56 旅立ち
~レベッカ視点~
本日、勇者パーティーは王都を出発した。見送りを終えた私は執務室に戻った。来年から正式雇用となったミリア嬢の報告書を読む。現在は見習い職員で、少しずつギルドの仕事もさせている。そこにはネスカが食事会で語った内容が記載されていた。
出身地のビーグル子爵領が獣人中心の領で、獣人や亜人を排斥するエランツ派が台頭することは非常に都合が悪く、利害関係は一致しているというわけか・・・・話の辻褄は合っているが、ネスカがすべて本当のことを語ったかどうかは分からない。
そんなことを思いながら報告書を呼んでいると不自然にニヤついた男が訪ねて来た。
「俺もそろそろ出発しますぜ。名残惜しいかもしれませんが、見送りは結構ですよ」
「別に名残惜しいとは、これっぽっちも思ってない」
お互いに軽口を言う。
「ところで、お前はネスカについてどう見ている?この報告書は読んだのだろ?」
「そうですね。まあ、俺の考えにも近いですし、利害が一致しているうちは放っておけばいいかと」
「お前ならそう言うと思った。まあ、お前も気を付けてな。町を少し歩いただけでも、他国の諜報員と思われる者が多くいたからな」
「大丈夫ですぜ。これでも腕には自信がありましてね。知っているかもしれませんが」
「まあ、無理はするな・・・」
ニヤついた男は去って行った。
各国からしても今回の勇者パーティー編成の関係は興味を引くところだろう。私が他国の担当者でも、すぐに諜報員を派遣するだろう。敵対する云々ではなく、とにかく情報が欲しいと思うだろうからな。ただ、自国である我々も正確なところは掴んでいない。だからこそ、諜報部門のエースであるあの男を派遣するのだ。
アイツがいなくなったのは、私やお父様には痛手だが、有望な人材も手に入れた。使い物になるまで時間が掛かるだろうが、良しとしておこう。
~ミリア視点~
14歳になった頃、私はお祖父様に呼び出しを受けた。
「ミリアよ。ケーブ学園に入学してもらう。ダミアン王子が入学するし、エスカトーレ様も入学する。ドナルド家のゴンザレス様もだ。ミリア、自分が何をしなければならないかは分かっているな」
「彼らと良好な関係を築き、ギールス子爵家に利益がもたらせるように努力します」
「流石は、孫の中でも一番優秀なミリアだ。それで、もう一人頼みたい者がいるのだ。もうすぐ男爵家となる令嬢の・・・」
お祖父様に依頼されたことは、ベル商会のクララという少女の能力を見極め、必要な措置を取ることだった。依頼を受けたとき、一体なぜ一介の商人の娘にそこまで?と思わなくもなかったが、商業ギルドのアルバイトを一緒にしてみて、その理由が分かった。
圧倒的なスキルを持っているのに、本人が自分の実力に全く気付いていない。入学し、彼女の両親と接しても同じ感想を持った。
お祖父様も心配するわけだ・・・
クララは本当にいい子だった。他人を思いやり、自分のことは後回しで、それで苦労ばかりしている。自然と私は世話を焼くようになった。それも打算なしで。
商人としては失格かもしれないが、私は心の中で「これは必要な措置だ」と言い訳して、クララに向き合っていた。あるとき、クララに言われた。
「なんだかミリアって大人っぽいよね・・・お姉さんみたい・・・」
一瞬、私も年齢を誤魔化して入学していることがバレたのかと思ったが、クララに限ってそんなことはないと、すぐに気付いた。ただ、これは本当に嬉しかった。私もなんか、手の掛かる妹だと思っていたしね。
そんなクララだが、快進撃を見せる。スラムのボランティア活動から始まり、ケンドウェル伯爵領の問題まで解決してしまった。多くの人間はエスカトーレ様の功績だと勘違いしているが、実際はクララの手柄だと私は思っている。
もし、クララがエスカトーレ様の派閥にいなかったら、私たち派閥のメンバーは表面上の付き合いだけになっていて、ここまでエスカトーレ様やレニーナ様と仲良くなれることはなかったし、今頃派閥は空中分解をしてしまっていただろう。
問題児の伯爵家三人娘もなんだかんだ言いながらも派閥に残っているのは、クララが陰でフォローしていたからだ。その三人娘だってクララがいなかったら、悪行を繰り返して退学になってもおかしくなかっただろう。少しはクララにお礼でも言ったらどうかと思ってしまう。
まあ、愚痴や文句もいっぱいあるけど、この学園生活は本当に楽しかった。こんな日がずっと続けばいいと思っていたくらいだ。進路だが、お祖父様の言いつけどおり、クララが決めた進路に進もうと思っていた。なので、クララが進みそうな就職先にはどれも私も就職できるように根回ししていた。
私がいないとクララが駄目になる。
そんな思いからだった。
クララはベル商会で仕事をしたいようだったけど、色々な部署で何かと理由を付けて勤務させられるだろうから、すぐには無理だろう。ベル商会に就職したらしたで、私もベル商会に雇ってもらってもいいなとは思っていたけどね。
しかし、別れは唐突に訪れた。
自称聖女の馬鹿が、勇者パーティーを結成すると言い出し、あれよあれよという間にクララも勇者パーティーに編成されてしまった。
私なしでクララは大丈夫だろうか?
これがきっかけで、私は冒険者ギルドに就職を決めた。クララたちの情報を一早く知ることができるからだ。
同じような理由で、レニーナ様もケーブ学園の非常勤講師になった。エスカトーレ様の派閥を維持して、帰って来たときの居場所を確保するのが目的だと言っているが、イカルス教官と一緒にいたいのも大きな理由だろう。父親のケンドウェル伯爵もエスカトーレ様には感謝しているので、自領に卒業後も戻らないことを了承してくれたそうだ。
クララたちが旅立ってから、私とレニーナ様は急速に仲良くなった。何もなくても週に一回はお茶やランチをしている。その時の話題は、決まって「クララたちは元気でやっているか?」「あのときはあんなことをして楽しかった」という内容だ。
「派閥のまとめ役になって、トップのエスカトーレ様の苦労も分りましたし、献身的に雑用をしてくれたクララさんの有難さも身に染みて分かりました。早く帰って来てくれないでしょうか・・・」
「レニーナ様、最近そればっかりですよ。そんなんじゃ帰って来たエスカトーレ様たちに笑われますよ。私たちも頑張りましょう」
「そうですね・・・こんなんじゃダメですね。でも、ネスカさん・・・この際ゴンザレス様でもいてくれれば、会合で空気が冷え切ったときに、空気を変えてくれるんですけどね・・・」
また、愚痴が出てますよ・・・
私もそう思わなくもない。あのメンバーは最高だったな。戦闘だけでなく、色んなことにバランスがよかった。だからこそ、あんなに実績が上がったのだ。誰一人欠けても成しえなかったと思う。
また、みんなで何かしたいと強く思う。
いつか来るそんな日の為に、突然旅立った仲間たちに負けないように、私も前に進んでいこう!!
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以上で第三章は終了となります。
次回から第四章となり、クララが自重を止め、本格的な無双が始まります。




