55 旅立ちの前に
2週間なんて、あっという間だった。
戦闘訓練を行ったり、ベル商会や冒険者ギルド、商業ギルドで引継ぎを行ったりと大忙しだった。連日の徹夜続きで、出発前に倒れるのではないかと思うほどだった。
まず、この2週間で、私の戦闘力は劇的に向上した。もちろん、装備のお陰だ。「スナイパーボウガン」だけでなく、ロキ特製のバックラー(小型の丸楯)装備し、逃げ回る。そして、ある程度距離を詰められたスリングショット(パチンコガン)に持ち替え、敵を近付けさせないことを基本戦術にネスカとレニーナ様に指導を受けていた。
もちろん「スナイパーボウガン」も改良している。軽量化され、弦の巻き上げも魔石を使って自動巻き上げにしている。その分コストは高いのだけど。また、スリングショットの弾も改良し、初級魔法以上の威力が出るようになっている。
訓練の最後にレニーナ様が言う。
「攻撃よりもまずは回避を心掛けてください。絶対に生きて帰ってきてくださいね」
ゴンザレスがレニーナ様の言葉を受けて言う。
「大丈夫だ。俺が誰一人クララには近付けさせん」
ゴンザレス・・・成長したね・・・
あのおどおどして、引っ込み思案だったゴンザレスとは思えなかった。
★★★
出発3日前、ベル食堂でいつものメンバーで食事会を開いた。派閥全体のパーティーはすでに終わっている。もしかすると、この食事会がみんなで集まれる最後の食事会になるかもしれないと思うと夜遅くまで、話は尽きなかった。このメンバーで勇者パーティーに選ばれなかったレニーナ様とミリアは少し寂しそうだった。
エスカトーレ様は言う。
「どうせなら、このメンバーで行きたかったですね・・・ずっと一緒だったのに・・・」
「だったら、「聖女」と「勇者」様を外して、私とレニーナ様が入りましょうか?絶対そっちのほうが、楽しいですし。それにこのメンバーなら絶対に何とかなる気がしますし・・・・」
「ミリアさん、気持ちは分かりますが、残った私たちにも使命はありますよ。エスカトーレ様たちが帰ってくるまで、派閥を維持し、盛り立てないと」
「帰ってきたら、またよろしくお願いしますね」
そんな会話をしていたところ、ネスカが真剣に話始めた。
「ここで、もしかしたら今生の別れになるかもしれないから、少し話をさせてほしい。僕はロイター王国のビーグル子爵家の三男だけど、ビーグル子爵領は特殊で、人口の8割が獣人なんだ。ケーブ学園に入学した目的も二つあって、ロイター王国としてはルータス王国との信頼関係を修復したい、ビーグル子爵領としては獣人や亜人を迫害するエランツ派の拡大を阻止したいという思惑があって、これまで行動してきたんだ」
それで、レベッカさんに「宗教絡み」って答えたのか・・・
「だから、レニーナ様のケンドウェル伯爵領には親近感を覚えたし、エスカトーレ様の姿勢も素晴らしいと思って、派閥での活動も頑張ってやってきた。本当にありがとうございました。
それで、ここからは僕の推測になるんだけど・・・ちょっと内容が内容だから、口外はしないでほしい」
そう言うと、ネスカは驚きの内容を話始めた。
聞き終えた、ミリアが驚きの声を上げる。
「エスカトーレ様を暗殺!?そんな、いくらなんでも・・・・」
「暗殺までするかどうかは分からないが、何かしらエスカトーレ様を貶めようとするとは思う。あの自称聖女は、エスカトーレ様に敵意を剥き出しにしていたからね。それとこれはミリアやレニーナ様に頼みたいことなんですが、僕たちが王都から離れている間に何か事を起こす輩が出てくるかもしれません。日常生活を通じてで構いませんので、幅広く情報を集め、少しでも気になることがあれば、レベッカさんに報告してあげてください」
「もろろんですわ」
「私は冒険者ギルドに就職だから、個人的に情報を集めておくわ」
実はミリアは、勇者パーティーのメンバー発表の後に家族とも話し合い、冒険者ギルドに就職することにしたそうだ。詳しい事情は知らないが、ミリアなりに考えてのことだろう。
「だから冒険中もしっかり、エスカトーレ様をサポートしなくちゃならない。ゴンザレス、そのことを頭に入れてしっかり守ってくれ」
「もちろんだ!!」
「僕はエスカトーレ様への工作活動を防ぎ、クララも守っていく」
ネスカの話では、直接的行動に出るのは魔族領に入ってからになると予想され、それまでは式典や各地の王族や代表者への謁見の席で嫌がらせをしてくるのではないかとのことだった。
それからしばらくして、会はお開きになった。ネスカとゴンザレスは帰宅したが、女子は残った。最後の女子会というやつだ。
レニーナ様が言う。
「恋愛だけを考えても、私も勇者パーティーに参加したかったですわ。間近で三角関係が二組もあるのですからね」
「エスカトーレ様、自称聖女、ダミアン王子は分かるのですが、もう一組は?」
ミリアが言う。
「ああ・・・本人がこれじゃあ・・・心配だから、私もこっそりついていこうかしら・・・」
そんな中、エスカトーレ様が決意を込めて言う。
「魔族にも、自称聖女にも私は絶対に負けません」
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