46 職場研修 3
野外実習はいつものメンバーでの活動となった。私とゴンザレス以外は、それなりに充実した研修ができているそうだ。野外実習は付近の山の山頂を目指した登山訓練で、3泊4日の行程で行われる。ここでも私たちの研修担当者はジャンヌ隊長だった。
「この実習では、食料の調達、寝床の確保、行程管理などの戦闘力以外の能力も必要になってくる。経験のないお前たちは地獄を見るだろうな」
この人は知らないのだろうか?私たちは定期的に冒険者の活動もしていて、野営なんて普通にできるんだけどな・・・・
ジャンヌ隊長の指示したコースを私たちは進む。そのコースは他の学生たちとは全く違うコースで、明らかに険しい。魔物も頻繁に出現する。
「リタイアするなら今のうちだぞ!!これからどんどん厳しくなるからな」
私以外のメンバーは体力がある。この程度なら何の問題もない。私はというと・・・・
「おい貴様!!何をしているんだ!!それは・・・その・・・ダメだろ!?」
「そのような規定はないと思いますが・・・」
私はロキが製作した橇に乗って、ゴンザレスに引っ張ってもらって移動している。この橇は特殊で魔石を取り付け、起動させるとホバークラフトみたいに風で少し浮き上がり、摩擦がゼロの状態になる。なので、楽々移動できるのだ。ネックはかなり魔石を消費するのだが、このメンバーには膨大な魔力を持つエスカトーレ様とゴンザレスがいるので、二人が魔力を補給することで解決した。二人にマジカルナッツを齧らせておけば、半永久的に起動できるからね。
難所を超えた私たちは、昼休憩を指示された。
「ここで昼休憩にする。すぐに出発するから、携帯食をそれぞれ食べるように。不味い携帯食を食べるのも訓練のうちだ」
指示を受けた私は橇から人数分の缶詰を取り出し、すぐにお湯を沸かして、缶詰を突っ込む。新製品のすじ肉カレー缶詰とご飯の缶詰だ。すぐに美味しいカレーが味わえる。すじ肉カレーはお母様がケンドウェル伯爵領で教えてもらったフルーツに漬け込むと肉が柔らかくなることからヒントを得て、硬くて人気のなかったすじ肉をメイン食材に使った栄養もコスパも高い商品なのだ。
美味しそうにすじ肉カレーを食べている私たちを羨ましそうにジャンヌ隊長が見ている。心優しいエスカトーレ様が声を掛ける。
「ジャンヌ隊長、いっぱいありますから一緒に食べませんか?」
「そ、そうだな・・・普段学生が食べている物を知るのも必要なことだからな・・・」
そう言ってすじ肉カレーを食べ始めたジャンヌ隊長だったが、「旨すぎる!!携帯食の概念が変わった!!」と叫んでいた。
更に行軍は続き、野営予定地点に到達した。
「ここで野営をしてもらう。夕食だが、持ち込んだ食材は使用禁止だ。調味料のみ使用を認める。自分たちで狩りをするなり、薬草を採取するなりして食材を確保しろ。クララ、缶詰を寄越せ!!没収だ。無理ならリタイアしてもいいのだぞ」
缶詰を没収された私たちだが、大して痛くはない。罠はいっぱいあるし、何たって「狩人」のジョブ持ちのレニーナ様がいるからね。
1時間もしない内に一角兎5匹と魔鹿1頭が捕獲された。すぐに調理を始める。
「一角兎は鍋に、魔鹿はステーキにしましょう。ネスカとゴンザレスは鍋に入れる薬草でも探してきて!!
ジャンヌ隊長、この食材で明日以降の保存食を作るのはありでしょうか?」
「許可しよう・・・」
鍋とステーキを作りながら、保存用の燻製肉も作り始めた。
料理が出来上がり、みんなで食べる。シンプルな料理だが、野外でみんなと食べるとなぜか美味しい。ジャンヌ隊長はというと、無言で一心不乱に食べていた。
しばらくして、ジャンヌ隊長が真剣な表情で頭を下げて、私たちにこう言った。
「私の負けだ・・・クララ殿、ゴンザレス殿、非礼を詫びる。それで頼みがあるのだが、すぐに下山してくれ!!この通りだ!!」
★★★
いきなりのことに私たちは呆気に取られる。エスカトーレ様が代表して質問をする。
「頭をお上げください。まずは事情を聞かせてください」
「恥ずかしい話だが、そちらのクララ殿のお陰で、我が第3騎士隊が長年不正に手を染めていたことが判明したのだ。嫌がらせで命じた倉庫整理が、まさかこんなことになるとは思わなかったがな・・・」
ジャンヌ隊長が語る内容は衝撃的だった。
ジャンヌ隊長が第3騎士隊長に就任したのは昨年、それ以前から横流しや数々の不正が行われていたという。手口の一つを挙げると、訓練用の鉄剣を廃棄処分にする際に新品の鉄剣も大量に廃棄処理する。実際は廃棄せずに息の掛かった業者にタダ同然で引き取らせる。そして、その業者に費用を水増しして新品の鉄剣を納品させるのだ。最近ではバレないと高を括ったのか、帳簿上のやり取りだけで、誤魔化していたという。
まあ、倉庫があんな状態だとやり放題だからね・・・・
「まだすべてを把握できていないが、物品の横流しだけではない。他にも不正は横行しているようだ・・・」
これにはミリアが反応する。
「斥候部隊も気になる点がありますよ。資材は旧式で、申請してもなかなか配備してくれないと嘆いていました。騎士団にしたら、そんなに高い資材でもないし、隊員も不思議がってましたね」
レニーナ様、エスカトーレ様も続く。
「弓兵隊もですね。矢の質が悪すぎますね・・・騎士団が使うレベルではないですね」
「魔導士隊は魔導士団からの出向組が多いのですが、魔導士団に比べて設備が悪すぎるとぼやいてました。同じくらいの予算が下りているはずなのにおかしいとも・・・」
「そういうことだ・・・これは私の責任だ。すでに騎士団長には経緯を説明し、辞表も提出している。ただ、どうしてもこの手で落とし前を付けたい。すでにジョージ殿が率いる第4騎士隊とレベッカ直属の冒険者が協力してくれることになっているがな」
ジャンヌ隊長は一旦言葉を切った。
「だから、この野外実習を利用することにしたんだ。さっきも言った通り、先代の隊長も絡んでいるとみていい。だから、今の状態で関係者を拘束してもトカゲの尻尾切りにしかならない。容疑者にはこの野外実習が終われば、倉庫の監査を行うと通知している。普通に考えればこの実習期間中に何かしらの工作をするだろう。丁度その容疑者は明日が、当直責任者だからな。明日の夜に何か事を起こす可能性が非常に高いのだ。容疑者にしてみたら、その日私は山頂にいると思っていて、緊急の連絡を受けてもすぐに下山できないと考えているはずだ。
だから、君たちに迷惑が掛からないように今日中にリタイアさせて、帰還する予定だったのだが、君たちは、私の予想を遥かに超えていたからな。無理な要求をして悪かった。謝罪しよう」
エスカトーレ様が言う。
「私たちも協力致します。こういったことは慣れっこですのでね。みなさん、それで構わないでしょうか?」
まあ、そうなるよね・・・・
私たちはすぐに下山の準備に取り掛かるのだった。
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