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【祝!300万PV】転生した底辺OLが、雑用スキルで異世界を無双する話  作者: 楊楊
第四章 就職

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60 捕虜クララ

 結論から言おう。私は捕虜になった。


 当初、ネスカは自分だけが捕虜になると言い、交渉が始まった。しかし、当然受け入れられない。


「こっちだって、この状況で「気を付けてお帰りください」とは言えない。それにネスカだっけ?お前はロイター王国の人間だろ?他国からすれば、「後はアタイらとロイター王国で勝手に交渉してくれ」と言い出しかねないだろ?」


「では、どうしろと?」


「各国一人ずつ、捕虜をもらうことにするよ」


 そんな話になってしまった。ルータス王国の代表としてゴンザレスが名乗り出たが、却下された。魔族側は私を指定してきたのだ。


「そちらのお嬢さんのほうが面白そうだ。聖女に喧嘩を売るくらいだからね。仲良くできそうだし」


 ゴンザレスやエスカトーレ様は強硬に反対をしたが、受け入れられなかった。

 神聖ラドリア帝国は、もちろんアイリーンではなかった。侍女二人が捕虜となった。魔族からしたらアイリーンは面倒くさいと思ったのだろう。


「じゃあ、武器は没収するよ。それに所持金も、支援物資もね」


 これはかなり痛い。というのも私の装備とロキ特製のそりには、多くの罠や魔道具が満載してある。ほとんどが初見殺しで、これを鹵獲されたら、魔族側に機密情報が漏れてしまう。レベッカさんに「鹵獲されるくらいなら、思い切って壊せ」と言われていたのに・・・

 心優しいロキは、魔族に自分の魔道具を使われて、人族に被害が出ることを知ったら、心を痛めるだろう。


 でも仕方がない。私たちに拒否権はない。

 私はオルガにお願いをする。


「家族やお世話になった方に手紙を書かせてください」


 この申し出は受け入れられた。


 ★★★


 私は手紙とともに、活動記録も作成してゴンザレスに託した、「絶対にレベッカさんに渡すまでは、誰にも渡すな」と指示して。

 私は定期的に勇者パーティーの活動記録を冒険者ギルドを通じてレベッカさんに送っていたのだが、多分これで最後になるであろう活動記録を作成しているときに、多くの疑問点が噴出した。しかし、あえて私の見解は記載しなかった。定型書式に則り、事実だけを記載していく。察しのいいレベッカさんや騎士団長が見れば、私が不審に思っていることは理解してくれるだろう。


 報 告


 魔族領へ入った私たちは、半日後に魔族と接敵、魔族側から退去勧告を受けるも、これを無視し、戦闘に発展。ダミアン王子以下で一騎討ちを繰り返したが、すべて敗北。交渉の結果、ネスカ、クララ、侍女二人が捕虜となり、武器と支援物資は鹵獲された。戦闘状況については別紙のとおり記載した。


 改善点

 事前にパーティーとして戦闘訓練を実施し、連携を強化すればもっと善戦できたであろう。



 これを受け取った各国の担当者は頭を悩ますだろう。私たち勇者パーティーの戦績は驚きの0勝1敗だった。各国を回り、声高に魔族討伐を訴えたのに結果をみれば、魔族の女性二人に一騎討ちで軽くあしらわれ、終わってみれば初戦で敗退。捕虜4名と武器、支援物資、所持金をすべて没収される大失態だ。一度も戦闘をしてない私が言うのもアレだが、歴代で最弱の勇者パーティーとして語り継がれるだろう。ある意味コメディ物としては、面白いかもしれない。


 アイリーンのこれまでの言動や神聖ラドリア帝国の動向も気になるが、一番気になるのはネスカだ。いつものネスカなら、事前に訓練を提案したり、実戦経験を積むためにダンジョン探索を提案したりすると思う。しかし、それをしなかった。

 まだ不審点はある。戦闘になってからも、いつものネスカなら的確に指示をしていたはずだし、今の戦力でも上手く立ち回れば、ここまで惨敗することはなかったはずだ。例えばだけど、いつもどおり集団戦に持ち込んで、ゴンザレスを楯にして・・・・


 まあ、考えるのは止めよう。もう後の祭りだからね。


 しばらくして、後処理が終わった。当然だが、手紙も報告書も検閲される。

 オルガが言う。


「いい家族じゃないか・・・なるべく早く帰れるように取り計らってやろう。それにしても、この活動報告は、本当に提出するのか?アタイだったら、恥ずかしすぎて、自害するよ」


 私だってそう思う。


「仕事ですから」


 そう言うのが精一杯だった。


 ★★★


「ネスカ、変な真似はするなよ。したら皆殺しにするよ」


「分かっている。狼煙を上げるだけだ」


 ネスカの提案で、狼煙を上げてビーグル子爵たちを呼び出し、彼らに勇者パーティーの回収を依頼することになった。狼煙を上げると眩しく輝く光の弾が上空に上がり、静止した。


「それじゃあ、救援が来るまで、アンタらも変な真似をするんじゃないよ。なるべく早くこの子たちを解放してくれるように国に頼むんだね」


 そして、私たちは馬車に乗せられ連行されることになる。しばらくして、オルガが唐突に質問してきた。


「暇だから捕虜の尋問をしよう。クララ、アンタは思い人はいるのか?」


「いえ、いません」


「本当かい?嘘を吐くと為にならないよ。例えば、ゴンザレスとかいう楯持ちの兄ちゃんのことはどう思っている?」


「友達です。少しズレてるところはあるけど、優しくて力持ちで頼りになります」


「そうか・・・じゃあ、王子様は?」


「論外です。マニュアル人間のダメダメ王子です」


「大層な物言いだね・・・だったら、そっちのネスカのことはどう思っているんだ?」


「頼りになりますし・・・ってこれって何か関係があるんですか?捕虜への凌辱は禁止されていると思いますが!!」


 オルガは多分、暇つぶしで質問しているのだろう。普通なら機密なんかを聞くはずだしね。


「まあ、いいや。ネスカはクララのことをどう思っているんだい?好きなら好きって言えよ」


 ここでネスカが予想外の言葉を言い放った。


「姉さん!!もうふざけるのは止めてくれ!!それに拘束も早く解いてくれ。もう必要ないだろ?」



 一体どういうことだ?

 思考が追い付かない・・・


「クララ、これには訳があるんだ。騙すようなことをして本当に悪かった。説明をさせてほしい」


 ★★★


 ネスカが語ったのは驚きの内容だった。

 まずネスカだが、オルガとスターシアの弟で、しかも魔王の息子だという。それにしては全然似てないけど・・・


「魔王家の血統には、多くの種族の血が入っていて、その子供には別々に種族の特徴が現れる。オルガ姐さんはオーガ族、スターシア姐さんはダークエルフ、僕は人族だね。因みに母さんは竜人族で、父さんは吸血族だ」


「それだと、ビーグル子爵の養子というのは?」


「それはこちらでお願いしたんだ。ルータス王国に潜入するためにね。因みに魔族に取り込まれている貴族というのは、ビーグル子爵なんだ。これには深い訳があってね・・・・」


 魔王国ブライトンには魔族だけでなく、多くの獣人や亜人が住んでいる。というのも獣人と魔族の違いなんて、はっきりとしてないそうだ。リザードマンが獣人か魔族かで論争になるし、コボルト族もそうらしい。

 話は逸れたが、神聖ラドリア帝国を中心にここ10年で、魔族や亜人に対する排斥活動が激化しているそうだ。エランツ派の台頭と時期が被る。


「ビーグル子爵からも相談を受けていた。ロイター王国の上層部に掛け合っても何もしてくれなくて、仕方なく伝手を頼って魔王国ブライトンに協力を要請してきた。こちらとしても難民になっている獣人たちを受け入れることはできるけど、こちらから軍隊を差し向けて救出に向かうことなんてできないから、政治的に平和的な解決を図ることにした。

 そこで、僕がその役目を負うことになった。比較的獣人や亜人に対して寛容な態度を取っている大国ルータス王国に僕が潜入し、文官にでもなって、魔王国ブライトンと同盟なり、条約を締結して世界的に獣人や亜人の保護を目指そうとしたのさ。それなら、ケーブ学園に入学するのが得策だと判断して、今に至っているわけだ」


「じゃあ、貴方のすべてが嘘だったわけではないのね?」


「そうだね。最初にエスカトーレ様の派閥に入ったのは打算だったけど、ミリアやゴンザレスは大切な友だちだと思っているよ。もちろんクララも・・・」


 それぐらいなら、許してあげてもいい、それが本当の話なら。

 しかし、それにしてもここまでエスカトーレ様やゴンザレスを騙す必要はなかったのではないだろうか?


「当初の計画では、無事にケーブ学園を卒業し、エスカトーレ様やゴンザレスの伝手を使って、文官や騎士団の中枢に就職することを狙っていたんだけど、勇者パーティーの件で、すべて台無しさ。運がいいか悪いか、勇者パーティーに選ばれてしまって・・・今回のような手段を取ったことにも理由があって、魔王様と謁見した際に詳しく話すよ」


 まあ、今のところはそれでいい。

 私は一つ気になったことを質問する。


「分かったわ。ネスカの言ったことは信じてあげる。でも一つだけ教えて・・・貴方って何歳なの?」

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