61 魔王との謁見
ネスカは少し驚いた顔で答えた。
「30歳だけど・・・それが何か?」
30歳だって?おじさんじゃないか!!
まあ、転生前は三十路手前まで生きた私も、それを言えば、おばさんだけど・・・
「ああ、そういうことか!!魔族は概ね寿命が人族の1.5倍から3倍あるから、人族でいう15歳くらいだよ」
「まあ、いいや・・・それでこれから私たちはどうなるの?それに侍女の二人は?」
「もうすぐしたら駐屯地に着く。そこで一泊して王都ブリッドに向かい、魔王様と謁見してもらう。侍女二人は駐屯地で会わせるよ」
1時間後、駐屯地に着いた。駐屯地と言っても、柵が周囲に張り巡らされ、天幕が並んでいるだけの施設だった。
馬車から降りると猫人族の少女二人が抱き着いてきた。
「ずっとお礼が言いたかったニャ!!本当にありがとう!!」
「あのサバル缶とマグツナ缶の味は一生忘れないニャ!!」
貴方たち誰ですか?人違いでは?
私が呆気に取られているとスターシアが話始めた。
「神聖ラドリア帝国の奴らは、本当に酷いことするわ!!これを見て!!」
スターシアは二つの首輪を放り投げた。
「隷属の首輪よ。元々魔族の技術で、魔物に言うことを聞かせるのに作られた物なんだけど、それを人間に使うなんて酷すぎる!!」
「スターシア姉さん!!怒るのは分かるけど、まずは二人が誰なのか説明をしないと。クララが話についていけてないよ」
「それもそうね・・・じゃあ、最初から・・・」
スターシアの説明によるとこの猫人族の少女二人は侍女で間違いないそうだ。名前はルルとロロで、猫人族の族長の娘らしい。双子で、猫人族の保護と引き換えに奴隷となったようだ。隷属の首輪には消音の魔法も付与されていて、言葉を奪われていたそうだ。逃げ出そうと思ったこともあったが、他の猫人族が人質に取られているようなものなので、仕方なく従っていたそうだ。
「更に酷い事実を言うと、出発して3時間後に、首輪が締まる魔法が飛んできたわよ。この子たちを口封じで殺そうとしたんでしょうね」
「クソ野郎ニャ!!」
「やっぱりアイツは偽物のクズニャ!!」
ネスカが続く。
「この二人は獣人じゃないかって、ずっと思っていたんだ。クララに接触を勧めたのも、それが理由さ。そして、決定的になったのは匂いだ。ライオ兄さんとライガ兄さんがナンパのようなことをしていたけど、あれは僕に間違いなく猫人族だと知らせるための演技だ」
「そうなのかニャ・・・」
「結構、カッコいいと思ったのに・・・」
ルルとロロは少し残念そうだ。後でネスカに紹介してもらうように頼んであげようか。
「それで君たちに伝えることがまだある。君たちが奴隷となった理由である猫人族たちは、既に我が国で保護している。ルルとロロの父上である族長から、二人の救出を依頼されていたからね。だから捕虜という形で、二人の身柄を引き取ったのさ」
今度は二人がネスカに抱き着く。
「アンタにも感謝しているニャ!!」
「早くみんなに会いたいニャ!!」
「もちろんだ。王都に族長が来ているはずだから、その後は猫人族の居住区で暮らすといいよ」
ここまで見ても、ネスカが悪人とは思えない。エスカトーレ様やゴンザレスを騙したのだって、それなりの理由があったのだと納得した。
★★★
駐屯地ではちょっとした宴会になった。橇に乗せていた缶詰などの保存食が大人気で、魔王軍の保存食も私が少し手を加ええるとそれなりに食べられる味にはなった。というか、私は延々と料理を作らされている。もし私が毒でも盛ったらどうするつもりだろうか?
でも、ルルとロロが楽しそうにしているのを見ると、まあいいかと思ってしまったけど。
それから2日後、私たちは王都ブリッドに到着した。ルータス王国の王都ほどではないにしても、町はそれなりに栄えていた。違いといえば、建築様式と行きかう人が多種多様な種族ということ以外は特にルータス王国と変わりはなかった。
王城に着くとすぐに謁見が行われた。玉座に座っているのは竜人族の女性だった。リザードマンほどトカゲっぽくないけど、爬虫類っぽい顔だ。美人は美人だけど。
「私は魔王のダイアナ・ブライトン。ネスカの母親になります。クララさん、お待ちしていましたよ。いきなり大臣待遇にはできませんが、魔王軍参謀長の席は用意しています。給与については魔王軍の隊長クラスを基本に支給します。貴方の働きを期待していますよ」
「はい?私は捕虜では?」
「ネスカから、優秀な人材をスカウトしてきたと聞いています。それに参謀希望でもあり、今回の役職は適任かと思うのですが、何かご不満ですか?」
「そういう訳ではないのですが、話が見えないのです・・・いきなり魔王軍参謀長って?」
「謙虚な方ですね。もっと下の役職を希望ですか?」
全く話が嚙み合わない。ネスカを見ると少し焦っているようだった。魔王様も何かがおかしいと気付いたようで、ネスカに尋ねる。
「ネスカ!!貴方はどういった経緯でクララさんをここに連れてきたのですか?」
「母上・・・その・・・」
ネスカはおどおどしながらこれまでの経緯を答えた。ネスカには珍しく、要領を得ていない。
仕方なく、私が話を引き取る。
「ネスカ、私の質問に答えて。私が貴方のスカウトに応じたというのは嘘よね?」
「はい・・・」
「あの状況でみんなを助けるためにした行動だというのは理解できるけど、もっとやりようがあったよね?」
「はい・・・」
「私の能力を評価してくれたのは嬉しいけど、こんなことをされたんじゃ、付き合い方を考えるわ」
ネスカはいつになく落ち込んでいる。
ここでオルガが会話に入る
「ネスカから相談を受けてね。気になる女の子にアプローチしたいってね。だから言ってやったんだよ。まどろっこしいことをせずに「さっさと攫っちまえ」ってね」
お前が犯人か!!真に受けるネスカもネスカだ!!
私は前世を含めて、恋愛未経験だ。でも分かる。明らかに手順がおかしい。まずはお互いの気持ちを確かめ合い、それからデートを重ねて、親に紹介するものだ。それが、すべての手順をすっ飛ばしている。
「そんなの最初は交換日記から初めて・・・それからデートとか・・・」
交換日記はないか・・・中学生でもないし・・・
魔王様は頭を抱える。
「これでは私たちが人攫いみたいじゃないですか!!本当にこの家の男どもは全く!!勝手なことをして、反省しなさい!!戦争が起きたらどうするんですか!?猫人族のお嬢さんはまだ分かります・・・」
延々と魔王様の愚痴が続く。大半が夫に対するものだった。夫であるチャーチルも初代魔王の血を引く者で、外遊に出ると言って5年も家に戻ってきてないそうだ。ってそれは今関係ないんじゃ・・・
「魔王様、とりあえず私は家に帰してもらえれば構いません。ネスカには今後こんなことをしないように指導してくれたら、それでいいです。何ならそちらの都合が良いように口裏も合わせますから・・・」
「ごめんなさいね、クララさん。こちらで対応を協議します。ネスカは当面の間、謹慎処分とします」
私の魔王様との謁見はこれで終了した。
それから部屋を宛がわれて、のんびり過ごす。監視付きだが、王都の観光も許可された。料理もそれなりに美味しく、特に不満はなかった。まあ、少しアドバイスをしたり、レシピを教えたりはしたんだけどね。
そして、10日目の夜に魔王様とネスカが部屋に訪ねて来て、驚きの内容を告げられる。
魔王様自ら再度、頭を下げられた。横に立つネスカも申し訳なさそうにしている。
「本当に申し訳ないのだけど、クララさんをルータス王国に帰らせることはできないの・・・今帰らせると命が危ないわ」
「そんな・・・命の危険なんて・・・ネスカが守ってくれたら大丈夫でしょ?ねえネスカ?」
「クララ、ごめん。実はルータス王国では僕とクララは殉職扱いにされているんだ。今帰るといくら僕でも守りきれないよ。殉職した者が生きていたら、国としても都合が悪いだろ?」
私は膝から崩れ落ちた。
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