62 参謀長クララ
「どうして私が家族と引き離されなくちゃならないの!!何か私が悪いことでもしたの?」
私は泣き叫んだ。
ネスカが言う。しかし、私の神経を逆撫でする。
「クララは合理的で賢い人だから、それなりに好条件を示せば、喜んでくれると思っていたんだ。こんなことになるなんて、本当にごめん・・・何なら給料をアップして、いきなり大臣待遇でも・・・」
気が付いたら、ネスカをビンタしていた。
「ふざけないで!!ネスカのことは頼りにしていたし、そんな感情はまだなかったけど・・・それにしても、まずは手順があるでしょ?いつもの貴方みたいに計画的にデートに誘うとか、プレゼントを贈るとか・・・なんで、そんなにポンコツなの?ゴンザレスやダミアン王子以下よ!!出て行って!!」
ネスカは、魔王様にゲンコツを喰らっていた。
次の日、少し落ち着きを取り戻した私は、現状を把握するために魔王様とネスカから話を聞くことにする。決して許したわけではない。
「昨日は取り乱してしまってすいませんでした。ネスカのことは、もう何とも思ってませんので、気にしないでください。小難しいことや嫌らしい作戦を考えてばかりの人間には興味がありません。正々堂々としている分、ゴンザレスのほうがマシです」
ネスカは落ち込む。
「魔王としてではなく、母として謝罪します。申し訳ありませんでした」
「まあ、いいです。ネスカのことはもう友だちでもありませんから、気にしてません。まずは現在、私たちがルータス王国でどのような扱いになっているのか、国としてどのような発表をしているかを教えてください」
説明を聞くと本当に腹立たしい。ネスカにではない。各国の要人たちにだ。
まず、私たち勇者パーティーは魔王軍に交渉を持ち掛け、交渉の席で、魔族の不意打ちに遭った。そして、私たち4人は、「勇者」であるダミアン王子や「聖女」アイリーンを逃がすために、その身を犠牲にして立ち向かい殉職したというストーリーだった。近々、国葬が催されるみたいだった。
「ちょっと待ってください。私が書いた報告書や手紙は?それにゴンザレスやエスカトーレ様がいるのに・・・」
ネスカが答える。
「握り潰された可能性が高い。ダミアン王子とエスカトーレ様は入院の後にすぐ留学したそうだ。流石に口封じで消すわけにもいかないだろうし。それとゴンザレスだが、レベッカさんの元でギルド職員として働くことになった。多分、レベッカさんが監督するという条件で何らかの取引があったのだろう」
「そんな・・・」
「真実を知っているレベッカさんやゴンザレスたちが、何とかしようとしているとは思うけど、大っぴらにはできないだろう・・・」
私にできることは、今のところない。無理に帰ろうとしても、戦闘力ゼロの私では、すぐに暗殺されるのがオチだ。それでも私に今できることは・・・
「ネスカ王子、貴方の今後の戦略を教えてください」
「クララ、そんな他人行儀な言い方は・・・」
「早く答えてください」
「分かった。このまま、獣人や亜人の保護は続ける。協力者を増やし、どうにかしてルータス王国と交渉の窓口を開く。そして、正式に堂々とクララをルータス王国に帰す。それが無理なら、ご家族に密かにこちらに来てもらうことも検討している。いずれにしても現段階では、魔王軍の戦力も十分ではないことから、まずは魔王軍の戦力の底上げを考えている」
こういうところは、優秀なんだけどな・・・
「分かりました。つまり、私が参謀長になって、魔王軍の戦力の底上げをすることを求めているということですね?」
「そうだ」
「では参謀長の話はお受けします。給与などの待遇面は以前提示していただいた条件で構いません。それと、追加で条件を要望します。業務以外での、私へのネスカ王子の接触は禁止とさせていただきます。できるのであれば、ネスカ王子と勤務場所を離してください。基本的に顔も見たくありませんので・・・よろしければ、魔法を付与した契約書にしてくれると助かります」
「そ、それは酷すぎるよ。僕にも・・・・」
言い掛けたところで魔王様が答える。
「それで大丈夫よ。すぐに契約しましょう。ネスカ!!貴方の意見は聞いていないの。クララさん、心配しないで、直属の上司はオルガになるわね。オルガは貴方が配属される第三軍団の軍団長だからね。困ったことがあればオルガに言いなさい」
「ご配慮感謝します。それからネスカ王子に申し上げます。今後、貴方とは上司と部下の関係になります。それ以上でもそれ以下でもありませんので、ご了承ください。二人っきりで面会することは極力避け、なるべく書面でのやり取りで済ますように要望します」
「クララ・・・」
それから、私は魔王様と契約を取り交わした。
「契約がまとまりましたので、これよりすぐに勤務地に向かいます。魔王軍の戦力が底上げされれば、すぐに家に帰れると思って頑張りますので、ネスカ王子も私に申し訳ない気持ちが少しでもあるなら、態度で示すことをお願いいたします」
私は魔王様の従者に案内を頼んで、部屋を出た。
ネスカが言う。
「第三軍団は本当に大変なところなんだ。僕が現状を説明するよ。それで、困ったことがあれば、僕を頼るといい。これから少し話さないか?」
「ご配慮感謝しますが、今後二度とネスカ王子を頼ることはありません」
★★★
早速、第三軍団の駐屯地にやって来た。結論から言うと、早速ネスカに頼りたくなってしまった。ネスカと二人なら、それなりにやっていけるかもしれないが・・・・
否、アイツに頭を下げるなんて、死んでも嫌だ。やれることはやってやる。
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