44 職場研修
ダミアン王子の心配がなくなったところで、職場研修がスタートした。今年からカリキュラムが少し変更されて、自分が希望する職場ではなく、学園側が指定した研修先を概ね2週間前後で回らせるらしい。また、班ごとのローテーションで、この職場研修もいつものメンバーで研修をすることになった。
最初に訪れたのは、勝手知ったる冒険者ギルドだ。早速、レベッカさんに指示を受けにいく。
「研修に来てくれて、ありがたく思うぞ。早速、質問だがクララ嬢、このギルドが抱えている問題は何かな?」
「そ、それは・・・」
「クララ嬢が分からないわけがないだろ?」
「は、はい・・・未処理依頼の処理ですか?」
「そうだ!!君たちにはそれをやってもらう」
やはりそうか・・・冒険者ギルドのアルバイトを通じて、それが問題になっているのは知っていた。これに手を付けると週1回のアルバイトでは時間が足りないと見て見ぬふりをしていたのだ。その結果がこれか・・・
それから指示を受け、未処理依頼の束を渡された。
ミリアが愚痴る。
「よくまあ、これだけ溜めたものね・・・まあ、どれも報酬が安いわりに手間が掛かる。私が冒険者でもやろうと思わないわ。それにほとんどがFランクEランクの仕事だしね。昇格に必要な評価ポイントもあまり入らないし・・・」
「そうだよね・・・解決策はあるにはあるんだけど・・・」
どれも決定打にはならないが、それなりの対策はある。冒険者に強制的に受けさせたり、報酬を引き上げたりなどがあるが、どれもデメリットがあり、アルバイトの権限ではやるべきではない案件だ。冒険者に強制的に受けさせれば不満が溜まるだろうし、報酬を引き上げるにしても限度がある。まあ、どの世界、どの業種でも直面する問題で、根本的な解決策はないだろう。
結局は地道にやるしかないのだ。
そうはいっても少しは楽をした。ロキに頼んでドブ掃除用の魔道具を開発してもらったり、一角兎の駆除では、コスト度外視で罠を張り巡らせたりした。2週間でかなりの数の未処理を処理できた。どの依頼もやる気と根気があれば、誰にでもできるものだったが、依頼者にはものすごく感謝された。レベッカさんが、研修の最後に言葉を残してくれた。
「予想以上の成果だ。礼を言う。それで、今回やってもらった仕事だが、多くの依頼者に感謝されたと思う。ギルドはそんな依頼者のお陰で成り立っているといっても過言ではない。ランクが上がり、討伐依頼ばかり受けるようになると、依頼者の顔を見ないようになってしまう。だからこそ、低ランクのうちはこういった仕事を優先的に回しているんだ。これから君たちがどんな仕事に就いても、君たちの仕事が誰かの役に立つことになる。必要のない職業なんてないんだ。
少し偉そうなことを言ってしまったが、これは私が駆出しの頃に尊敬する冒険者の先輩に教わったことなのだ」
これには心を打たれた。特に雑用ばかりやらされていたOL経験者の私としては・・・・
OL時代の私の仕事も、きっと誰かの役に立っていたはずだ。
★★★
冒険者ギルドでの研修を終えた私たちは、次の研修先に向かった。何と我がベル商会だった。お父様に挨拶に行くとこう言われた。
「実はウチや商業ギルド、他の商会などが合同で、ケンドウェル伯爵領のPRイベントで、ちょっとしたお祭りをするのは知っているよね?その企画を手伝ってほしいんだ。もちろん運営のすべてを取り仕切れってことじゃない。祭りで屋台を出したり、ちょっとしたイベントを企画したりしてほしいんだ。申請すれば、商業ギルドから補助金が出るし、祭りの最後には売り上げに応じて表彰もあるからね」
私はお父様に質問した。
「それが研修ってこと?それにしても大盤振る舞いね・・・素人の学生がやったところで、ほとんどの学生は採算が取れないと思うんだけど・・・」
「そう思うのも無理がないけど、我々にもメリットがあるんだ。これが分かるのはミリアさんくらいかな?」
ミリアが答える。
「汚い話ですが、学生の大半は貴族です。その子弟が出店するとなると、貴族のプライドに懸けて追加で融資するでしょうし、その関係者だけで多くの来場者が見込めます。補助金を少し出すくらいなら、十分回収できます」
「そのとおりだよ。だから、思い切って好きなことをやりなさい。それがウチでの研修になる。因みにこの後の商業ギルド、ギールス商会の研修もそれになるからね」
早速、みんなで意見を出し合った。
情報によると伯爵家三人娘は、実家の資金を大量に使って栗鼠人族を雇い、「リスリスカフェ」なるものを企画しているようだ。栗鼠人族は愛くるしく、成功間違いなしだろう。
ベル商会は熊肉カレーの出店、ギールス商会は貴族向けの高級サマス料理で勝負する予定らしく、私たちが食品関係で勝負するのは難しい状況だった。
ミリアが言う。
「私も栗鼠人族のカフェは考えていたんだけど、三人娘の熱量と資金力には勝てないしね・・・」
エスカトーレ様も・・・・
「私としては、食品関係で勝負したかったのですが、ベル食堂のメニューに少しアレンジするだけになってしまいますね。それなりに売れるとは思うのですが・・・」
なんか高校の文化祭の話し合いに似ていると、ふと思った。これも時が経てば、いい思い出になるんだよね。
そんなことを思っていたら、こんな会議では一切発言しないゴンザレスが提案を始めた。
「ナダス大会をしよう!!熱い戦いが祭りを盛り上げる。この日のために俺は鍛錬をしてきたんだ」
これにはミリアがツッコミを入れる。
「それってゴンザレス様の趣味でしょ?」
しかし考えてみれば、そこまで悪い案ではない。
「費用は場所代と会場設営費くらいだしね。ほとんどが立見だから場所さえ確保できたらいいわね。後は賞品だけど・・・」
「それくらいなら我がウィード公爵家が出せると思います。金貨1000枚を出せというわけではありませんし、優勝カップにウィード公爵家の名が刻まれていれば、お父様も喜ぶでしょうし」
ネスカが仕切り始める。
「じゃあ、ゴンザレスはナダスの普及だな。参加者を募らないとね。場所の押さえはミリア、協賛してくれる貴族や商会への説明はエスカトーレ様とレニーナ様にお願いしますね。運営や何かは僕とクララでやりますよ」
これには皆が賛成した。
しかし、ネスカってこんなに積極的な奴だったっけ?
このゴンザレスの思いつきの企画だったが、思わぬ結果を招いてしまう。ゴンザレスや冒険者のクマルさん、ベアルさんが地道に騎士団や傭兵団、冒険者にナダス講習を行ったところ、大流行したのだ。そして、協賛してくれる貴族や商会がこぞって名乗りを上げ、更には王家からも出資が決定した。そうなると普通の場所で開催なんて無理で、国立闘技場で開催が決定してしまった。
当然、私たちだけでは手に負えなくなる。お父様に相談すると「ベル商会だけでは無理だ」という話になり、商業ギルドが運営することになってしまった。
もちろん、私にはかなりの量の雑用が降りかかってきたのは言うまでもない。
大会の結果だが、結論から言うと大成功だった。闘技場は連日超満員で、入場料収入だけでも莫大なものになり、これにギャンブルの収益も加えたら、商業ギルドの予算の3年分の収益があったという。大会は幼年の部、少年の部、女性の部、成人の部、団体戦の5部門で、幼年の部は私たちがボランティア活動で指導しているスラムの子が優勝、少年の部はゴンザレスが圧倒的な強さで優勝をした。
更に女性の部は、決勝で女性騎士を栗鼠人族の冒険者のリタさんが投げ飛ばして優勝し、三人娘が感動のあまり気絶する事態になった。
成年の部はクマルさんとベアルさんの兄で、不動のチャンピオンのグリズルさんとゴンザレスの兄のジョージ様が死闘を繰り広げ、僅差でグリズルさんが優勝となり、団体戦はジョージ様率いる第4騎士隊が雪辱を果たして優勝となった。
大変な盛り上がりを見せ、国王陛下が「毎年開催せよ」と指示されたので、毎年開催が決定してしまった。
当然だが、学生の売り上げランキングは2位の「リスリスカフェ」を大きく引き離して、私たちがダントツの1位となった。授賞式のとき、三人娘は騒いでいたけどね。
「今年は負けましたが、来年は見ていなさい」
「私たちが負けたのであって、栗鼠人族が負けたのではありません」
「リタさんが優勝しましたし、来年は全部門栗鼠人族が優勝しますわ」
アンタら、栗鼠人族じゃないだろう!!それに来年は卒業しているじゃないか!!
三人娘は、祭りを盛り上げてくれたし、ツッコムことはしなかった。
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