41 野外実習 3
とうとう栗鼠人族の里に襲撃者がやって来た。レベッカさんから通信の魔道具で報告が入る。
「こちらレベッカ。敵さんが拠点を出発したぞ。重装歩兵が100、軽装歩兵が50、弓兵20、魔導士10といったところだ。危なくなったら躊躇せずに撤退してくれ」
「クララです。了解!!皆さん敵がこちらに向かってます」
しばらくして、監視地点からも報告が入る。
「A地点通過。数は報告のとおり。重装歩兵は大楯を装備している」
「クララです。了解」
すぐにネスカとエスカトーレ様に報告する。
「敵も対策を取ってきたってことだね。でもアレがあれば大丈夫だ」
「分かりました。私は魔法に専念します。指揮権はネスカさんに委譲します」
今回はエスカトーレ様は指揮に当たらずにネスカが指揮官になる。急遽のことで、皆了承してくれた。戦闘職の者は、ネスカの能力に薄々気付いているからね。
しばらくして、目視でも見える距離まで敵が近付いてきた。敵の陣形は重装歩兵を前面に出し、続いて軽装歩兵、弓兵と魔導士の順になっている。
「予想通りだな。スナイパーボウガン対策はしっかりしてきたようだけど、それだけだ。こんな森林地帯で、そんな重装備だと、スナイパーボウガンは防げてもなあ・・・」
「でも敵の立場に立つと仕方ないと思うわよ。だってスナイパーボウガンを大量に配備し、油断しきっていると思っているからね」
「ああ、そうだな。それにしても上手くいったと思うよ。情報戦では完封状態だ。じゃあ、クララそろそろ頼む」
「了解!!「ドロドロ君2号」起動!!」
私は罠のスイッチを押した。「ドロドロ君2号」とはグレートボア討伐作戦で使用した土を泥状にする罠で、前回のデータを元にして改良を加えたものだ。突進してくる魔物には効果があるが、対人戦ではそれほど役に立たないと思われていたが、ネスカが言うにはこの状況では絶大な効果があるというので採用されたのだ。
栗鼠人族にはロキ特製の罠は人気があり、試供品として多めに持ってきておいてよかったと思う。
罠を起動させてすぐに重装歩兵が罠に嵌る。かなりの重装備なので、罠を抜け出せずにもがいている。こうなったらこっちの物だ。ネスカが指示をする。
「投石開始!!投石部隊は重装歩兵を狙え!!
弓兵は魔導士、弓兵を狙え!!魔法部隊は援護だ!!」
ネスカの指揮に合わせて、ゴンザレスと熊人族が中心となって投擲を始める。石というより、もはや岩だ。ゴンザレスや熊人族のパワーには驚かされる。そんな岩がどんどんと飛んでくるのだから重装歩兵部隊は大混乱だ。
「ウィンドブラスト!!」
エスカトーレ様が突風を巻き起こし、相手の弓兵を無効化すると同時に弓兵隊が一斉射撃を始める。相手部隊は大混乱だった。それはそうだろう。圧倒的な重装歩兵で蹂躙できると思っていたのだから。それに相手の軽装歩兵の練度は異常に低かった。素人の私が見ても寄せ集めにしか見えなかった。
ネスカが言う。
「軽装歩兵は、荷物運びで連れて来た奴らだろうな。栗鼠人族が撤退したら、持ち出せる物は全部持ち出せとか言われていたんだろう」
しばらくして、敵が撤退を開始した。
「投石部隊!!丸太をぶん投げてやれ!!
エスカトーレ様!!丸太を投げ終わったら頼みますよ!!」
投石部隊が丸太を罠に嵌った重装歩兵隊に二人一組で投げつけている。そこにエスカトーレ様が魔法を放つ。
「ナノトルネード!!」
無数の小さな竜巻が重装歩兵隊を襲う。投石部隊が投げた岩や丸太が宙に舞い、それがまた重装歩兵隊を襲う。運よく罠に嵌らなかった重装歩兵も丸太の下敷きになっていた。火魔法で丸焼きにする案もあったのだが、環境保護を考えて、この魔法を選択したようだ。
「追撃部隊は追撃開始!!」
エルフと栗鼠人族で構成された部隊が器用に木の上を飛びながら、追撃を開始する。敵部隊は、戦術的な撤退などできるわけもなく、木の上から一方的に矢で射られていた。しばらくして、報告が入る。
「こちらA地点、敵部隊は残り約10名、拠点に向けて撤退中」
私はネスカに合図を送る。追撃中止だ。
「了解!!追撃部隊は追撃中止!!
クララからレベッカさん!!約10名が拠点に向けて撤退中!!こちらは追撃を中止」
「レベッカだ。了解した。捕縛部隊が向かうまでは、拠点からは出るなよ。それと盗賊だから捕虜扱いはしなくていいから、迷ったらぶっ殺せ」
物騒な指示だ・・・
私はネスカに指示を伝える。
「撤退したが油断するな。変な動きを見せたら迷わず撃て!!指示があるまで、警戒態勢を維持!!」
まだ戦闘は終わっていないが、少しほっとした。後は、レベッカさんが派遣してくれる捕縛部隊を待つばかりなのだが・・・
そんなとき、問題児の伯爵家三人娘が暴挙に出る。スナイパーボウガンを乱射し始めた。
「皆殺しですわ!!」
「栗鼠人族の仇!!」
「みんな死ねばいいのですわ!!」
流石のネスカも呆気に取られていた。この作戦は皆殺しを目的にしてないし、栗鼠人族も死んでいない。
しばらくして、三人娘の矢が尽きたところで、捕縛部隊が到着した。ネスカも三人娘を制止する。すぐにレベッカさんからも報告が入る。
「拠点の制圧も完了した。アクツール商会長も家令のワルスも確保したぞ。奴ら、お宝を今か今かと楽しみに待っていたようだが、命からがら逃げて来た部隊員たちを見て、青ざめていたからな。クララ嬢にも見せてやりたかったぞ」
その後、報告を受けたケンドウェル伯爵が急いでやって来て深々と頭を下げて、お礼を述べてくれた。ケンドウェル伯爵は自分も先頭で戦いたかったようだが、相手を騙すために戦闘には参加できなかった。本人はかなりもどかしかったと言っていた。
★★★
ケンドウェル伯爵領の危機を救い、王都に帰還した私たちだったが、全員が王城に集められた。何と勲章が授与されたのだ。
私やミリア、ネスカ、それから一般の参加者はブロンズスター勲章を授与され、一部のメンバーにはシルバースター勲章が授与された。
まずは代表のエスカトーレ様、ナンバー2で尽力したレニーナ様、家柄と誰よりも力仕事をした功績でゴンザレス、そして驚くことに問題児の伯爵家三人娘も受賞しているのだ。
伯爵家三人娘は親のコネではなく、ある意味実力で勝ち取ったのだった。というのも三人娘は、襲撃後も栗鼠人族と行動を共にして、素材採取に明け暮れていた。なぜかミスリルやアダマンタイト、それに希少なキノコや薬草を大量に採取できたのだ。周囲からは「トレジャーハンター」のジョブ持ちではないかと噂されていたくらいだ。
そして、その採取した素材を学園や魔導研究所、王家に寄贈し、今回のシルバースター勲章の受賞となったのだった。
少し納得のいかないこともあるが、これで私たちの野外実習は大成功で終わったとしておこう。
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