぐにこの視察は受け入れられた。オルガ軍団長も乗り気だ。
「そうか、ライバルを見てやる気を出させるんだな。おい、お前たち、しっかり見ろよ!!」
私と一緒に視察に来たのは、ハーフリングのチャックさんを筆頭とした第三軍団の本部員たちだ。中でもチャックさんは優秀で、崩壊しかけの第三軍団を何とか陰で支えている。ハーフリングなので、少年ぽい顔立ちで、身長も小学校高学年くらいしかないのだが、結構なお年らしい。
この視察には魔王様、それとなぜかネスカも来ていた。
「ネスカ王子、どうしてこちらへ?」
「僕は魔王軍の戦略顧問でもあってね。魔王軍のイベントに出るのは当然さ」
因みにこのネスカの本当のジョブは「智将」だった。だから統率力もあり、戦術眼にも長けていたのだと納得する。まあ、嘘吐きだけどね。
最初に見たのは第一軍団だ。かなりの迫力だった。誰もが一騎当千の実力者で、冒険者ランクでいうと、ほとんどがAランクだろう。ネスカが解説してくれる。全然許してないし、大嫌いだが、解説は的確だった。
「第一軍団は基本的に種族ごとで、部隊を構成している。訓練はそれぞれの部隊長に基本的には任せている。どの種族も戦闘は好きだから、勝手に訓練するしね」
そんな解説中にオルガ団長は、「もう我慢できん。アタイも訓練に参加してくる!!」と言って、訓練に参加してしまった。軍団長自ら、視察の意味を理解していない。チャックさんや本部員は盛大なため息を吐く。
「いつもあんな感じです。魔物の討伐訓練でも、最後は自分一人で討伐するので、訓練になりませんよ」
見た感じ第一軍団は近接戦闘が得意な部隊が多そうだった。
続いて、第二軍団の視察だが、こちらも凄かった。特大魔法を撃ち込んだり、正確に弓で的を射抜いたり・・・エスカトーレ様やレニーナ様がいっぱいいる感じだ。
「第二軍団は魔導士タイプ、弓使いタイプ、魔法剣士タイプで編成している。運用としては少人数で活動したり、第一軍団の補助で臨時の部隊員として作戦に参加したりする。大規模な魔物討伐なんかは、第一軍団と第二軍団で特別チームを編成してやりくりしているんだ」
ここまで、視察をして疑問に思うことがある。こんな戦力があり、これに種族ごとの部隊があるのに第三軍団は必要なのだろうか?一体、何と戦うつもりなのだろうか?
私は疑問をオブラートに包んで聞いた。
「ところで、魔王軍は人手不足と伺いましたが、なぜでしょうか?第一軍団も第二軍団も人族の冒険者選抜や騎士団の精鋭部隊のような戦力で、国土の防衛だけを考えれば、十分だと思います。他国に攻め入ろうとするのなら、流石に私も協力はできませんよ」
これにネスカは、魔王様を見て、判断を委ねるような仕草をした。
魔王様が言う。
「それは私が説明します。一言で言えば魔物です。魔族領は強力な魔物で溢れかえっているのです。実際に見てもらえば分かるのですが、その辺に初級ダンジョンや中級ダンジョンのダンジョンボスクラスが普通に歩いている状況なのです。なぜ、こんなことになっているかというと我が国の歴史から話さなければなりません。魔王国ブライトンは・・・・」
魔王国ブライトンは、当時東大陸の某国の王子だったブライトン王が配下を引き連れて、この中央大陸にやって来たことから歴史は始まる。東大陸はまさに魔境といった場所らしい。東大陸には古竜種と呼ばれる知能を持った竜族や古代種と呼ばれるハイエルフ、ハイドワーフも居住し、魔物も桁外れに強く、ゴブリン族やコボルト族といった弱小種族は生きづらかったそうだ。また、種族間の交流は少なく、ハーフと呼ばれる混血児はどちらの種族の集落にいても、忌み嫌われる存在だった。
そんな状況に心を痛めたブライトン王は、王位を弟に譲り、腹心で後に妻となるヤスダとともに弱小種族やハーフたち、ブライトン王を慕う多くの配下を引き連れて、東大陸から中央大陸にやって来た。入植当初は順調で、瞬く間に発展していく。それに伴って多くのハーフや弱小種族以外の魔族もやって来た。当初は村だった物が町になり、国になった。
そうなると今度は元々中央大陸に住んでいた人族と領土を巡って諍いが起こる。平和的な解決を試みたがあまり上手くいかない。魔族の中にも戦争を主張する者も多くいたそうだ。しかし、ブライトン王は、こう言った。
「人族と共存することが理想だが、できないならば、相手を殲滅するのではなく、住処を分けよう。東大陸でもそうだったようにな。私に考えがある。東大陸にいる同志に頼むことにする」
ブライトン王子が考えた策略は、東大陸から強力な魔物を呼び寄せ、国境沿いを中心に配置して、人族が物理的に入ってこないようにすることだった。ブライトン王は東大陸でも慕われており、多くの者が協力した。古竜種や古代種であるハイエルフたちも協力してくれたようで、この作戦は本当に上手くいったそうだ。
「しかし、ブライトン王とヤスダ王妃が崩御され、100年程経った頃から問題は起こり始めました。魔物が我々魔族を襲うようになったのです。襲うようになったと言っても、魔物に知能なんてありませんから、単純に増えすぎた魔物が我々の町や村にやって来たにすぎないのですが・・・・」
なんか聞いたことがあるぞ。ハブとマングースとか、そんな話だ。この世界でも同じような話があるなんてね。
「それから我々は魔物との闘いが始まりました。駆除しても駆除しても湧いて出てきます。というのも、未だに強力な魔物を律儀に送って来る輩がいるのです。本人たちは親切のつもりでしょうが、こっちは大迷惑です」
「小さな親切、大きなお世話」というやつだろう。
「夫であるチャーチルが東大陸を奔走し、何とか多くの国で魔物を持ってくるのを止めさせてくれているのですが、未だに止めてくれない方が二組ほどいるのです。チャーチルが言うには『気にしなくていいって!!ブライトンと約束しているし、気を遣わなくても』という感じらしいです。なので、チャーチルは、未だに家に帰ってこないのですけど・・・」
「その二組というのは?」
「エンシェントドラゴンの御一家とハイエルフの姉妹ですね。特にハイエルフの姉妹は、魔物の改良が趣味らしく、いつも楽しそうにに持ってきます。チャーチルが宥めスカして、何とか8年に一度になったのですがね。人族領でも、大体8年周期でスタンビートが起こったり、変異種と呼ばれる魔物が出現するのは、そのためです。クララさんも変異種と戦った経験がありますよね?」
グレートボアの変異種か・・・あの程度なら、何とかなるだろうけど・・・
だけど、スタンビートの発生周期が特定されたのなら、これは世紀の大発見だ。
「これまで話したとおり、我々はブライトン王の功績を汚すことがないように日夜、魔物討伐に奮闘しているのです。それでも、討ち漏らした魔物が人族領になだれ込んでいる状態なのです。そういった状況ですから獣人や亜人の保護のため、また国外で活動する特殊部隊に人員を割くことはできないのです。なので、クララさん、オルガは怒るかもしれませんが、第三軍団を第一軍団や第二軍団よりも強くしろとは言いません。実戦で配備できるくらいにしてくれればいいのです」
なるほど・・・責任は重大だ。
許してないけど、ネスカが無理やり私を連れて来た理由が、千分の一くらいは分かった気がした。
そんなとき、急にサイレンが鳴り響いた。拡声の魔道具から緊急通報が発せられる。
「緊急!!緊急!!レーネ川中流のフロッグ族居住区でシーサーペントが大量発生!!住民に被害が出ている模様。至急訓練を中止して、出動準備せよ」
ネスカが言う。
「シーサーペントは海の魔物だ。普通は中流まで上って来るなんてあり得ない。間違いなく変異種だ。母上、僕が行きます」
「分かったわ。クララ参謀長、視察はこれで中止です」
「魔王様、無理を言うようですが、私も同行させてください。ネスカ王子が心配だからではありません。参謀長として実戦を経験したいからです」
ネスカは嬉しそうだ。
決して、許したわけじゃないからね。
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