52 聖女来襲!!
武闘大会も終わって進路が決まる学生も、ちらほら出て来た頃、学園に転校生がやって来た。
皆が「なぜこの時期に?」と思うのも無理はない。どうも神聖ラドリア帝国からの留学生のようだった。その生徒は女生徒でかなり奇麗で大人な感じがする。そして最も特徴的なのはその胸にある二つの巨大な物体だ。彼女は私たちと同じ制服ではなく、修道服を着ているのだが、明かにサイズが小さい修道服をワザと着用しているのだろう、その特徴的な二つの物体を際立たせている。男子生徒の多くは、その物体に釘付けになっていた。教官に促されて自己紹介を始める。
「私はアイリーン・ローム、神聖ラドリア帝国から留学で参りました。卒業までの短い間ですが、仲良くしてくださいね。私のジョブは「聖女」です。まあ、どこかの自称聖女とは違って、正真正銘の聖女ですね」
甘ったるい声の割に棘のある言い方だ。明らかにエスカトーレ様を暗に批判している。エスカトーレ様を弁護すると、一言も自分から聖女とは名乗っていない。周囲が勝手に「風の聖女」と呼び始めたのだ。
自己紹介が終わり席に案内されたのだが、その聖女様はいきなりダミアン王子の隣に座らせるように要求する。そしてあろうことか、ダミアン王子の右手に抱き着いて、胸にある二つの物体をワザとらしく押し付ける。
「ダミアン王子、お久しぶりです!!みんなと仲良くできるかどうか不安で・・・殿下の隣で勉強をさせてください」
このとき、私を含めた女子学生の大半は、彼女に敵意を持った。
「アイリーン、久しぶりだね。元気そうで何よりだよ。それと心配はないよ。みんな優しいし、困ったことがあれば、僕が助けてあげるからね」
エスカトーレ様は青ざめている。
そんな異様な雰囲気の中、授業はスタートする。教科書もまだ、届いていないと言い(真偽のほどは不明)何かにつけてダミアン王子にくっつく。
休み時間になり、見兼ねたレニーナ様が注意をする。こういった言いにくいことを言うのも、組織のナンバー2の仕事だと最近分かってきた。決してレニーナ様が嫌らしい性格をしているわけではない。
「アイリーンさん、少しダミアン王子にくっつきすぎでは?文化の違いかもしれませんが、異性との過度なスキンシップは・・・」
言いかけたところで、アイリーンは涙を浮かべながら教室に戻って来たダミアン王子に抱き着く。
「ダミアン王子!!この方がいじめてくるんです・・・この方の出身地は亜人や獣人が多く住んでいるらしいですね。獣人たちと仲良くしている人は乱暴な人が多いのでしょうね・・・・」
本当にあざとすぎるし、さりげなく獣人や亜人を貶めながら、レニーナ様を非難する。コイツは絶対に計算でやっているな・・・・
「レニーナ、彼女は慣れないルータス王国にやって来て不安なんだ。僕も留学中不安だったから気持ちはよく分かる。なるべく、優しくしてあげてくれ」
「分かりました・・・申し訳ありません・・・」
ダミアン王子にそう言われたら、流石に引き下がるしかない。
★★★
最初の一週間はダミアン王子にベッタリだった。なんでも授業が終わってからも、密会しているという。更に一週間が経つと今度は他の学生や職員にも色目を使うようになった。色目を使うのは、顔ではなく家柄や権力で選んでいるようだった。
その証拠にAクラスだけでなく、Bクラスの東辺境伯の令息にも色目を使い、私には絶対無理だが、あの学生部長にもすり寄っていく。学生部長はメロメロになったことはいうまでもない。
そんな状況なので、女子だけを集めて緊急集会が開かれることになった。派閥関係なく、ほとんどの女子が集合した。ここまでまとまりを見せたのは初めてのことだろう。
問題児の伯爵家三人娘も、別の派閥である西辺境伯令嬢も参加している。仕切りはレニーナ様だった。
「ここに急遽集まってもらったのは、あの聖女の件です。皆さん、思うところはあると思いますが、ここは協力して対処いたしましょう。まずは敵の分析から。ネスカさんお願いします」
ネスカにこっそり実態調査を頼んでいたのだった。ここに参加している唯一の男子となる。
「まず聖女と名乗るアイリーン氏ですが、「誘惑」や「魅了」のスキルを持っているのかもしれません。確かにスタイルも良く、奇麗な顔立ちをしていますが、それだけでは多くの男子学生が虜になるのは説明ができません」
本当にアイツは「聖女」なのか?別のジョブではないのか?
そのような疑問を持ったのは、私だけではなく、西辺境伯令嬢が質問する。
「本当に彼女は「聖女」のジョブ持ちなのでしょうか?」
「それは分かりません。ただ、ここにいる皆さんの中にもジョブを公表していなかったり、偽のジョブを名乗っている人も多いと思います。それを彼女にだけ問いただすことはできませんし、神聖ラドリア帝国が「聖女」と認めているのだから、それを否定するのは国際問題になりかねません」
それはそうだろうな・・・ネスカだって、本当に「レンジャー」かどうか分からないしね。
更にネスカの説明は続く。
「とりあえず調査結果を報告していきます。彼女がターゲットにしているのは伯爵以上の令息たちです。先日、ゴンザレス殿と一緒に気があるフリをして、彼女に話し掛けたのですが、ゴンザレス殿には興味を示しましたが、自分には『小国のロイター王国の子爵家の方とは・・・ちょっと釣り合いが・・・』と言われて、もう話し掛けないように言われました」
これにはネスカファンの女子学生数名が非難の声を上げる。ああ見えてネスカは人気があるからね。
「現在、彼女が積極的にターゲットにしているのは、ダミアン王子、ゴンザレス殿、東辺境伯令息、学生部長ですね。他国出身でスパイと疑われている僕が言うのもアレですが、工作員の可能性が高いですね」
冗談めかして言ったネスカだが、過剰に反応したのは、西辺境伯令嬢だった。公然の秘密だが、最近東辺境伯令息といい感じなのだ。
「そんな・・・私が3年掛けて距離を縮めてきたのに・・・この短期間で・・・」
エスカトーレ様も続く。
「私も同じです。すぐにお父様から王宮へ抗議していただきます」
ネスカが続ける。
「これは推測ですが、教職員を抱き込もうとして、学生部長に近付いたのではないかと思われます。なので、王宮や外務省関係にも何かしらの工作をしていると考えられます」
エスカトーレ様が答える。
「分かりました。とりあえず、私たちは連絡を密にして、何か情報を掴めばみんなで協力することでいいですね?それでは、皆さん、各自できる範囲で情報を集めてください」
とりあえず、緊急集会は閉会となった。
閉会した後でネスカが声を掛けて来た。
「ゴンザレスのことは心配じゃないのかい?」
「そうね。でも大丈夫でしょ?根拠はないけど・・・」
「そうだよ。アイリーンがアプローチしても、『姉上や父上と相談します』と言っていたな。流石のアイリーンもびっくりしていたよ」
「ゴンザレスらしいわね」
「ここだけの話なんだけど、直接本人を探っても何も出てこないと思うんだ。そこで、ターゲットをお付きの女性二名に絞ろうと思うんだ。一緒に僕たちで少し探ってみないかい?」
「面白そうね。じゃあやってみようかしら」
私は初めてのスパイっぽい活動に胸をときめかせていた。
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