54 重大発表!!
その日全校生徒は、講堂に集められた。教室から講堂に移動するときに外を見ると多くの騎士団員が警備についている。なんだか物々しい。講堂に入るとその理由が分かった。国王陛下が臨席されている。この時点で、絶対に何かあると考えたのは私だけではなかっただろう。
学生が集合し終わると、学生部長が壇上に立つ。
「皆さんに急遽集まってもらったのは他でもありません。実は重大発表がございます。詳細についてですが、「聖女」であられますアイリーン・ローム様よりお伝えさせていただきます」
学生部長に促されてアイリーンが壇上に上がり、話始めた。
「世界は危機に瀕しています!!今こそ、我々は手を取り合って立ち上がらなければならないのです!!」
私を含め多くの学生は呆気に取られている。
何だこれは?カルト宗教の集会か?
アイリーンの演説は続く。
「しかし心配はいりません。なぜならここには「聖女」の私と「勇者」であるダミアン王子がいるのだから!!
皆さんも聞いたことがあるでしょう?勇者が極悪非道の魔王を打ち倒したお伽話を!!先日、私は絶対神ヤスダから啓示を受けました。『今すぐに魔王に立ち向かわなくては、世界が滅びる』と・・・なので、急な話ではありますが、伝説にもあった勇者パーティーを編成し、これより魔族領へ討ち入ります!!」
荒唐無稽な話だな・・・誰がそんなことを信じるんだろうか?
大体、神様を持ち出して、何かしようとする奴は詐欺師と相場は決まっている。国王陛下や騎士団長、大臣連中がこぞって騙されるなんてありえない。
そう思っていたら、完全に信じ切っている人がいた。
「これは「勇者」としての使命だ。みんなとは卒業まで一緒にいたかったけど、そうはいかなくなった。2週間後には王都を出発する予定だ。絶対に世界を守ってみせる!!」
ああ・・・騙されてる・・・
ここで国王陛下が壇上に上がる。
「その決意見事だ・・・ダミアンよ、立派になったな。国王として命じる。必ず世界を平和に導け!!」
あれ!?国王陛下も?
気になって騎士団長であるフレッド様を見ると、非常に渋い表情をしていた。
そして、サクラだと思われる文官たちが拍手を始める。学生たちも連られて拍手を始め、会場は拍手に包まれた。無理やり感動的な光景を演出した感じがある。
少しして、拍手が収まったところで、学生部長が壇上に立った。
「いくら「勇者」様と「聖女」様がいらっしゃるとはいえ、二人だけでは活動はできません。そこで勇者パーティーを選出することになりました。急遽のことで学生から選び、選出方法は先日行われた武闘大会の成績で決定いたしました。発表は、国王陛下より行います。名前を呼ばれた学生は、返事をして壇上に上がってください」
国王陛下が名前を読み上げる。
「ゴンザレス・ドナルド!!」
「はい!!」
ゴンザレスは返事をして、壇上に上がった。
まあ、優勝者だしね。となると後は、エスカトーレ様とネスカか・・・ネスカは他国出身だから分からないな。後はベスト8のレニーナ様、ミリア、東辺境伯令息といったところだろうか。もう一人はこの三人に比べれば、明かに実力が劣るしな・・・
「エスカトーレ・ウィード!!」
「はい!!」
順当だろう。問題はここからだ。
「ネスカ・ビーグル!!」
「はい!!」
実力主義できたようだ。まあ、ここで無理にネスカを外すとロイター王国との関係が悪化する可能性があるからね。
「次が最後のメンバーとなる」
となると三人の内誰かになるよね・・・・
「クララ・ベル!!」
会場が静まり返る。
私って大会に出場すらしてないんですけど!!
私が呆気に取られていると学生部長が声を上げる。
「クララさん!!早く返事をして、壇上に!!」
「は、はい!!」
その後、放心状態だった私は、ほとんど記憶がなかった。式典が終わり、フレッド様とレベッカさんに声を掛けられ、馬車で自宅まで送ってもらった。両親への説明などをしてくれるそうだ。
家族にこのことを伝えると私以上に驚いていた。ロキなんかは泣いて、「お姉様、行かないで」と言ってくる。
お父様が落ち着いて質問をする。
「断ることはできないのでしょうか?クララは戦闘力は、ほぼありませんし・・・」
「貴殿らは貴族で、王命に従う義務もある。気持ちは分かるが、それはできん」
「なんでお姉様なんですか!?おかしいでしょ!!」
ロキが喰ってかかった。レベッカさんが宥め、フレッド様が答える。
「闘技大会の結果でポイント順に選んだ。クララ嬢は大会実行委員長で、それだけでベスト8のポイントが入り、スタッフから評判がよく、追加でポイントが加算されたようだ。勇者パーティーを学生から選ぶというのは、神のお告げだそうだ。本当のところは分からんがな・・・」
たぶん、あのスタッフたちが嘆願してくれたのだろうけど、それが裏目に出てしまったようだ。
落ち着きを取り戻した私も質問をする。
「神のお告げとか荒唐無稽な話にもほどがあります。そもそもアイリーンが「聖女」かどうかも怪しいですしね。それなのに、国王陛下も大臣たちも、何も言わなかったのですか?」
「そう思うのも無理はない。ただ、これは口外してもらいたくはないのだが・・・・」
フレッド様は理由を話始めた。
ルータス王国の第一王女、ダミアン王子の姉に当たる人物が病に倒れたという。治療術師が懸命に治療しても回復する様子はなく、国王陛下もダミアン王子も落ち込んでいたという。そんなとき、神聖ラドリア帝国から「聖女」を派遣するという連絡が届いたそうだ。藁にも縋る思いでこの話を受けた。その「聖女」というのはアイリーンなのだが、アイリーンが言うには「第一王女が病に倒れたのは、魔族の呪いで、魔族の王である魔王を討伐するしか、呪いを解く方法はない」と言い出した。
国王陛下は、騙されているかもしれないと思ったのだが、ダミアン王子はアイリーンに心酔していて、魔王討伐に向かうことを決意、国王陛下も絶対に嘘だとは言い切れないと思い、渋々勇者パーティーを編成して魔王を討伐することに同意したという。
「だったら学生ではなく、各国から精鋭を集めるべきだと思うのだが、それはお告げで駄目だという。何かしら意図があるのだろうが・・・・」
誰がどうみてもこの勇者パーティーには裏がある。
「分かりました。行くしかないのなら、行きます。それにしても絶対に裏がありますよね」
「もちろんだ。我らも全力で調査に当たっている。クララ嬢に情報分析を頼みたいところだが、出発前に準備をしなければならんだろ?少しでも戦闘力を高め、装備も整えないとな。それとロキ君!!君も来年にはケーブ学園に入学するのだろ?泣いてばかりではなく、スキルを活かして、姉上に武器の一つでも作ってあげなさい」
「分かりました。お姉様には最高の装備を作ってあげますよ!!」
その日、家族で夜遅くまで話し合った。
私がどれだけ家族に愛されていたか、思い知らされた。どんなことがあっても私は生きて帰る。
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