48 職場研修終了
私は今、研修先の魔法省に来ている。というか、監禁されている。どうしてこうなったか、順を追って説明していこう。
第3騎士隊での研修を終えた私たちだが、次の研修先は宮廷魔導士団だった。ここでは魔法適性のある学生とない学生に分けられる。いつものメンバーは私以外の全員が魔法適性があり、ゴンザレスもそちらに回された。不器用なだけで、身体強化魔法や電撃を体に纏わせることはできるし、魔力量は膨大だからね。
そして、私が配属されたのは・・・・
「久しぶりだね。クララだっけ?レベッカから聞いているよ」
私を出迎えたのはゴンザレスとレベッカさんの母親、キャサリン様だった。
「とりあえず、ここの掃除と書類整理を頼もうか。それができたらデータをまとめてくれ」
求められたのは、タダの雑用だった。まあ、普通は研修なんてそんなものだ。今までが特別過ぎたんだ。魔法が使えない私に手伝えることなんてほぼないしね。しかし、私は与えられた仕事は完璧にやり遂げる質だ。いつもどおり、手を抜かずに雑用をこなしていく。
今思えば、これがよくなかったのだろう。
1日目が終わる頃には、キャサリン様に大絶賛された。そして2日目からは完全にキャサリン様の専属秘書のようなポジションになってしまっていた。延々と意味不明な魔法陣を「転写」させられ、データ整理を命じられた。あまりにもスキルを使い過ぎたお陰で、「長期保存」という転写した記録を長期保存ができる謎のスキルが発現した。意味不明な魔法陣を大量に長期保存しても、私には全く意味がないのだけど・・・
魔導士団での研修は、今までの研修とは段違いで疲弊した。雑用を無理やりやらされていたOL時代を思い出した。自分の仕事が何の役に立つのか説明もないし、延々と単純作業を命じられる。先の見えないトンネルを先へ先へと進んでいるような感じだった。そして、期限の1週間が終わり、私は解放されることになった。しかし、悲劇はここで終わらない。
次の研修先は急遽変更になった魔法省なのだが、ここは魔法や魔道具の研究、魔法や魔道具の規制や特許申請などを司る組織で、私以外のメンバーは研究機関への配属となり、私はというと・・・
「クララちゃん!!待っていたわ!!私は魔法省でも研究所の顧問として席があるのよ。そうそう、話は変わるんだけど、あのグラフってやつはいいわね。学会の発表も近いから、今日から泊まり込みで頼むわ!!」
キャサリン様からは逃げられなかった。
学会前ということで、無駄にテンションが高い。しかもゴンザレスの母親だけあって、魔力も体力も桁外れだ。私が倒れそうになっても、魔力回復ポーションを飲まされて無理やり働かされる。4日目からは記憶も曖昧になってきた。
そして、6日目・・・
「キャサリン様、少しトイレに・・・」
「キャサリン様なんて、他人行儀な呼び方は止めてよね。お義母様でいいわよ。クララちゃんとゴンザレスを卒業と同時に結婚させることにしたからね。それとトイレだけど、オムツを用意したから大丈夫よ。さあ、ラストスパートよ!!」
この辺で私の意識は完全に途切れた。気が付いたのは病院のベッドの上だった。枕元で私の両親にレベッカ様とフレッド様が平謝りしているのが聞こえる。
「母上が大変なことをしでかしてしまい、本当に申し訳ない。こんなことになるなら、クララ嬢を紹介しなければよかった」
「キャサリンは当面の間、マドメル魔法国に特別講師という建前で、国外追放にした。どうか今後とも我がドナルド家との関係はそのまま維持してほしい」
お母様が言う。
「頭を上げてください。まあ、今後このようなことがなければ、構いませんから」
後で聞いた話だが、私は非常に危険な状態だったようだ。スキルの使い過ぎで重度の魔力欠乏に陥り、ポーション中毒にもなっていたらしい。私が行方不明になったとの届出があって、キャサリン様の研究室に踏み込んだレベッカさんの発見があと少し遅れていたら、大変なことになっていたらしい。
それと検査の結果、短期間で重度の魔力欠乏とポーションによる回復を無理やり繰り返したことで、私の魔力量は飛躍的に伸びたようだ。これにキャサリン様が喰いついて、「そのデータを取ろう」と言い出したが、それはレベッカさん一家が必死で止めたという。
しばらくして、私が意識を取り戻したことに気付いたフレッド様が言う。
「クララ嬢、本当に申し訳なかった。なんでも言ってくれ。できることは何でもする」
私は少し考えてこう言った。
「ゴンザレスとは結婚しません」
★★★
~レベッカ視点~
本当に母上には困ったものだ。危うくクララ嬢が潰されるところだった。それにゴンザレスには可哀そうなことをした。アプローチもしていないのに振られるなんてな・・・私もジョージ兄上も婚期が遅れている理由の一つは母上だからな。
まあ、それは置いておいて、今日もいつもの会議が開かれる。メンバーはいつもの父上、兄上、ギールス子爵、私、ニヤついた男だ。早速父上から説明がある。
「ジョージが冗談で言い出したことが現実になるとはな・・・クララ嬢は本当に恐ろしい」
「ええ、法務省に派遣できなかったのは、ある意味残念でしたね」
「まあ、クララ嬢にそこまで求めるのは酷だ。それよりも今後のことだが・・・」
今回の事件で多くの者が検挙され、証拠資料も多数押収された。ここまで多くの者が拘束されることは、相手にしても予想外だったようだしな。暗殺しようにも数が多すぎるからな。
「父上、今回の事件はやはり、宗教絡みと考えて間違いないでしょうね?」
「状況証拠だが、今までに発生したロイター王国と魔族との紛争も、ケンドウェル伯爵領のゴタゴタも、今回の大掛かりな不正事件もすべて裏で糸を引いているのは、神聖ラドリア帝国で間違いはない。正式に抗議はせんだろうが、国として何かしらの対応を取らなければならん。ただ、全面戦争は避けたい。我らが戦争で疲弊している中、魔族に攻められたら、目も当てられんからな・・・」
兄上が軽口を言う。
「しかし、皮肉なもんですね。すべてクララ嬢が未然に防いでいる。神聖ラドリア帝国からすれば、工作活動が失敗した原因が、「雑用係」の普通の少女とは夢にも思わないでしょうね。どうせなら、クララ嬢を魔族領や神聖ラドリア帝国に派遣してみてはどうでしょうか?すべて解決してくれるかもしれませんよ」
「本当にそうなるかもしれんな・・・」
流石にツッコミを入れた。
「父上も兄上も冗談が過ぎます!!そんな人任せなところが、母上をつけ上がらせたのですよ」
「「申し訳ない・・・」」
その後、具体的な対策を練り、すり合わせをしたところで、ニヤついた男が報告を始めた。
「前に頼まれていたネスカの調査の件を報告いたします。間違いなくロイター王国のビーグル子爵家の三男です。ただ孤児院出身で、その優秀さを買われて養子になったようです。まあ、ロイター王国から我が国の覚えをよくするために送り込まれてきたことは間違いないでしょうが、今のところ変なことはしてませんね」
「他に気になることはないか?何でもいい、お前の独断と偏見でも構わん」
「そうですね・・・これまでずっと観察してきて、たぶんというか、間違いなくネスカの野郎はクララ嬢を憎からず思っていますね」
父上が反応する。
「それは一大事だぞ!!詳しく話せ」
「普段はクールな奴ですが、クララ嬢を見るときだけは違うんですよ。目に温かみを感じますね。派閥やなんかの活動では、何かにつけてクララ嬢と一緒になろうとする。ゴンザレスお坊ちゃまとクララ嬢が研修で、よく二人っきりになるときなんか、ゴンザレスお坊ちゃまを睨み付けてましたからね」
「ただでさえゴンザレスは分が悪いのに・・・キャサリンの件で大幅なマイナスだ・・・逆転の手はないのか?」
「あったら苦労しませんぜ・・・・」
しばらくして、会議は終わった。
しかし、クララ嬢の進路は何が好ましいのだろうか?
神のみぞ知るところだろう。
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