5 プレゼン 2
更に私の誤算は続く。レベッカさんの実家であるドナルド家の関係者への説明に私たち親子も立ち会うことになってしまった。お父様が言う。
「こんなことになって、申し訳なく思うが、冒険者のためだと思って勘弁してほしい」
「気にしないで、私もやれることはやるからね」
そんな決意をして、ギルマスの部屋を訪ねた。既に相手はギルマスの部屋に来ていた。商談で遅刻は許されない。ましてや相手は貴族だ。すぐにお父様が謝罪する。
「遅れて申し訳ありません・・・」
レベッカさんが言う。
「気にすることはない。この馬鹿が、早く来すぎたのだ」
レベッカさんが「馬鹿」と言った相手は大柄の赤髪の男性で、かなりの筋肉質で整った顔をしている。一言で言うとイケメンゴリラだ。
イケメンゴリラが言う。
「実の兄に向って馬鹿とはなんだ。そちらの商人も気にすることはない。戦だと聞いて、気持ちが高ぶってしまってな。我はレベッカの兄のジョージ・ドナルドである。インテリタイプに見えるかもしれんが、こう見えてもルータス王国第4騎士隊の隊長をしておる」
どう見ても、脳筋タイプでしょうが!!
これはギャグとして、ツッコムべきだろうか?
お父様も同じ気持ちだったようで、引き攣った笑いを浮かべながら、「ジョージ様のような方に国を守っていただいて、大変心強いです」と言って、その場を凌いだ。この辺は経験のなせる技だろう。
「早速だが、そちらの話を聞きたい」
レベッカさんが話を始める。レベッカさんは資料をほぼ理解していたようで、理路整然と説明した。
「なるほど・・・こちらも情報がある。人事交流で来ていたロイター王国の騎士見習いが5人、実家の事情で帰国した。理由はお見合いや実父の急病とか色々だが、この情報を聞いた後では話が変わってくるな。それに国境付近でロイター王国軍との合同演習も企画されている。これは想像だが、合同演習という名目で合流し、その演習中に戦争が勃発。同盟条約に基づいて、なし崩し的に参戦させられるという筋書きか・・・・」
ジョージ様は脳筋野郎に見えて、レベッカさんと同じく頭の回転は速い。様々な情報を結び付けて予測することができている。
「それで兄上、私も冒険者を死なせたくはない。物資の融通をしてもらいたい。騎士団で独占するようなことは止めてほしい」
「それは我も同じだ。騎士団にとってみても、無駄に団員の命を散らせたくはない。物資については今から準備すれば、騎士団、冒険者ともに必要数は確保できる。それも通常価格でな」
「それはよかった。後はこの話をどうするかだな・・・」
「騎士団長に伺いを立てるべきだろう。それと話は変わるが、そちらのクララ嬢に資料の分析を頼みたいが、大丈夫だろうか?」
「ギルドが間に入ろう。それでいいかシャイロ、クララ嬢?」
ここで「嫌です」と言う勇気は、私にもお父様にもなかった。
★★★
3日後、私とお父様はドナルド伯爵家に招かれた。表向きは、ベル商会が御用商人として売り込みに来たという体らしい。なぜ、レベッカさんの実家かというと、お父様が騎士団長だからだ。脳筋一家なんだね・・・
挨拶もそこそこに早速、依頼を受ける。騎士団長はレベッカさんたちと同じ赤髪で、ナイスミドルと言った感じだった。
「騎士団長のフレッド・ドナルドだ。レベッカとジョージから聞いている。早速資料の分析を頼みたい。ただ、これは諜報部隊が入手した極秘情報だ。口外するようなことがあれば、たとえ子供でも死罪は免れんだろう・・・その覚悟はあるか?」
死罪って・・・・
OL時代、「反社まがいの相手と交渉をまとめた」と自慢げに語る同期がいた。自分もそんなギリギリの交渉がしてみたいと思っていたものだ。その夢が叶ったと思おう。
私は覚悟を決めた。
「もちろんです。国のため、冒険者のためにできることはさせていただきます」
「子供とは思えんな・・・・」
「父上、言ったとおりでしょう?この年齢で肝が据わっていますからね」
騎士団長が言う。
「戦争が起こることは、間違いない。我らが知りたいのは、どういう意図があるかだ」
資料を分析する。諜報部隊なだけあってかなりエグい情報もある。
まず演習の内容だが、ごく少数だ。演習内容もロイター王国とルータス王国の国境付近に盗賊団が逃げ込み、合同で捜索して、捕縛するというものだった。演習に参加する者も特殊で、冒険者と騎士見習いや騎士になって間もない者が対象のようだ。
演習も形だけのもので、飲み会も企画されていて、相互の親睦を図るのが目的としている。食料もロイター王国ですべて準備するようで、「どうしてもというのなら、酒でも持って来てくれ」ということが、要請書に書いてあった。
国際情勢に詳しくはないが、ロイター王国について良い噂は聞かない。一言で言うと狡猾でずる賢い。5年前も魔族が突然攻めて来たという話だが、実際はロイター王国の自作自演が疑われている。多分今回もそれを狙っているのだろう。
私は演習の参加予定者名簿に目を通す。騎士団は経験の浅い者を中心に編成されており、上級貴族の子弟が目立つ。冒険者は新米冒険者が中心という形で、ランクで言えばDランク以下がメインとなる。ルータス王国の参加人数は合せて300名・・・戦争をするには少なすぎる。
間違いない。演習参加者を生贄にルータス王国を魔族との戦争に引きずり込もうとしているのだろう。ルータス王国は、そこまで魔族に対して、悪感情は持っていない。悪感情をもっているのは、神の国を自称する神聖ラドリア帝国くらいだろう。あそこは人族至上主義で亜人や獣人も迫害していると聞く。となると・・・・
「考えたくはありませんが、ルータス王国を戦争に引きずり込もうとしているのだと思われます。それに今回は更に悪質です。5年前とは違い、演習に参加する部隊の犠牲を前提に作戦が立てられていると思います。多くの上級貴族の子弟が魔族に殺されたのならば、国内も魔族排斥の機運が高まるでしょう。そうなると大量のルータス王国軍がロイター王国に向かうことになり、手薄となったところを神聖ラドリア帝国が・・・」
このくらいのことは、私でなくても騎士団長となれば予想はつくだろう。なぜ、私たちを呼んだんだろうか?
騎士団長の優秀さを考えれば、資料を見ただけで判断ができるだろう。ここで私は仮説を立てた。騎士団長は私の提案を期待しているではないだろうか?
「ここまでは、軍事のプロであれば、予想がつくと思います。なぜ、私たちを呼んだのかというともっと分析してもらいたい資料があるのではないでしょうか?できれば、戦争を止めて欲しいと・・・・」
騎士団長、レベッカさん、ジョージ様が顔を見合わせる。
そして、騎士団長が言う。
「合格だ。追加の資料を見せてやる。しっかりと分析をしてくれ」
冷静になって考えると、最初はギルドに物品の営業に行っただけだったのに、いつの間にか、機密情報まで分析させられている。
一体、どこでどう間違えたのだろうか?
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